第20話




 ロワード・メンテール。クローティアでメンテール商会をやっている商人。表向きは生活雑貨などを扱っているが裏では盗賊や人攫いからの違法奴隷を販売している。今までは成人の奴隷を取り扱っていたため目を付けられることはなかったが最近成人前の子どもを取り扱うようになったため抹殺対象になった。


「子どもに手を出すとか……馬鹿なことをしたよね」


 クライからの手紙を読んで2日後。私はクローティアのスラムで呆れたように呟いた。この国は別に奴隷を禁止にはしていない。借金が払えなくてなる借金奴隷や犯罪を犯してなる犯罪奴隷がいるからね。攫って無理矢理奴隷にする違法奴隷はアウトだけど……奴隷になってしまうと合法か違法か分からなくなってしまうので殆どが黙殺されてしまう。だけど完全にアウトなのが子どもの奴隷。


 これはちょっと宗教が交わるんだけどもこの国で信仰しているのは大地の神様で、この神様は子どもの守護者とも言われている。そのためこの国は私の居た変な慣習のある村とかではない限り子どもへのケアが手厚い。スラムの子だって孤児ならどこかしらの孤児院に所属している……


(孤児院に入れば衣食住は保証されるけど……スキルの訓練とかできないからね。だから私は山籠りしたんだし)


 とりあえず話を奴隷に戻す。とにかく子どもを大事にするこの国で子どもの奴隷なんてのは関わったやつ全員牢にぶち込まれるか首を物理的に斬られるほどの大罪。その分神を恐れないヤバい貴族とかが高値で買おうとするんで手を出す悪人が多いんでイタチごっこのようになり、発覚次第騎士や裏ギルドの構成員によって速攻潰しにかかる。神の怒りは買いたくないからね……この世界マジでいるから。


(そういえばあの神様……出会わないといいなぁ……)


 ゲームの時にちょっと面倒な神様に目をつけられてたからね。できれば会いたくない……精神的にすごい疲れる神様なんだよ。


「神のことは考えても仕方ないから神出鬼没だし……えーと、現状盗賊と人攫いの奴らは全員処理終了。あとは奴隷商人のロワードだけ」


 ロワードの家族に関しては奴隷商のことは知らないという裏付け調査がされてるから殺さなくてよし。護衛に関しては裏の人間が複数いるけど……そいつらは始末しなくても良い。無力化してれば後で回収するとか。


(さて、それじゃあ初仕事を始めますか)


 私はフードをしっかりと被り静かにスラムを駆けていく。ロワードのいるのは壁の内側の商業区なのでまずは壁の向こう側に行かなくてはいけない。門は閉まっていて壁の上には巡回の兵士もいるけど……


「ここだね」


 私は壁に密着するように作られた建物に入った。建物の中は無人で簡素なベッドとテーブルがあり、ほぼゴミのガラクタが結構積まれている。


カタカタ……ガコ


 私はガラクタを退かして床の一部を弄った。すると床板が外れ人間1人分の穴が出てくる。私はその穴の中へ潜り込み這って移動し、1番奥まで進んで上に上がり枯れ井戸から顔を出した。


(侵入成功。裏ギルドの侵入ルート相変わらず狭かったけど)


 子どもだったから割とスムーズだったけどね……他にも侵入ルートはあるけど商業区に1番近いんだよね。


(ターゲットの家は……ここから7ブロック先か)


 私はターゲットの家の位置を再度確認し路地裏を通って近づいた。ターゲットの家はそこそこ大きく3m程の塀に囲まれている。そしてよく見ると近くの路地裏に護衛の男が隠れているね……全部で3人か。中に居るかどうかわからないけど外はそれだけみたい。


(1人ずつ無力化しよ)


 私はまず路地裏に近いところにいる男の背後に回った。そして他の2人がこっちを見ていない隙を突き首筋に短剣の持ち手の方で重い一撃を叩き込んだ。


「ゴゲ……」


 男は変な悲鳴を溢しつつ気絶した。私はそのまま男を路地裏に引き込むと口に麻痺毒を流し込んで近くに酒瓶を置いた。これで一見ただ酔いつぶれて倒れた人の完成。


(他の奴らも同じように……)


 私はその後残りのやつも不意打ちで気絶させて無力化していった。1人タフで一撃で気絶しなかったからちょっと焦ったけどね……こめかみに2撃目叩き込んで眠ってもらったけど。

 

(次は塀の向こう側……本命だね)


 私は《跳躍》で上がっているジャンプ力で壁キックし塀を越える。そして素早く物陰に隠れて様子を伺う。


(護衛は……居なさそうだね。まぁ、大商人じゃないみたいだし)


