第7話
「思ったより大きい川だね……」
幅5mくらい……荒屋から直線で30分くらいの場所だね。
「川岸に薬草類が多い……調薬用の拠点をここに作るのもありだね」
調薬の作業には水を大量に使うこともある。それにここなら採取した素材をすぐに使うことができるから効果の高い薬を作成できる。まぁ、本拠地の荒屋を直す方が先決だけどさ……一から建てるのは時間かかるし。
(魚はいるね……水質も問題無さそう)
魚もモンスターだけどね。確認できたのは大きさ15cm程で少し黄金色のコガネアユ。30cm程で下顎に太い棘の生えたショウカクヤマメ。同じく30cm程のセイウチのような牙を持つキバイワナ。スタンダードな川のモンスターたち……ちなみにどれも食べることができる。
「ショウカクヤマメとキバイワナは襲ってくるタイプだけど……川に入らなければ大丈夫だね」
強さ的には今の私の相手にはならない。ただ川の中で戦うと水の流れや急な深場など行動の妨げになる要因が多い。あと私の武器だとちょっとね……クロスボウも撃ったボルトの回収が難しいし。
「まぁ、今回は別に魚を獲ることは目的じゃないしね……」
獲るとしたら釣りかな……《水泳》と《潜水》を取れば素潜りでも行けるけど。冬が近づく時期に泳ぎの練習とか風邪ひきそう。やるとしたら夏だね……そんで邪魔なモンスターを駆除してからやろう。
「さてさて……折角川に来たし何か良いものないかな」
私はなんとなく上流に向かいながら探索を始めた。薬草類は結構良いものがあったけれども、今ある道具じゃ無駄になりそうだから採取はしない。無駄なことはしたくないからね……
「ん?これは……」
私が観察しながら歩いていると川岸にピンポン球サイズの紫色の水晶のようなものが落ちていた。確かこれは……
「魔石。天然物でこの大きさは珍しいね」
魔石は魔力が物質化して結晶になったもの。種類としては自然界の魔力が集まってできた天然物。ダンジョンの宝箱から出るダンジョン産。そしてモンスターの体内で作られる魔物産の3つ。魔石の用途としては魔法の習得や装備の素材、魔道具の燃料など使い道が多い。
「魔物産は基本的にゴブリンとかの亜人系からしか手に入らないから今まで手に入らなかったね……まぁ、安いんだけど」
魔物産の魔石は純度と質が悪いため基本的に燃料にしか使われない。天然物やダンジョン産は差はあるけれども純度は魔物産よりも良く、そのため希少価値が高い。これだったら3万……いや5万Gの価値はあるね。
「でもこれ売るつもりは無いなぁ……闇属性の魔石だし」
魔石の属性は色で分かる。これは紫色だから闇属性のもの……闇属性の魔石はいつか手に入れたかったものだったから都合が良いね。
「この山にゴブリンが生息してなくて遠出の時に魔石集めをする予定だったけど……これで問題無くなった」
これは魔法の習得に使おう……この大きさなら初級魔法2つは覚えることができそうだからね。
(良い拾い物をした……ダブルヘッドパンサーへの手札を増やせる)
その後他にも落ちてないか探したけれど見つけることは出来なかった。なので私は魔法を習得するために荒屋に帰った。
◇
ゴリゴリ……ゴリゴリ……
川から戻ってきた私は魔石を細かく砕き粉にしていた。細かい砂になるまでやらなきゃいけないから結構面倒……魔石自体が柔らかめだから石を砕くよりマシだけどね。
「こんなもんで良いか……そしたら」
私は魔石の砂の上に手を出した。そして人差し指の先を短剣で切った。
ポタ……ポタ……
魔石の砂に私の血が垂れていく。数滴垂らし私は止血し魔石の砂を少し混ぜてから半分ずつ分けた。そしてそれぞれを小さな器に入れて薬草を浸していた水で半分程に薄めた。
「これで魔石の準備完了……そんじゃ儀式始めよ」
魔法の習得はシンプル。欲しい魔法を意識してこの液体を一気に飲むだけ……覚えたい魔法に対して量が足りなかったり質が悪かったりすれば無駄になるけど……今回は問題無いはず。覚える魔法も弱い奴だしね。
「早く飲まないと効果無くなる……いざ!」
私は器を持って飲んだ。口の中にこの世のものとは思えない不味さが爆発したこのように広がった。
(オェェ……)
あまりの不味さに吐きそうになるけれど、吐いたら無駄になるから意地でも吐かずに堪える。
『魔法スキル【コロージョン・Ⅰ】を取得しました』
吐き気が治まり私が床に転がって荒い息を吐いていると無事に魔法スキルを取得することができた。
【コロージョン】は触れたものを腐らせる魔法。鍵を破壊したり相手の防具を弱体化させるために覚えたかった……ただしこの魔法はⅠの時は触れるもの全てが対象になるため武器を持ったまま使うと武器が壊れる。IIにすることで武器に付与できるようになって壊すことが無くなり、Ⅲにすることで矢など手から離れるような武器に付与し続けたままにできる。
「毒矢と麻痺矢は薬を塗れば良い。腐食はこれで付与しないとボルトかダメになるんだよね」
腐食の薬もあるにはある。だけどそれは強いものほど塗った物への損傷が大きい……【コロージョン】はⅢまで上げれば影響が無いからね。ついでに付与系の魔法は消費MPが少なく最低MPを5くらいで発動できる。MPを増やせばもっと効果は上がるけど……私は色んな状態異常をジワジワと蓄積させるやり方が好きだから最低で使うことが多いかな。
「そんじゃ2杯目いくかぁ……オェ」
2杯目で覚えたいのは【ノイズ】という魔法。これは任意の場所から雑音を発生させることができる。強くしていけば任意の音や人の声を発生させることも可能になる陽動用の魔法だね……まぁ、私は時々相手の耳元で大きい雑音を発生させたりしたけど。
「これもう1回飲むの嫌だな……ええい!女は度胸!」
私は大きく息を吸って一気に飲み込んだ。そして吐き気との戦いをまた繰り広げることになったのだった……
(魔法使いじゃなくて良かった……)
この苦行を何度もやっている魔法使いにちょっと尊敬の念が湧いた。
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