第2話



ゴリゴリ……ゴリゴリ……


「ふぅ……これでよし」


 石鉢に入れた薬草をそこら辺で拾った丸い石ですり潰していた私は手を止める。そしてすり潰した薬草を団子状にした。あとは乾かせば薬の完成……ゲキマズで効果の薄い薬のね。


「圧倒的に道具不足……まぁ、《薬学》が手に入れる為だから別に良いんだけど」


 《薬学》は暗殺者に必要な7つのスキルの1つ。暗殺者はスキルで攻撃の威力を増加させ気づかれる前に即死させるのが普通。だけど相手によっては倒し切ることができなかったり寸前で躱されて擦り傷しか与えられないこともある。それをカバーするために使われるのが毒や麻痺の効果を持つ薬……武器に塗っておくことで一撃必殺ができなかった時の保険を用意しておく。

 ちなみに暗殺者に必要な7つのスキルは《薬学》の他は《隠密》《忍び足》《暗視》《不意打ち》《急所突き》《罠術》。効果は得たときに言えばいいか……一体誰に言うんだろう?人と話さない環境だからちょっと人恋しいのかな?


ゴリゴリ……ゴリゴリ……


 私はどんどん薬草をすり潰し団子にしていく。時々採ってきた木の実を摘みながら体感1時間程で薬草を使い切った。《薬学》はまだ取得できないか……


「木の実の方もこれ以上食べると腹痛になるからやめておこう……」


 さて、この後どうするか。《隠密》と《忍び足》を得るために山を散歩しようと思ったけど……夜の方が取得に必要な経験値が多いからやめておこう。少しでも効率良くスキルを取得したいし。


「なら身体系のスキルの訓練しようか……」


 身体能力を高めるにはlvを上げるのと身体系スキルを取得するの2つの方法がある。lv上げの方は全体的に少しずつ上昇していくけどモンスターを倒さないといけない。身体系スキルの取得の方は取得するのが大変だったりするけど伸ばしたい部分をlv上げよりも大きく伸ばすことが可能。戦えない私は後者からスタートだね。


「道具を片付けて……と」


 私は道具を端に動かした。そして床に座ると前屈を始める。むっ、思ったより前に伸びない……


「骨格の差かな?成長し切ってないから固いのかぁ……《柔軟》をますます取っておきたいね」


 そのために前屈を続けよう。これが《柔軟》を得るための行動でこれを30分キープでスキルが取得できる。

 割と簡単に取ることができるんだけど……効果が関節が柔らかくなるだけだからあんまり人気の無いスキルだった。暗殺者は狭いところに潜り込んだり隠れたりするんであると便利なんだけどさ。


「もう少し足広げるか……キツくないとダメだったはずだし」


 私はジワジワと負荷を大きくしていく。そして足が攣りそうになった体勢をキープし続け、流石に太ももが死にかけ始めた頃……


『スキル《柔軟・Ⅰ》を取得しました』


 頭の中に男か女かわからない声でそう聞こえてきた。スキルを取得するとこんな感じで謎の声……ゲームではアナウンスと言われこっちでは神の声って呼ばれてるものが聞こえる。これはスキルのランクが上がる時にも聞こえるから成長段階を実感することができるんだよね……


「おっ、ちょっと楽になった……本当にちょっとだけど」


 スキルを取得したからって急に強くなるわけじゃない。Ⅰなんて無いのと大して変わらないからね……取得した後も訓練は必須。だけど今は足がヤバいからやめておこう。私は足を閉じて太ももを揉みながらそう思った。毎日少しずつ慣らしていこう。


「次は……《体幹》を取得しよう」

 

 私は比較的楽に取れる身体系スキルを取りまくることにした。Y字バランス15秒固定でバランス感覚強化の《体幹》。垂直ジャンプ200回でジャンプ力強化の《跳躍》。柔道の受け身を100回やって吹っ飛ばされたダメージを軽減できる《受け身》を取得した。Y字バランスは中々成功できず垂直ジャンプは床に穴が空いて190回のところでやり直しに。受け身は純粋に背中が痛い……


「今日はこれ以上やらない方が良いね……マジで死ぬ」


 栄養状態最悪なのは変わらず。しかも食べたのは少なくとも有害な成分のあるもので一度に食べれる量も少ない。動き過ぎるとエネルギーを使い過ぎて死んでしまう。


(少し調子に乗り過ぎた……明日は木の実以外に食べれるものを探そうか。まともなやつを……)


