第4話



「ゲームの頃よりも美味しい……あっちは味覚の再現が上手くできてなかったからね。微妙に味が薄かった」


 焼いたシンリンネズミの肉を食べて私はそんな感想を持った。味付け無しだけどほんのり甘い味がして、木の実とキノコばっか食べていた生活から発展を感じる……


「残りの肉は全部焼いちゃったけど……干し肉の方が保存できるんだよね」


 塩が無いからできないんだけど。保存食には塩はかかせないからなぁ……私はそう思いつつも肉を食べ終えた。ふぅ、満足。


「しばらくしたら狩りに行こう……それまでは革紐でも作ってようかな」


 私はシンリンネズミの毛皮を数枚手に取った。そして1回外に出ると火を起こしていたところに行く。火種が残っていたから再び火を起こし毛を炙って燃やした。


「焦げないように気をつけて……」


 毛を除去し終えたら今度は皮を細く裂いていく。そして出来るだけ裂いた革を編んで紐にした。木の皮でやったから割とスムーズに進められる……お爺ちゃんの家に行った時に藁紐の作り方教わってて良かった。


「木の皮で作ったやつよりはマシなはず……まぁ、罠としては使わないんだけどさ」


 出来るだけ長く作ったら今度はゴミ捨て場で拾って来た金属片を持ってきた。私が作ろうとしているのは鳴子。この家の周りに仕掛けて防衛するために用意したかったんだよね。


「木の皮でやろうとしたら千切れたけど……皮で作ったなら大丈夫かな?」


 金属片は既に2つを紐で結んである。私はそれを作った革紐に等間隔になるように結んだ。そしてそれを木と木の間に仕掛けた。


カンカン。カンカン。


 試しに鳴らしてみるとそれなりに高い音が鳴った。これなら問題なさそう……


「これをあと3本……頑張ろう」


 私は頑張って革紐を編んで鳴子を作り続けた。そして無事に家の周りを囲むように鳴子を仕掛け防衛設備を1段階上げる終えた。シンリンネズミの毛皮が思ってたより消費して少なくなったけどね……


「集中しすぎてちょっと疲れた……狩りは夜にやるつもりだし仮眠しよう」


 私は小さく欠伸をして床に転がった。そして夜まで仮眠を取った……



「しっ!」


「ギャウ!?」


 三日月が照らす夜の森。木の上から飛び降りた私は黒に白いラインの入ったアナグマ、ラインバジャーの首に刃を突き立てた。ゴキ!と骨を断ち切られたラインバジャーはビクッと痙攣して消えていった。これで4匹目……素材は毛皮と爪。


「夜の方がモンスター多いね……弱いのも強いのも両方ね」


 ナイトリザード。ラインバジャー……他に緑色のキツネのフォレストフォックス。毒液を出す芋虫のポイズンキャタピラー。目立つ赤い体色を持つイノシシのアングリーボア。あとは痕跡だけしか見つけてないけど落とし穴を作るスネアスパイダー……糸を多少回収できたのは運が良かった。


「スネアスパイダーの糸はクモ系の中だと弱い方だからちょっと使いにくいんだけど……木や獣の皮よりは使いやすい」


 町に行って素材を買うまでは大事に使おう……本当はモンスターの方を倒せればいいんだけど居なかったから残念。他のモンスターに食われたかな?


「スネアスパイダーは探すの大変なんだよね……特に今は倒せないモンスターからは隠れたりしてるし」


 ラインバジャー、フォレストフォックス、スネアスパイダー辺りは倒せる。残りは武器がヘボいから無理。絶対に刃が通らないって断言できる……


「倒せない奴らの方がお金になるし……素材としても良いから狩りたいんだけどさ」


 ナイトリザードは防具の材料。ポイズンキャタピラーは毒の材料。アングリーボアは牙が香辛料として使え、煙幕に混ぜるとモンスターの嗅覚を撹乱できる。


「暗殺者としては強い毒は欲しい……マスターアサシンになるためには必要なもの」


 ゲーム内で暗殺者はその人が何が得意かで分けられていた。不意打ちならアンブッシュアサシン。毒ならポイズンアサシン。罠ならトラップアサシン。そして不意打ち、毒、罠を極めた暗殺者はマスターアサシンって呼ばれて重宝されるようになる。


