第9話



「相変わらず大量に持ってくるな……アングリーボアの毛皮は高く買い取ろう。牙は無いのか?」


「あれば自分で使うんで。次狩れたら持ってきますよ」


「そうか……とりあえず全部で7500Gだな」


 私はいつものお店で毛皮を売っていた。アングリーボアの毛皮やっぱり高く売れるね……硬くて真っ赤だから私の防具には使えないんだけど。


「で、さっきの防具職人を紹介して欲しいだったな。俺はスラムの奴しか紹介できないが構わないか?」


「大丈夫です。お願いします」


 私は店主に職人の居る場所を教えてもらった。うん、想定通りの場所だったね……


(あの職人はここの紹介が無いと入れないからね……)


 ちょっと特殊な職人。だけどスラムの職人なのに腕が良くて町の中の職人よりも上なんだよね。だからゲーム時も私はこっちの方に入り浸ってたし……まぁ、暗殺者関連はスラムに多かったのも理由だけど。


(そういえば……あっちにはいつ行こうかな)


 スラムにある暗殺者にとって1番大事な場所。子どもだと舐められそうだし実力を高めてから向かうつもりなんだけど……どこまで鍛えたら行くか決めてないんだよね。


(というか私がゲームであそこに行った時と比べて今の方が強いんだよね。正直な話)


 効率的にスキル取ってるからなぁ……まぁ、成長するのを待って進むかな。


「そんなこと考えてたら到着したね」


 いくつもの細く入り組んだ道を抜け、私はようやく職人の居る場所に着いた。相変わらず道がややこしい……


コンコンコン


 私は道のりに対し心の中で愚痴りながらノックした。そしてガチャと開ける。


「お邪魔します。おっと」


 ドアを開け中に入ろうとした私は首を左に傾けた。私の頭があったところをシュ!と何かが通り過ぎ後ろの建物の壁に刺さる音がした。チラッと見てみると壁には小さなナイフが真っ直ぐ刺さっている。


「…………ふん。少しはやるようだな」


 私が視線を戻すと白髪で見るからに偏屈そうな人が少し不機嫌そうな顔でこっちを見ていた。ゲームの頃と見た目全然変わらないね……


「誰からここを聞いた?」


「素材屋の店主から……本人は火種を送ったと伝えろと言われてます」


「あいつか……で、何の用だ?」


 職人さんはそう言うと頭を掻きながら近くの椅子に座った。店の中はゴチャゴチャしてて狭く感じる……奥に部屋があるみたいだけど。


ドン


 私は職人さんに近づくと側のテーブルに酒瓶を置いた。これはさっき素材屋のところで買ってきたお酒。これがここで装備を作ってもらう上で重要になる。


「ほぉ……酒を持ってくるとは分かってるじゃねぇか。俺がドワーフだってあいつから聞いたのか?」


「さぁ、どうでしょう?」


 ドワーフ。装備職人としての腕は全ての種族の中で頂点と言われる種族。彼らに仕事を依頼する際の礼儀としてお酒を用意するというもので、酒を用意しないと一切仕事を引き受けてもらえない。ゲームの時にこれ知らなくて最初依頼受けてもらえなかったからね……ちゃんと用意しておいた。


「この皮で防具作成を依頼したいです」


「これは……ナイトリザードか。成程、嬢ちゃん暗殺者か」


 職人さんは素材を手に取り私を観察してきた。私はそれに対し特に反応はしない。簡単に職業を教えるのはババ抜きで手札を晒してるようなもの。正直に職業を言うのは初心者か自信家くらいなもの。

 ナイトリザードの装備は暗殺者以外に盗賊や隠密型の軽戦士も使うから、こういう時ははぐらかすに限る。


「……まだ子どもの癖に一端の暗殺者みたいな態度を取りやがる。いいだろう、防具作成を引き受けよう。金はあるのか?」


「7000Gまでは出せます。足りなければ稼ぐだけです。あと装備は暗殺者用で動きやすければ良いです」


「わかった。金は前金として半分くれ。残りは出来てからで良い」


「了解です」


 私は職人さんに3500Gを支払った。職人さんはお金を受け取ると皮を持って奥へと向かう。そして途中で振り返った。


「明日の昼頃には完成する。早めに取りに来い」


「わかりました」


 私が返事をすると職人さんは奥の部屋へと入っていってしまった。私も職人さんの家を出てスラムの方へ向かった。


(明日の昼頃か……流石ドワーフの職人ってところだね)


