第12話



コンコンコン


 新しい装備を手に入れて数日後、私家の屋根に板を乗せていた。板と骨組みを樹液と皮を煮て作った膠を混ぜた接着剤もどき補強し釘で固定した。ただ板を固定しただけだとどうしても隙間ができてしまうから何層にも板を重ね隙間を接着剤もどきで埋めることで水漏れしにくくもしている。


(モンスターの皮って膠作りやすいんだよね……ゲームの時も良く使ってたし)


 獣系からじゃないと取れないのが難点だけど。モンスターの強さで膠の質が左右されたりしないから安定性はあるんだけどね。


(スキルも増えたしね……変なやつとか)


 今のステータスがこんな感じ。


ーーーーーー

アンlv30

魔人

暗殺者

HP:88

MP:107

スキル

《不意打ち・Ⅲ》《急所突き・Ⅲ》

《隠密・Ⅴ》《忍び足・Ⅴ》《暗視・Ⅳ》

《柔軟・Ⅳ》《体幹・Ⅳ》《跳躍・Ⅳ》

《受け身・Ⅳ》《運搬・Ⅳ》《持久力・Ⅲ》

《陽動・Ⅲ》《無心・Ⅳ》

《薬学・Ⅱ》《罠術・Ⅱ》

《毒耐性・Ⅲ》《麻痺耐性・Ⅲ》

《病気耐性・Ⅳ》《苦痛耐性・Ⅴ》

魔法

【コロージョン・Ⅲ】

【ノイズ・Ⅲ】


新規スキル

《日曜大工・Ⅱ》

木や石などの素材を加工しやすくなる

特殊な素材は適用外

《狙撃・Ⅱ》

遠距離攻撃によるブレを抑制する

《早撃ち・Ⅱ》

矢やボルトを装填しやすくなる

《潜伏・Ⅱ》

動かず隠れている間バレにくくなる

《人殺し・Ⅰ》

人に対してダメージが増加する

人を殺すことに忌避感が薄れる

《高所作業・Ⅰ》

高いところで行動する時、バランスを取りやすくする

《縮地・Ⅱ》

一時的に高速で直線的に移動する。任意発動可

ーーーーーー


 相変わらずごちゃごちゃしてるステータス……ゲームの時と比べて必要なものだけあるからマシだけど。


「ふぅ……完成っと!」


 ステータスのことを考えながら最後の1枚を固定し終えた私は額の汗を拭いながら屋根から飛び降りる。拠点の建て直し……3週間近くかかったけれど寒くなる前に終わって良かった。


「途中で囲炉裏を作ったりしたから地味に時間かかったね」


 ただこれで問題無く冬を乗り越えられる……

保存食も並行で溜め込むことができた。毛皮も売る分を除いて確保してある。不安なのは薬かな……


「ちゃんとした家ができて設備を置くことができるようなったけど、季節的に薬草が減るんだよね」


 乾燥させれば長持ちさせられるけど……乾燥させると用途が減るんだよね。とはいえ今薬を作ったらスライムコアを入れたとしても冬を超える前に使えなくなる。


「とりあえずいくつか乾燥させておこう。あと薪も集めなきゃ」


 しばらくは余った木材でなんとかなるけど冬を越すには沢山必要だからね。保存食もまだまだ溜め込みたいし。


「家建てたのに忙しいのは変わんないや……」


 もう1人私が居ればいいのに……あはは。私はちょっと困ったように笑った。







 その日の夜にあんな出来事が起こると知らないで。



ヒュゥゥゥ……


 夜。出来立ての家の中に居ると外から風の音が聞こえてきた。今日は風がそこそこ吹いてるね……外も曇っていて星が見えなかったし明日の天気は雨かな?


「建て終えて良かった……あっ、そういえば肉干しっぱなしだったね」


 風が強くなったら飛ばされるかもしれないからね。私は扉を開け外の干し肉を回収しようとした……その時。


「ん?煙の臭い?」


 外に出ると煙臭さを感じた。火の不始末……いや、ちゃんと土で埋めて消したからそれはない。


「風に乗って来たのかな?」


 風は村の方から来てるけど……私は近くの木に登って風上を見た。すると私の視界に入ったのは。


「村が……燃えてる」


 炎で燃えあがり煙を巻き上げている村だった。かなり派手に燃えてる……


「何があったの……火の不始末にしても範囲が広すぎる」


 放火でもされたのかってくらい燃え広がってるからね。とりあえず様子を見てこよう……下手すると山火事になってこっちにも被害が出るし。私はクロスボウなど狩りの時に使うものを持って山を駆け降りて行った。


(山が静か……モンスターたちが活動してない?)