「私としてはポイズンよりもアンブッシュの方を目指したいんだけどね……」


 ポイズンとトラップはスキルよりも使う素材だからね……アンブッシュはそういう意味で他よりちょっと上の立ち位置。まぁ、他のが弱いわけではなくて毒は作り出す技術。罠は仕掛けて活用するための先読みの力があることを意味するからね。


「というか……アンブッシュ目指すにしても短剣はちょっと。ゲームの時のサブ武器で使ってたからそんなに得意ってわけじゃないからね」


 ゲームの時のメイン武器は短剣じゃないからね。あー、ゲームの時の武器が使えれば……結構頑張って手に入れたのに。


「短剣の扱いもそれなりに慣れてて良かった。町に行ったらメイン武器も探さないとだね……」


 ただ、あれはかなり使う人が少ない武器だったからね……あるかどうかが不安。


「キュロロ!」


「っと、この声はナイトリザード……隠れよ」


 私はスッと木の上に登って隠れた。ナイトリザードは木登りは苦手だからこの隠れ方が安定なんだよね……


「キュロロ……」


 私が木に登って数秒後。ナイトリザードが現れ地面の匂いを嗅ぎ始めた。


(さっさと居なくなってくれないかな……)


 あいつの皮を突き破る自信無いからね……私がそう思いつつナイトリザードが何処かに行くのを横目に見ていた……その時。


「「ガァァァァ!!」」


「キュロロ!?」


 突然、獣の咆哮が轟きナイトリザードの悲鳴が聞こえてきた。私は何事かと下を静かに覗き込んだ。下では2つの頭を持つ黒いヒョウのモンスターがナイトリザードの首に噛みつき引き千切っていた。


(ダ、ダブルヘッドパンサー……)


 背中から冷や汗が出る感覚を感じた。ダブルヘッドパンサーはかなりヤバいモンスター……隠密能力に優れ牙と爪は鋼をも引き裂く。更に口からは火炎を吐き出すことができる文字通りの化け物……


(なんでこんなところに……こいつって人里離れた山とかに生息してるようなモンスターのはず)


 人の入らない山での激しい生存競争に適応していく中で警戒範囲と判断力を上げるために双頭になった……そういう設定のあるモンスターだからね。こんなところに居るとなると住んでた場所での生存競争に耐えられず逃げてきた?


バキ!ガキュ!ベキベキ……


 ダブルヘッドパンサーがナイトリザードの首を噛み千切り地面に血溜まりができる。私は震えながらも口を押さえて声が出ないようにする。バレたら死ぬ……lv40もあればなんとかなるってモンスター。lv一桁の私なんておやつ同然……


「ガロロロロ……」

 

 ダブルヘッドパンサーはナイトリザードの息の根を止めると血だらけの口を閉じて周りを見回した。気づいているかと不安になったけどダブルヘッドパンサーはナイトリザードを咥えると引き摺り森の奥へと消えていった。ダブルヘッドパンサーが居なくなり不気味なほど静まり返った森の中、私はしばらく動くことができなかった。


(この場所は荒屋から離れてる。消えた方向も荒屋とは真逆……しばらくは安全性かな)


 ダブルヘッドパンサーの生態はゲームで狩ることになった際に調べたことがある。あいつは完全夜行性で大きな獲物のみを狩るから3日に一度しか狩りを行わない。人を襲うこともあるけれど自分より格下ばかりの山に獲物が沢山いる限りは遭遇しなければ大丈夫なはず。


「まぁ、襲いに行くなら私よりも下の村かな……」


 人間の過食部の少なさから考えるとね……私は《隠密》に荒屋の獣避けの匂いが少し染みついてるから好んで狙わないだろうし。町は人が多いけど強い人も多いから襲いに行くことはないはず。あいつは知能も高いから襲っても手痛い反撃を受けない村を狙うと推測できる。


「警告は……しに行ったところで意味が無いか」


 私のことなんてもう死んだと思ってるだろうからね。それに信用されない……


「まぁ、別にいいか。あの村がどうなろうが知ったこっちゃない」


 とはいえこの山で生きていくにはあいつに勝てるようにならないと。それにあいつの素材って暗殺者の装備に最適なんだよね。


「あいつを倒すのを目標にしようかな……」


 私は漠然と大きな目標を決めようとしていた。

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