 ちゃんと食事を取らないと飢餓で苦しくなるかもしれない。とりあえず夜になるまでエネルギーを使わないように夜まで寝ることにした。


(固い床の上で寝ると身体に響きそう……寝床もどうにかしないとだね)


 私はそう思いながらも目を閉じて仮眠を取り始めた。



「寝過ぎた……夕方くらいに起きるつもりだったのに完全に夜になってる」


 私は屋根の穴から見える星空をボー……と眺めた。完全に寝過ぎてしまった。


(まぁ、生活リズムを夜型にしたかったから……それを考えれば問題無いかな)


 暗殺者の仕事は基本的に夜。眠気で鈍るなんてことが無いように夜型の生活リズムにしておいた方が絶対に良い。《睡眠耐性》を取れば楽なんだけど……あれゲームの時は睡眠攻撃を受け続けないといけなくて耐性系の中でも面倒なやつなんだよね。


(眠気に耐え続ければ取れるっていう噂もあったなぁ……1回試してみようかな)


 私はそんなことを思いつつもテキパキと用意を整え外に出た。山は不気味な程に静まり返りなんとも言えない怖さを放っているようだった……ホラーに慣れてるせいで怖さに関しては散歩のアクセント程度にしかなってないけど。


「キィィィィ……」


「ギャア……ギャア……」


 夜の森にモンスターの声が響く。夜のモンスターは昼間よりも凶暴なのが多いから絶対に見つからないようにしないと……だから《隠密》や《忍び足》の経験値が多いんだけど。


(あぁ、そうだ。木の皮いくつか持って行こう)


 ちょっと罠の材料として使いたいんだよね。《罠術》は罠を作ってそれを解除するって繰り返せば取れるスキルだから早めに材料を集めておきたい。本当はゴミ捨て場で紐を手に入れられれば良かったんだけど……無かったから木の皮で代用。私はナイフで木の皮をいくつか剥いで袋に入れる。


「キュロロロ」


ガサガサガサ!


(っと、モンスターが来たから隠れよう……)


 私は茂みに隠れて動かずにいた。しばらくジッとしていると3m程の黒いトカゲのようなモンスターが出てきた。あれはナイトリザード……


(暗殺者の防具の素材として序盤にお世話になるやつだね……)


 艶のない黒い皮は隠密能力を向上。更には熱を吸収する効果で《熱源感知》とかのスキル持ちにある程度対抗できる。是非とも狩りたいモンスターだけど……攻撃向けのスキル無しで相手にするのは流石に無理だね。


「キュロロロ」


 ナイトリザードは舌をチロチロと出してのっそりと移動していく。そして私がさっきまで居たところで止まった。


(バレた?いやナイトリザードは視覚が鈍いから大丈夫なはず)


 あのトカゲは夜間活動に特化したせいで目が悪い。バレたとなると……匂いか?あいつ嗅覚は良いから。


(匂いは気をつけてるんだけどね……ちゃんと水浴びしてるし)


 あの家。井戸は死んでないから水はなんとかなるんだよね……滑車が壊れてかなり重労働だけど。暗殺者は臭いにも気を使わないといけないからちゃんとやってる……あと私自信汚いのは耐えられない。


「キュロロロ」


 ナイトリザードはスンスンと地面の臭いを嗅ぎながらこっちに近づいてくる。私は短剣を持って襲いかかってきたら攻撃できるように備えた。そしてナイトリザードとの距離が2mを切った……その時。


ガサガサガサ!


 ナイトリザードの後ろの茂みが大きく揺れた。どうやら別のモンスターが通り抜けていったみたい。


「キュロロロ!」


 ナイトリザードは揺れた茂みに向かって走っていった。私はふぅ……と息を吐いた。


『スキル《隠密・Ⅰ》を取得しました』


 見つかりかけたから経験値多かったようだね……まぁ、このスキルもちょっと見つかりにくくなる程度だから安心できないけど。


「ランクアップ頑張ろう……せめてⅢまで伸ばさないと」

 

 そこまで上げないと意味が無いからね……暗殺者はこういう準備が沢山必要だから人気無いのかな。あとやること地味だし。


(とりあえず散歩続けよう……あっ、キノコ見っけ)


 私は採取をしながら夜の散歩を続けた。そして《忍び足》と《暗視》も無事に習得し荒屋へ戻った。

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