第8話



「【コロージョン】……本当にこれゴミ処理に便利だね」


 家の瓦礫を腐らせ土に変えつつ私は感嘆の息を吐いた。あのゲキマズ苦行を乗り越えた私は現在魔法の訓練と並行して家を建て直していた。あれから町と山の往復で最低限建築に必要な道具は揃えることができた。まぁ斧、ノコギリ、木槌、ノミ、カンナぐらいしかないけどね……


「しかも建築はかなり手抜きだしね……まぁ、この家がかなりヤバかったからなんだけど」


 目に見えて壊れてたところ以外にもあちこち老朽化してた。正直言って良く今まで倒壊しなかったな……って思ったぐらい。


「まさか1から建て直しとは思わなかったね……」


 建てる上で知識があるのかと言われると全然無い。だけど今の家がどんな構造をしてるのか解体して把握したし、前世に読んだ本やTVの番組の知識でなんとかなるはず。しばらくやってたら《日曜大工》ってスキル手に入ったし。


(これ初めて取得したなぁ……ゲーム中に家なんか建てたことなかったし)


 これゲームの時の手当たり次第をできるだけ無くそうと思ってたけど……リアルになったことで逆に何を取得するか分からないね。


「住んでて改良したい部分あったしそこもどうにかしたいね」


 新しく作るのは土間のある平家。壁は板にすると木を沢山切らなきゃいけないし加工もしなきゃいけないから土と水があれば良い土壁が楽。しかもただの土壁じゃなくて薬草を混ぜた特別製なやつにするしね。


「新しい板にすると折角の獣避けの匂いが薄れちゃうからね……」


 しかも混ぜる薬草はスラムのお店で買ってきた獣避け薬を作るためのもの。これまでよりも効果は高くなるはず……量が多くて刻むのが大変だったけど。


「木とかこの辺の切れなかったけど……《運搬》大活躍だった」


 この家の周りのを切っちゃうと上手い具合に隠れてるのが崩れる。だから離れた場所の木を切って運んでいる。《運搬》スキルの重量軽減のおかげで大分楽だよね……運んでるときにモンスターと遭遇しかけたけど《ノイズ》で誘導してやり過ごしたし。1回担いでた丸太で撲殺しちゃったけど。


「とりあえず建築はひと段落かな……あとは屋根に板を張るだけだし」


 壁の方は乾燥待ち。屋根板は加ればOKだけども伐採した木の乾きがまだ微妙だから待たないと。木の乾きを把握できる《日曜大工》本当に便利だね……


(木材は予定だともう必要無い……まぁ、余ったら薪にするんだけどさ)


 とりあえずやることは無し。別の作業で時間を有効活用するのが1番。


「んー……なら今夜は狩りに行けるかな。ナイトリザードとアングリーボア」


 なんやかんやで狩ってないんだよね……家建てる前は売れる毛皮を落とすモンスターばっかり狩ってて道具揃えてからは夜は建材の加工で忙しかったから。あとは冬に向けて保存食造りしてたし……岩塩買えるだけ買って干し肉沢山作ってる。あとは町で買った大根もどきの塩漬け。小さい樽が手に入ったからチャレンジしてみた。


「あとは魚の干物も作っておきたいね……保存食は沢山仕込んでおきたいし」


 そのレパートリーにアングリーボアの肉も入れたい。あいつの肉はそこそこお高いお肉だからね。あとは香辛料になる牙も料理に使いたい。ナイトリザードの方は私の装備の素材。いい加減まともな防具を着たいからね。ずっとボロボロの服は……


「最近戦う時間少ないけど……鈍ってないといいなぁ……」


 とりあえず夜になるのを待とう……私は色々と作業をしたり仮眠を取ったりして時間を潰した。


「短剣良し。クロスボウ良し。ポーチの中身良し……それじゃあ行こう」


 私は武器とボルトや薬を手軽に扱うために買ったちょっと古いポーチを身につけ、マントと袋を持って夜の森へ入った。


(アングリーボアとナイトリザード以外は基本無視でいいかな……)


 あいつらの素材の大きさ分からないし。袋に入り切らなかったりすると困る。運ぶ方に関しては《運搬》でなんとかなる……このスキル思ってたよりも便利。


「ブギィィィ!!!」


(アングリーボア発見……そして相変わらず暴れ回ってるね)

 

 私は木の上からドドドド!!と走って暴れるアングリーボアを見下ろした。アングリーボアは『怒りやすいイノシシ』って意味の名前じゃなくて『常にブチギレ状態のイノシシ』って意味の名前。怒る理由は不明だけどこのイノシシは周囲に八つ当たりをして終わらない怒りを発散させようとする。短命なのが唯一の救いだね……


「さてと……始めようか。【ノイズ】」


 私はアングリーボアの耳元で雑音を発生させた。アングリーボアは雑音に反応すると振り払うかのように頭を勢いよく動かした。


「【ノイズ】」


「ブギィィィ!!!」

 

 私は何度もアングリーボアに【ノイズ】をかけてイラつかせていく。アングリーボアはいくら頭を振っても雑音が無くならないため、ただでさえ低い理性が擦り減っていた。そろそろいいかな……


(よっと!)