 ただゲームの時よりも早いのはどういうこと?ゲームの時は3日かかってたけど、もしかしてあの時手抜きでもされてたのかな……うーん、よくわからん。

 

「とりあえず時間が空いた……けども拠点へ戻るのは行ったり来たりで時間が勿体無い。今夜だけこっちで過ごすか……あっ、あそこに狩りに行くのもありだしね」


 ここから少し離れたところにある狩り場。ゲームの時に序盤でモンスターを狩ってた場所なんだよね。


(素材的には山の方が高いんだけど……少し集めておきたい素材がある)


 それ自体も対して価値があるわけではないけど買うくらいなら自分で集めておきたいからね。


「今の時間帯は誰か居るだろうし……夜になったら向かおう」


 それまではスラムで大人しく待機していよう。私はスラムを彷徨いたり物の影で座ったりしながら夜を待った。



ポヨンポヨン


 月明かりに照らされた草原の窪地で半透明な水饅頭……スライムが跳ね回る。水のような身体に月光が煌めいてキラキラしていた。


「懐かしい……相変わらずスライムしか居ないね」


 ここが私の目的地。特に名称は無いけど私はスライムの溜まり場って呼んでる。


「何故かスライムが溜まってるからね……他のモンスターは居ないのに」


 この辺にはホーンラビットという角の生えたウサギ。グラスウルフという黄緑色のオオカミ。ビッグピジョンという大きなハトのモンスターが生息している。それなのにこの窪地にはスライムだけしか居ない。ついでに狩ってれば勝手にスライムが窪地にやって来るからほぼ無限にスライムとだけ戦うことができる。


(lvが低い頃にお世話になった……まぁ、今回はlv上げしにきたんじゃないんだけど)


 目的はスライムの落とすスライムコアというアイテム。このアイテムは雑魚敵のスライムから手に入るアイテムとは思えない程汎用性の塊で金属の精錬時に鉱石と一緒に溶かせば鉱石の不純物が多く取り除くことができ、薬に混ぜれば効果が劣化しにくく長持ちするようになる。


「毒薬は腐ればそれはそれで強力になるけど……普通の回復薬はスライムコアを混ぜないとだから欲しかった」


 ゲームの時にスライムコアの混ざっていない薬は一段階評価が低かった。それくらいスライムコアは大事なもの。


「ここに居ればほぼ入れ食い状態だし……倒しまくろう」


 こいつら相手にクロスボウは微妙に相性が悪いから短剣で斬る……私は跳ね回るスライムの体内にあるコア目掛けて短剣を振った。この世界のスライムは身体が酸性とか触れたものをなんでも食べるというような特性はない。進化したやつなら身体が酸液とか金属を食べたりするのもいるけどね。


ビシャ!!


 斬られたスライムは割れた水風船のように水を撒き散らして消える。地面には青いビー玉のような見た目のスライムコアが転がっているので回収し次のスライムを斬る。


「一撃で倒せるから楽で良いね……」


 更に言えば斬っても血じゃなくて水が飛び散るから衛生的。血って被ると洗い流すの面倒なんだよね……服に付くと中々落ちないし。


(倒し続けてると心の中がスー……としてきたね。思ってたよりもストレス溜まってたのかな)


 自分ではそうでも無かったんだけど、まぁ他人とあまり会話……というか対面することない日常を送ってるからね。知らず知らずのうちに溜まっててもおかしくないか。


「最近寝る時間も減ってきてるしね……とはいえ1日休むような時間は取れない」


 生きるか死ぬか……そんな状況で時間を無駄にはできないからね。私は頭の中でそうまとめつつ短剣を振ってスライムコアを集めた。狩りはスライムコアが3桁近く溜まるまで続いた。


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