第3話



『《隠密・Ⅱ》が《隠密・Ⅲ》にランクアップしました』


『《忍び足・Ⅱ》が《忍び足・Ⅲ》にランクアップしました』


「丁度明日で1週間……ってところで規定値まで上がったね。予定通りかな」


 夜の森。木の上で月を見ながら私はそう呟いた。この6日間スキルの取得にのみ集中して鍛えた……うっかり毒キノコの摂取量ミスって腹痛起こしたり。作った罠を解除するの忘れて1個残ってて自分が引っかかったり。家の修理しようとして逆に壊れたり色々あった。ゴミ捨て場漁りで色々道具を集めてある程度は生活環境も良くなったしね。


「家の修理はしばらくいいや……ステータスオープン」


ーーーーーー

アンlv1

魔人

暗殺者

HP:30

MP:20

スキル

《病気耐性・Ⅲ》《苦痛耐性・Ⅲ》


新規スキル

《隠密・Ⅲ》

気配が希薄になり見つかりにくくなる

《忍び足・Ⅲ》

歩いたり走ったりする時の音が小さくなる

《暗視・Ⅱ》

暗い場所で光源が無くても見えるようになる

《柔軟・Ⅱ》

関節が柔らかくなる。絞め技のダメージを減少

《体幹・Ⅱ》

平行バランスを取りやすくなる

《跳躍・Ⅱ》

ジャンプ力が上昇。着地時の衝撃を減らす

《受け身・II》

転倒やノックバックの衝撃を軽減する

《薬学・Ⅰ》

簡単な薬の作成に補正

《罠術・Ⅰ》

罠の作成。設置。解体に補正

《毒耐性・Ⅱ》

毒の効果が出にくくなる

《麻痺耐性・Ⅱ》

麻痺の効果が出にくくなる

ーーーーーー


 取りたかったものは規定値まで取得できた。《病気耐性》と《苦痛耐性》は伸ばすつもりはなかったんだけど一緒に上がってるね……耐性系って伸ばしにくいはずなんだけど。


(ゲームの時とは違って24時間ログインしっぱなしみたいなものだから常在で発動してるやつはどんどん上がっていくんだろうね……)


 あとはゲームの時に手当たり次第にスキル取るんじゃなくて必要なものだけを効率的に鍛えるからかな。とりあえず非戦闘系のスキル集めにスキルのランクアップへ集中するのは一旦終わりかな。


「よーし、明日シンリンネズミ狩りしよう」


 それで戦闘用のスキルを取得してナイトリザードを狩ろう……私は荒屋へ帰り朝になるのを待った。



「キキキ!」


「やっぱりここに居たね……シンリンネズミ」


 翌日の朝。私はキリンゴの所に来ていた。案の定キリンゴを貪ってる……


「さて……それじゃあやろうか」


 私は短剣を抜いた。拾ってきた砥石が全部使えなくなるまで砥ぎまくったけど……まだちょっと斬れ味が悪いんだよね。

 私はゆっくりと立ち上がるとシンリンネズミの背後から近づいた。シンリンネズミはキリンゴに夢中でこっちには全く気付いていない。《隠密》と《忍び足》をⅢまで上げれば弱いモンスターなら走ったりしない限りは気づかれずに近づける。


(はい。おしまい)


 私は何事もなくシンリンネズミの背後を取ると首筋目掛けてナイフを振り下ろした。ナイフが首の骨の関節部に突き刺さり断ち切る感触が手に伝わった。


「キ、ギュ……!?」


 シンリンネズミは驚いたように身体を跳ねさせると口から血の泡を吹いて倒れた。そしてシンリンネズミの身体は塵のようになって消え、後には毛皮と何故か葉っぱに包まれた肉が残った。


「あっ……このシステムは残ってるんだ」


 ゲームの時にあったモンスターを倒すと素材を落として死体は消える。流石に無くなったとは思ってたけど……残ってるのは驚きだね。


(死体解体する手間が無くなるから良いんだけど……どう考えても量が減ってるんだよね)


 特にデカイやつ程量が減る。これを考えると死体が残る方が良いような気もする。まぁとりあえず、肉が手に入ったからOKだね。久しぶりのタンパク質……じゅるり。


「まぁ、まだ昼ご飯の時間じゃないし……スキル取得するまではお預けだね」


 私は袋に毛皮と肉を入れて次の獲物を探す。ただこの辺昼間に動くモンスターがあんまり居ないようなんだよね……シンリンネズミばかりにしか会わない。


「こいつの毛皮微妙に使いにくいからなぁ……肉は美味いけど」


 草食でしかも果物を好む習性があるからネズミなのに肉の味が良い。繁殖力もあるからシンリンネズミの居る場所は肉食のモンスターが集まることからゲーム内では基礎ネズミって呼ばれてた。


