第10話



「おう、来たか……って、どうした?隈がすごいぞ」


「少し徹夜を……体調には然程問題は無いです」


 職人さんのお店へ装備を取りに来た私は多少ハイになった頭になっていた。む、夢中でスライムを倒し過ぎた。スライムコア100個を大幅に超えてたからね……素材屋のところに余剰分売って店の隅っこで少し寝させてもらった。最近眠りが浅いから人の気配を感じれば起きられるしね……


「若いのに無理はするなよ……まぁ、魔人族だから普通の人族よりは丈夫だが」


「あれ?私が魔人族って言いましたっけ?」


「俺は人の魔力量が見れんだよ。子どもでそんだけあんなら魔人族だろって考えただけだ」


 へー、そんな特技があったんだ……初めて知った。ゲームの時もここに結構通ってたのに。


「装備はそこに置いてある。そこに衝立あるから着てみろ」


「わかりました」


 私は完成した装備を手に取って衝立の陰に入り着替えた。ようやくまともな服を着れたね……そして近くにあった鏡に全身を映した。装備としてはノースリーブの黒いフード付きの服にスリットの入った膝上までのタイトスカート。更に指抜きの手袋、靴下、革靴まで黒だから全身真っ黒だね……物凄く暗殺者らしくて良いデザイン。肘や膝にはプロテクターもついてるし多少は防御力もありそう。


(うん、問題無し……というか。これサイズ自動調整付与されてるね)


 身体に合うサイズへ自動で調整される付与。割とポピュラーな付与だけどもナイトリザードの素材だけじゃ無理だよね?


「おっ、問題無さそうだな」


 私が着替えて衝立から出てくると職人さんは満足そうにしていた。


「これサイズ自動調整付いてますよね?」


「おっ、わかったか?暗殺者の装備は身体にフィットするものが当たり前だ。だがお前さん子供だろ?成長したら作り直しになるだろうからおまけで付けてやった。値上げはしねぇから安心しな!これからもこのガンテツに仕事をくれれば良い」


 おまけが大きいんですけど……あと名前ガンテツっていうのね。そういや自己紹介とかしてなかったや。


「わかりました。ですが流石に貰いすぎなので必要な素材があるなら私、アンがお手伝いしますよ」


「子どもが気を使うな……まぁ、これからよろしく嬢ちゃん」


 私はガンテツさんと握手を交わした。その後残りのお金を払って私は装備の説明を受けた。


「フードを被れば隠密と熱源感知対策が発動。グローブは物を掴んだ時に滑りにくく、靴は足音を小さくする効果がある。あとは防汚効果を付けてあるから血が付いても簡単に落とせるな」


「思ってたより効果多い……」


 血を落としやすいのは結構ありがたいかな……短剣で斬るとどうしても血を被ってしまうからね。ついでに言えばモンスターの素材でできた装備は使い続けていると強くなる。強くなるのには素材のモンスターによって限界値があるけど……とりあえず2倍以上にはなるかな。ちなみに強くなる理由は装備が魔力を少しずつ吸収することだったかな?


「まぁ、防具はこんな感じだな。そんで1つ気になったんだが……嬢ちゃんの武器どっちともお前さんの体格に合ってなくないか?」


「そうですね。大人用のやつを中古で買って使ってるので」


 子ども用の武器なんて持ってるの貴族くらいじゃない?武器はその人の体格で形とかが決まるのに成長期の子どもの武器作るのは金持ちのすることだからね…… そんで使わなくなった武器も使われている素材が高価だから中古でも買えない。


(金持ちの道楽だからね……あと短剣とクロスボウなんて子ども用無いでしょ)


 貴族って何故か剣以外の武器をあまり使おうとしない。槍や弓を使う貴族もいるけどそういうのは武闘派の貴族で大抵の貴族はヘボい剣術を自慢し合う……


(ゲームの時に貴族暗殺の依頼受けたことあったけど、武闘派じゃない貴族は緩かったなぁ……)


 武闘派の貴族は近づくことすら難しいのに、そうじゃないやつは警備の巡回を掻い潜れば暗殺できた。そのくせ報酬は美味しいから暗殺者の知り合いたちとの取り合いになったね……マスターアサシン同士の取り合いだから勝者を含めて死屍累々だったけど。


「武器に関してはこれで慣れちゃったので問題無いです。成長が止まったら素材を持ってくるのでお願いします」


「そうか、まぁ気長に待つとしよう……20年くらいか?」


「そんなに遅くは無いですよ」


「それもそうか」


「「ハッハッハッ!」」


 私とガンテツさんの笑い声がお店の中で木霊する。それは魔人とドワーフ……互いに200年以上生きる種族の後輩先輩での繋がりができた瞬間だった。



シュタ!タタタタ!


(音かなり小さくなってるね……想定以上の装備だよ。これ)


 そろそろ夕暮れになりそうな山の中。私は新しい装備の性能を体感していた。説明よりもずっと効果が高い気がする……


(そういえばドワーフが作った装備って同じ素材を使っても他の種族より高性能……)


 つまりはドワーフ基準だと普通の位置が高めってことなのかな?それならこの性能にも納得がいく。


(ガンテツさんの基準には気をつけておこう……あと次装備を頼むときはお金を沢山払おう)


 私はそう思いながらも山の中を駆け回っていく。そろそろ性能チェックも満足したし拠点に帰ろうか……ん?


(なんだろう……人の気配がする)


 それもかなり多くのね……私は静かに気配のする方へ近づいた。


「お頭。本当にこっちでいいんですかい?」


「問題無い。高い金払って磁石を買ったんだからな……」


 話し声が聞こえてきた辺りで私は一旦止まった。相手に《気配察知》や探知系の魔法使ってるやつがいると大変だからね。私の《隠密》はそうそう破れないとは思うけど念のため。


(あれは……盗賊かな?)


 気配の主たちは人相の悪い悪人風の集団。見るからに不衛生で狩人とかじゃないね……でも武器を持ってるから多分盗賊で合ってるはず。


(この辺に拠点があるのかな?もう少し情報を探ろうかな)


 私は盗賊たちの後を静かに追った。盗賊たちは私に気づかずに喋りながらどんどん山を進んでいった。


「にしても山向こうの村なんか襲う意味あるんですかい?この山かなり危ないって聞きやすが」


「安心しろ。この山で危ねぇのは夜に出てくるモンスター共だ。昼間に動けば襲われねぇし魔物避けの実もあるから万全だ。一晩野宿すれば明日には宴だ!」


「流石お頭!準備万端っすね!」


 ……成程。盗賊たちの目当ては元故郷の村か。確かにあの村は衛兵が居ないし、狩人が数人いる程度で対人戦に強い人はいない。寒くなる時期冬に備えて色々溜め込む時期だから盗賊にとっては美味しい獲物だね。


(あのお頭って呼ばれてる人。特段ガサツそうな見た目なのに意外にもクレバーなのか……私に見つからなければ成功してたかもね)


 こいつらの進行方向……私の建てかけの拠点の方角なんだよね。ズレるかもしれないけど障害は排除しておきたい。それに……


(こいつらのせいでダブルヘッドパンサーが暴れたら面倒……人を好んで襲うようになったら危ないし)


 ということで彼らには退場してもらおう……私の対人戦闘訓練のモルモットとして活用しながらね。


「すぐ壊れないでよ……」


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