第6話



シュ、シュ、シュ


「んー……こんなもんかな?」


 町へ行った日の夜。私は外で小さな焚き火を燃やしながら短剣で黒樫を削っていた。足元にはバラバラになったクロスボウがある。


カチャカチャ……ガチ!


「よし、問題無しだね」


 これで壊れたパーツは全部新しいのにできる。ある程度木材が加工されてて助かった……


「流石に短剣で加工するのにも限度があるからね……」


 私はカチャカチャとクロスボウを組み立てていく。ゲーム内で何度も組み立てたからスムーズに組み立てられる。


「さて、これでどうかな」


 組み立て終えた私はボルトをセットし近くの木に向けて撃った。むっ、少しブレた……弦が緩いかな?私は調整し再びボルトを撃つ。そうして満足するまで調整した。


「これで良し……」


 使ってる素材から考えて威力は最大。これ以上の威力を求めるなら素材を良くしないと。


(威力アップなら変えるなら弦かな?)


 弦にするならクモ系の糸か獣系の筋かな?筋の場合はダブルヘッドパンサーとかの瞬発力に長けたモンスターのやつじゃないとだけど。


「あれを狩るのは無理だから弱いやつじゃないとだね」


 でもこの辺該当するやつ他に居ないんだよね……スネアスパイダーの糸はワイヤースパイダーより下だし。これは遠征するしかない?


「でもクローティアの近くに狩り場あるかな……」


 とはいえ遠征するには食料に薬などの物資が足りない。そして物資を充実させるには拠点が貧相……遠征はフェーズ4かな。


「しばらくは町と村を行ったり来たりして道具を充実させよう」


 あとは保存食を作って溜め込もう。寒くなるってことは冬が来るってことだし。食料不足にならないようにしなくては……家も直さないと隙間風どころの話じゃなくなる。


「この辺雪降るし……町に行ける今のうちに準備を整えよう」


 とりあえず今日は朝早くに出発して町まで行って疲れたし、早く寝て明日狩りを頑張ろう。私は床に敷いた毛皮の上に寝っ転がった。



シュ……ドス!


「キィィィ!?」


 木陰から私が撃ったボルトがシンリンネズミの頭部に突き刺さる。シンリンネズミは悲鳴をあげ地面に倒れた。


「よしよし、問題無し」


 茂みから出て私はシンリンネズミの素材とボルトを回収する。ボルトも再利用できそうだね……


「ボルトが壊れると面倒だからね……」


 とりあえずこれを使うなら《狙撃》と《早撃ち》は取得しないと……


「《不意打ち》《急所突き》《狙撃》……これを重ねがけして威力を上げるのがゲーム時代のやり方だったからね」


 《早撃ち》はそれの補助。本来は弓で早撃ちをするときに矢がブレにくくなる効果なんだけど。クロスボウの場合は構えてすぐに撃つ時にブレにくくなるからね。


(私のやり方は撃って移動して撃ってを繰り返す。《早撃ち》があると便利なんだよね)


 ちなみにこの方法はゲーム内でインキャスナイパーって呼ばれ方をしていた。そして私の場合は毒と罠まで使うから掲示板で私と戦った人が『二度と戦いたくない』ってコメントを載せてたくらいには嫌われてた……それでも平気でやってたけどね。だってそうじゃないと他の職業と互角に戦えないし。


「剣振っただけで地面を割ったり、魔法で森の一部を吹っ飛ばすとかできないからね……暗殺者は鍛えても地味になりがちだし」


 他の職機は派手な技があるのにね……暗殺者が目立ってどうするんだ?ってのもあるけどさ。


(それはさておいて……試し撃ちできたし。探索しよう)


 今回は狩りの他にちょっと探索もしてみる。なんでかというと町に行くときこの山の方から川が伸びてるようだったんだよね。地形に関してはうろ覚えだったから今まで気づかなかったんだけど……


「川があるなら魚とか獲って食事に幅が出る」


 他にも水辺にしかない薬草とか欲しいしね。ある程度場所は予測してるしさっさと見つけよう。私は《隠密》で気配を消し森を駆け回った。モンスターはあまりお金にならないシンリンネズミは無視。お金になるマッドラビットは狩っていく。


(やっぱりメイン武器は使いやすくて助かるね……ボルトが消耗品だけど)


 ボルトは使い続ければ壊れてしまう。ゲームの時は空間収納っていう青いネコ型ロボットのポケットみたいな効果のついたポーチに数百本入れてたからガンガン使えたけど……お金がね。


「空間収納付きの鞄があればなぁ……狩りが楽なのに」


 《運搬》のおかげでそこまで苦ではないけれど。この袋担いで移動するの面倒なんだよね……あとサンタクロースみたいで人が見てないとはいえ恥ずかしい。


(特殊効果付きのアイテムはダンジョンからしか手に入らないからね……しかも運が結構絡むし)


 ダンジョン。RPG同じの迷宮でこっちだと洞窟や廃墟が魔力で変質して発生するとされている。中は空間が歪み外見以上に広かったり洞窟内なのに空があったりし様々なモンスターが出現する。またダンジョンには宝箱がありその中にはアイテムが入れられて人間を呼び込む。そしてダンジョン内で死んだ人間はダンジョンに吸収されて消え、多くの人間が死んだダンジョンほど大きなダンジョンとなる。


(ゲーム内ではダンジョンはチョウチンアンコウみたいな生き物って説があったからね)


 宝という釣り餌で人間を引き寄せダンジョン内で死んだ人間を養分に成長する……もしかしたら本当にダンジョンは生き物なのかもね。


「ダンジョン……効果付きのアイテム欲しいから行ってみたいけど。今は無いんだよね」


 ゲームの時、クローティアの近くには1箇所ダンジョンがあった。ただそのダンジョンはゲームの時の時点で発生して数年……あの時の私が何歳扱いだったか分からないけど今の段階では無いことは確か。


(2年くらいしたら探しに行ってみようかな……)


 場所は覚えてるからね。私は未来の目的を考えながら山を進んでいく。そしてモンスターを倒しながら進んでいた私の耳に水の流れる音が聞こえてきたのだった……


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