(地道に探すのは時間のロスかな……予定変更して罠を仕掛けてみるか)


 シンリンネズミの肉も少し多くなってきたからね。私は袋の中から木の皮を割き捩って作った紐を出した。そして紐の先を輪のようにし浅めの落とし穴を作ってその上に置いた。これで落とし穴にハマったモンスターは足に紐がかかるはず……


「とはいえ木の皮で作ったやつだから耐久性がね……」


 せめて虫の糸が使いたい……特にクモのモンスターのやつ。罠に使う糸はクモのモンスターの糸が基本だからね……糸を得るためだけにクモのモンスターを飼っていた暗殺者も居たぐらいだし。


(というか……良い素材が無いんだよね。あと道具不足)


 そもそも武器とかだってゴミ捨て場から集めたもの。直したけど使い続けるのは無理……


「新しいものを買うにしても村じゃ買えない……行商人も村に行くから買う機会が無い」


 この山に居る限り新しいものを手に入れるのは不可能。盗むのは狭くて小さい村だし私が1番に疑われる。死んだと思われてるとしても私のせいだとか平気で言いそうだからね。


「そうなると方法は1つだけだね……山越えて町に向かう」


 村に居た時に大人がこの山の向こうに町があると言っていた。山の中を通るのは危なくて迂回するから辿り着くのに2日かかるって言ってたけど……気をつけてさえいれば私でもなんとかなる。


「それに聞いた町の名前も知っていたし」


 クローティア。私のゲーム開始時に居た町。そこそこの大きさで物流もそれなりに発展している。ただし今の私は中に入るのは難しい……町に入るのにお金が必要だし。無一文の私は入れない。


「まぁ、町の中には用事は無いんだけど……私はその周りに用事があるから」


 あの町には外壁部にスラムがある。町に入れない人や犯罪者の多い場所だけど闇市や非合法のものを扱う店があるから、そこで色々と手に入れる。普通の店は子どもの私が行けば面倒事になるかもしれないけど、あそこはそういうの気にしないからね。


「まぁ、行くのはスキル集めが終わったらだね……あっちに行くには少し不安だし」


 もう少し経験を積まないと。今がフェーズ1なら町に向かうのはフェーズ2……フェーズ3は町で素材を集め基盤を整える感じになるかな?


(欲しいものの中に私じゃどうにもできないものがあるからね……技術的な面で)


 一先ず塩は早めに欲しいかな。動物の肉からある程度は塩分を得られるとはいえ、これに関してはマジで命に関わるからね……あとは料理の味付けの基礎だし。胡椒は高いから買えない……


「キュウキュウ」


(おっ、シンリンネズミじゃないやつようやく発見)


 今まで聞こえてこなかった鳴き声がする方へ私は静かに向かった。そして木の陰から鳴き声の主を確認して……顔を引き攣らせた。


「うわぁ……ラブリーデビルだ」


 鳴き声の主はクリーム色のウサギ……マッドラビット。見た目はモフモフなウサギでとても可愛らしいんだけど……あいつ実は肉食。見た目に騙されたプレイヤーが無惨に噛み殺されまくってラブリーデビルという名称が付けられたくらいだからね。マッドも泥じゃないくて狂気って意味らしいし……


(まぁ、強さとしてはシンリンネズミと同じくらいだから……あとあいつの毛皮は価値が高いし)


 私は慎重に近づいていく。マッドラビットは耳が良いから音を出さないように気をつけないと。あとは自分の影の向きだね。


「キュウ。キュウ」


 マッドラビットは呑気に毛繕いをしている。その隙に私は攻撃の射程まで近づくことに成功した。


(しっ!)


「ギュウ!?」


 私は一気に首へと短剣を突き立てる捻じ込む。マッドラビットはジタバタと暴れていたがすぐに動かなくなって消えていった。落ちたのは毛皮と歯か……肉はウサギのくせに美味しくないから出なくて良かった。


「良い素材が手に入ったね。これは町に持っていくやつにしよう」


 あと何羽か出てこないかな……私はその後もモンスターを探したけれどマッドラビットは2匹しか出会わず。残りはシンリンネズミだけだった……ここ昼に動くモンスターが少ないのかな?ゲーム中この山には来たことないから判断がつかない。私の運が悪いだけかもだしね。

 その後、素材が溜まった私は荒屋へと戻った。なお、仕掛けた罠は全部壊されてた……


「罠は……素材をちゃんとしてからにしよう」


 素材の無駄になるからね。私はちょっと反省した。


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