 まるで息を殺して何かに見つからないようにしているような……山頂付近とは違い村側の方は弱いのモンスターしかいないから何かヤバいモンスターが降りて来たって感じ。


(村の異変もそいつが原因か。火を使うモンスター……嫌な予感がする)


 あいつが遂に人を……私は頭の中に浮かぶ不吉な考えを抱えながらも急いで山を降っていぬ。そして村に辿り着いた。


「これは酷いね……」


 久しぶりに間近で見た村は炎で包まれ地獄のようになっていた。炎の燃え盛る音に人の悲鳴が乗って広がっていく。


「「ガロロロロ!!!」」


 炎と悲鳴を掻き消すようにモンスターの……ダブルヘッドパンサーの咆哮が響き渡った。


(やっぱりあいつか……)


 もう人を襲い始めた……少なくとも餌の減る冬からだと思ってたけど予想が外れた。私はそんなことを思いながら咆哮の方へ駆けていった。

 

「「ガァァァァ!!!」」


「ひぃぃぃ!!」


「た、助けてくれぇぇ!!」


 ダブルヘッドパンサーは村の教会のところにいた。教会は石造りだから火事にはなっていなくて村人たちの避難所になっているようだった。教会の周りには武器や農具を持った大人が何人も血を流して倒れている。あれと戦おうとしたのか……


(無茶なことを……ただの村人が勝てるわけがない)


 ダブルヘッドパンサーはlv50のベテランでも数人がかりで倒すモンスター。村人なんておつまみ感覚で殺される。


(何人かは喰われてるか……恐らく今は生き残ったやつを食べようとしてる感じだね)


 教会も石造りで燃えないとはいえダブルヘッドパンサーの攻撃に耐えることはできない。その内壁が破壊されて中に居る村人は皆死ぬ。


(村が滅んだら私の方か……確認できたしもう帰ろう)


 村が滅びようが知ったこっちゃない。ザマミロとしか思わないからね……私はそう思って村を去ろうとした時だった。ガタン!!という音が近くから聞こえた。チラッと見てみるとそこには頭巾を被った私より少し幼い女の子がいた。


(逃げ遅れたのか……と、ダブルヘッドパンサーが気づいたか)


 ダブルヘッドパンサーが教会を破壊するのをやめ女の子の方へにじり寄っていく。


「「ガロロロロ……」」


「ひぅ……」


 女の子は腰が抜けてしまったのか動けずにいた。ダブルヘッドパンサーは嗜虐を含んだ笑みを浮かべじわじわと近づいていった。


バサ……

 

 強い風が吹き女の子の頭巾が飛ばされた。女の子の顔を見て私は動きが止まった。


「あの子……確か私の家の隣の子じゃ……」


 親が私の両親と仲が良かった家の子。他の村人が私のことを差別してた時もあの家だけはこっそり助けてくれた。あの子とも少し交流はあった。名前は……村に居た時の記憶はあやふやな部分があるから思い出せない。とりあえずよく腕とか首を甘噛みしてくる子だったね。


(知人……それも良い人とはね)


 見捨てたら死んだ両親に怒られる。仕方ない助けるか……あいつと戦うことになるだろうけど。


「暗殺者としては失格……人間としては合格ってとこか」


 私はフードをしっかりと被り《跳躍》《縮地》を使って一気に跳ぶ。そして今にも喰われそうになっていた女の子を抱えて屋根に再び飛び乗った。


「「ガロロロ!?」」


「えっ……えっ?」


 いきなり目の前から獲物が居なくなったダブルヘッドパンサーと助けられた女の子が驚いたような声を出した。


(人も《運搬》の対象内なのか……軽い)


 私はとっとこ走って女の子を教会前まで運んだ。ダブルヘッドパンサーはまだこっちに気づいていない……予想外過ぎて考えが追いついてないのか。もしかして人との戦闘経験が浅いのか?


「お姉ちゃん……生きてたの?」


「……あとは中の人にどうにかしてもらいなさい。私はあれどうにかするから」


「う、うん……」


 私は女の子を下ろしクロスボウを手に持ちながら指示を出した。女の子はまだ何か言いたげだったけど小さく頷いて教会に向かっていった。


「ガロロロロ……」


 教会の扉が開いた音でダブルヘッドパンサーもようやくこっちに気がついた。獲物を横取りされたからか少し怒っているようだった。


(さっきの《跳躍》と《縮地》の合わせ技……足の負担が大きいから足にダメージが入ってるんだよね)


 特に感覚開けずに使うと特にダメージが溜まる。2連続はあと1回限りかな。まぁ暗殺者らしく戦おう……隠れてジワジワとね。


「「ガァァァァ!!!」」


「私の安寧のために死んでくれ」


 暗殺者としての初仕事……お前をターゲットにしてあげる。


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