 大商人や貴族になると中にも護衛が居たりするんだけどね。やっぱり温い仕事……


(気配としては一階は0人……2階に4人居るけど2人分の気配は小さいから子どもだね。残りの2人は別々で活発な方がターゲットかな)


 モンスターたちと比べて人……それも素人の気配は読みやすいね。私は近くの扉に向かい鍵がかかってるか確認する。


「あっ、普通に開いてる……無用心過ぎる」


 まぁ、ピッキングしなくて済んだからいいか……《鍵開け》持ってないから自力でやらなきゃだったし。


(後で適当に南京錠買って《鍵開け》覚えとこう……)


 私はススス……と静かにターゲットの元に向かう。ゴキ◯リみたいだなって思ったやつは殺す……


(この部屋だね……)


 私はスッ……と静かに扉を開けて中を見る。中には小太りの中年の男がペラペラと書類を見ていた。あいつがターゲットのロワードだね。


「グフフ……やはり奴隷は金になる。貴族は子どもの奴隷に馬鹿みたいに金を出すから良いカモだ」


 ロワードは笑いながらそう溢していた。発言から黒確定だね……さっさと殺そう。聞いててイライラするし。


ギィィィ……


「ん?扉がちゃんと閉まってなかったか?」


 私がわざと音を出して扉を少し開けた。ロワードは警戒もせず扉まで歩いてくる。


「ふーむ、立て付けが悪くなったのなら直さんと……」


 ロワードは扉を動かして独り言をぶつぶつと言っていた。私は暗がりからその背後に忍び寄り首筋に一撃入れて気絶させた。


「うっ……」


 私は倒れるロワードの服の襟を掴み部屋に引き摺り込む。扉を閉めたから音も漏れないはず……


「そんで後はこれを飲ませて……」


 私は気絶しているロワードの口にある薬を流し込む。これは強心剤で心臓が止まりそうな人に飲ませるもの……これは2倍に濃くしているから普通の人に飲ませれば心停止させるものになってるけどね。ゲーム中だと飲んでおけば死んだ際に1%の確率で復活できるアイテムなんだけどね。正直これ飲むくらいなら10%のやつ飲んだ方が良いんだよね。


「これで後は適当に度数の高い酒を置いて……よし、偽装完了」


 見た目からして不摂生が原因で死んだ風に見える。この世界こういう風に偽装しておくと病死って扱われるんだよね。


「あとは奴隷関係の資料を回収してと……」


 私は部屋を漁り奴隷の売買に関係する資料を探した。記録があれば買った貴族を特定して潰しに行けるからね……マジで子どもの奴隷への制裁はヤバい。


「それじゃあ帰りましょ」


 目的を果たした私は屋敷を後にした。そしてクライに指定された場所に報酬を貰いに行った。



「お疲れ様です。姐さん」


「どうも。はいこれ商人のところから回収してきた資料」


 スラムの一角でクライと合流した私は早速持ってきた資料を渡した。クライは資料をペラペラと捲って確認し懐に入れた。


「病死に見えるように殺してきた。あとはそっちでやってね」


「わかりました。こちらとしてもあの商会が無くなるのは面倒だったのでありがたいです」


 なんでもメンテール商会は生活雑貨メインの店としてはかなり大きい商会。下手に潰れるとクローティアに混乱が起きるんで潰れない方が都合が良いらしい。欲で違法奴隷なんぞに手を出さなきゃ贅沢しながら長生きできたのに……


「で、報酬は用意できてる?ナイトスパローで送ってあったけど」


「こちらです」


 私はクライから硬いものが入った革袋を貰う。そして中身を確認した。中にはかなり大きい闇属性の魔石が2個入っている。


「ご要望の中級魔法を覚えられる魔石2個です……正直本来の報酬金より金額的には少ないのですが」


「別にいいよ。それにこの前剣破壊しちゃったからね」


 私は魔石の袋をポーチに入れる。これでようやく中級の魔法に手が出せるね……


「ところで……中級の魔法って何習得するんですか?姐さんのことだから付与系でしょうが」


「あー、習得するのは別に変わった奴じゃないよ。【プレイグ】と【ヒュプノス】取得するだけだから」


「うわぁぁ……それエゲツない付与じゃないですか。俺と戦っていた時に使われなくて良かった」


 私が魔法名を伝えるとクライは顔を引き攣った。中級の付与魔法で病を与える【プレイグ】と眠気を起こさせる【ヒュプノス】……この2つがあれば私は強くなれる。


「ふふふ……」


「俺ヤバい人にヤバいもの渡しちゃったかな……被害に遭うやつは気の毒だ」


 狭い路地裏で私の笑い声とクライの溜め息が小さく木霊した。


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