 私は木の上からアングリーボアの首元目掛けてダイブ。短剣で頸動脈を大きく切り裂きすぐに離れて距離を取った。うげぇ……ちょっと血被った。マントだから良かったけどナイトリザードと戦う時は脱がないとだね。


「ブギィィィ!!?」


 アングリーボアは首から大量の血を噴き出しながら驚いていた。そして私の方へ突進しようとしたが数歩進んだところで出血過多で倒れる。


「文字通り頭に血が昇るモンスターだからね……怒らせてから首を斬ればすぐに倒れる」


 ほぼ勝ったようなものだけど油断はしない。死にかけの獣は何するか分からないし……油断して近づいて死にましたは笑い話にもならない。


「ブギィィィ……」


 私がしばらく見ているとアングリーボアが静かになって消えていった。私は大きな肉と毛皮、そして牙を回収した。


「血溜まりあるし……ここで待ち伏せしてれば何かしら来そうだよね」


 ダブルヘッドパンサー来る可能性あるけど……逆に血がこれだけあれば私の臭いも隠されるだろうから来たとしても逃げられるはず。私は一応血の付いたマントを別の場所に置いて木の上に潜伏した。


「ギャァァ!」


「コォォォン!」


 木の上で待っているとラインバジャーやフォレストフォックスが寄り始めた。お前らは今回要らないんだよなぁ……


「【ノイズ】」


 私は目的じゃないやつは【ノイズ】を使って追い払う。あの程度のモンスターたちならこれでなんとかなるね。そしてモンスターたちを追い払いながら待つこと5分。


「キュロロロ……」


 ようやく目的のナイトリザードが現れた。ナイトリザードは乾き始めた血溜まりの臭いを嗅ぎ始める。私は立ち上がり短剣を持ちクロスボウもすぐ撃てるよう矢をセットしておく。そしてナイトリザードに飛び降りた。


ザク!


 首筋に飛び降り短剣を突き刺したが大きく斬り裂けなかった。やっぱ爬虫類系は硬いね……


「キュロロロ!!」


「よっ!」


 ナイトリザードは背中側の私を振り落とそうと暴れた。私はそれをジャンプで躱しながらナイトリザードの目にボルトを撃った。


「キュロロロ!!?」


 ボルトが右目に深く突き刺さりナイトリザードは悲鳴を出した。私は痛がっている隙を狙って近づき比較的柔らかい喉の下を斬り裂いた。


(ジワジワと削っていこう)


 強い相手は攻撃を重ねて弱らせる。いつものやり方で……ゲームの時のやり方で倒す。私はナイトリザードの視界から外れ木の影に身を隠す。


「キュロロロ!!」


 ナイトリザードは私を探そうと怒りの声を上げて探し回り始めた。私はそれに対し石をポーンと投げた。


ガサ


「キュロロロ!!」


 石が茂みに落ちた音に反応し、ナイトリザードは音の方へ突進した。《誘導》があるとは言え良い引っかかりぷりだね……


(2本……)


 私はガサゴソとポーチを漁り粘度の高い毒薬を入れた筒を取り出した。この毒薬は最初の頃に食べてた木の実と毒キノコを煮詰めたもので、粘度を上げるために樹液を混ぜたから効果が薄い……まぁ、シンリンネズミで実験し効果は実証済み。ナイトリザードは毒に耐性無いからこれでも撃ち込めば充分でしょ。


「よっ!」


 私は毒を塗ったボルトをナイトリザードの背面から撃ち込んだ。そしてまた隠れて見つからないようにする。


「キュロロロ!」


 毒ボルトを撃ち込まれたナイトリザードはすぐに振り返り私を探すが、既に私はやつの反対側に移動している。


「【ノイズ】」


 私はナイトリザードの耳を雑音で惑わす。そして毒ボルトを撃ち込み隠れる……それを私は何度も繰り返した。


「キュ、キュロロロ……


 毒ボルトを撃ち込まれ続けてたナイトリザードは動きが緩慢となっていった。そろそろいいかな……


「【ノイズ】」


 私は最後に雑音でナイトリザードの意識を逸らす。そして一気に近づいて首下を大きく斬った。


「キュロ……」


 ナイトリザードは弱り切った身体に最後の一押しを受けて地面に倒れた。そしてナイトリザードの身体は皮と爪だけになって消えていく。ボルトも散らばってるね……いくつか折れてる。


「ようやく防具の素材ゲットだね……」


 あと2、3枚は必要だろうけどね……私はそう思いつつ素材を回収した。ボルトも壊れたやつ含めて回収……放置してていつか踏んで怪我したら危ないからね。


「次のターゲット探しに行こうかな……っ!?」


 私が袋を担いで移動しようとしたその時、背筋にゾワッ!と冷たい感覚がした。私は一気に飛び上がり木の上へと隠れた。


(この感覚……あいつが来た!?)


 私がそう思うと同時にズリズリと何かを引き摺り近づいてくる音が聞こえた。


「ガロロロロ……」


 私が息を殺して隠れていると現れたのはダブルヘッドパンサー……初めて夜に狩りをした際に遭遇したあいつだった。ダブルヘッドパンサーは片方の口でアングリーボアを咥えていた。狩りの帰り道だったのか……


「ガロロロロ……」


 ダブルヘッドパンサーはスンスンと鼻を鳴らし臭いを嗅いでいた。しかし血の臭いが濃いからか私の臭いは分からなかったようで、ひとしきり嗅ぐとアングリーボアを引き摺り去っていった。


(初遭遇した場所から離れてる場所だったけど……ここまで縄張りがあったんだね)


 幸いにも私の拠点からは離れてる。一先ず家を建て終えるまで襲われないように祈っておこう。私はダブルヘッドパンサーが去ってもすぐに動かず嫌な予感が消えるまで隠れた。そして予感が消えてからダブルヘッドパンサーの逆の方へ行きナイトリザードを更に2体。アングリーボアを1体倒して拠点に帰った。


(明日は町に行って防具の職人の所に向かおう)


 トラブルがあったけれど私は狩りが上手くいったので上機嫌で拠点に帰還した。



 ダブルヘッドパンサーと遭遇した場所が初遭遇と比べて村に近くなっていたことに気づかないまま……


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る