第12話 メイドは凄いんです

 月曜日。休み明けでだらけた雰囲気になることが多い曜日だ。俺のクラスは休み明けの締まらない気分の時に、一時間目の授業が体育である。

 一年の時は、ゴミ虫共が同じクラスだったせいで、体育は嫌いだった。幸い二年になってからはゴミ虫共とはクラスが別になったため、体育はそれなりに楽しい。


「ああ……眠たすぎる」


 昨日の素振りが中々納得いかなかった俺は、夜の十二時まで外にいたせいで寝不足である。

 それに比べて友樹の方は、元気そうに体を動かしている。


「またか、バスケで目を覚ませよ。お前好きじゃん」


「まあそうなんだけど、月曜日の最初がこれはキツい」


 今の体育はバスケをしていて、女子も同じだ。そのせいで男子と女子は体育館と場所が被ることになり、女子達の揺れている山二つを見ながらニヤけてい男子が結構いる。

 当然真剣にバスケをする人もいて、俺もどちらかといえば後者だ。だが今日に関しては、殆どの男子は女子の方に視線が吸い寄せられている。


「みんなリアラさんに釘付けだな」


 友樹は既に彼女がいるので気にしていないが、他の男子の下心に感心しながら見ている。


「なんか一人だけ違うもんな。あいつ、先生のシュートの説明聞いただけで完璧にこなしてるし」


 この学校は部活に力を入れていて、女子の部活も全国にいったりなど、殆どの部活が高レベルだ。女子バスケ部もあるのだが、リアラは同じクラスのバスケ女子よりも上手く見える。

 先週は三対三で軽く試合をして、今日は五対五の本格的な試合をしているが、リアラがミスをしたことは一度たりともない。


「あ、次俺らだぞ」


「そうだな」


 グループ分けで偶然同じチームになった俺と友樹は、コートの中に入って整列する。そしてついに試合が始まるという時に、チラッと隣のコートを見ると凄い事が起こっていた。


 なんとリアラが裏拍手のドリブルで一人抜いたあと、二人目をクロスオーバーで抜いて中に切り込み、そのまま跳び上がってダンクを決めた。クロスオーバーで抜かれたバスケ女子は唖然としていて、男子の方も言葉を発していなかった。


「……身長百七十もないだろあいつ。確か設定上は百六十九だぞ」


「リアラさん容赦ねえな」


 動画サイトでたまにバスケの動画を見ているのだが、あそこまで完璧な裏拍手を実際に見るのは初めてだった。やり始めて二日目のスポーツでここまでできるのは、異常としか言えない。


「俺よりジャンプ力あるな……普通に凄すぎるだろ」


「ははっ、これは和樹も負けてられないな」


 ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、友樹は肩を組んでくる。


「俺あんなキレッキレにできないぞ」


「ボール使うスポーツ殆ど得意なお前が何をおっしゃいますか。中2の球技大会のサッカーの動画だって、ルーレットからのミドルシュート決めてたじゃん」


 その動画というのは、父さんと母さんが暇で見にきた時に、家においていた俺のスマホで勝手に撮ったものだ。

 まだ友樹と仲良くなって間もない頃に、なにか中学の時の動画はないのかと言われて探してみると、その動画しかなかったのだ。


「じゃ、俺サポートに回るからじゃんじゃん決めてくれ」


「あっ、おい!」


 勝手に話を進められたまま始まった試合。俺はあまり動かずに、スリーポイントラインから三メートル程離れたところで待っていたら、本当に友樹からボールがまわってきた。


「……はぁ」


 俺のマークについていた男子は、ドリブルを警戒して俺から二歩下がった。


「あっ、ありがとう」


 手首をかなり鍛えている俺は、その場から動かずにボールを放った。綺麗な放物線を描いたボールは、そのままゴールリングに吸い込まれる。


「あ、ラッキー。入ったわ」


「嘘だろ……」


 俺をマークしていた男子は目を見開き、自陣のコートに後ろ走りで戻る俺を見ている。


「流石っす」


「どうも」


「その調子でダンクも頼むわ」


 友樹は当たり前のように言ってきたあと、目線でいけるだろ、と訴えかけてくる。


「は? いや、俺ダンクはやったことないんだけど」


「大丈夫だって」

  

 なにがだよ。別にやらなくていいだろ。


「ジュース奢ってやるから」


「よし任せろ」


「決断はやっ!」


 俺はボールを持っている男子に近付き、パスをしようとしていたのでそれをカットする。相手のコートががら空きのところにドリブルしていき、一か八かで跳んでみた。

 届くのかかなり怪しいところではあったが、思いの外ジャンプ力があった俺は見事にダンクシュートを決めた。


「よしっ! じゃあ友樹、ジュースあざす」


「マジでダンクできるのかよ……」


 友樹は冗談半分で言っていたようで、予想外の出来事に驚きを隠せていない。周りの試合を見ている生徒達も、体育の授業でダンクシュートを見ることになるとは思ってもみなかっただろう。自分でもいきなりダンクシュートができたことには驚いている。


 やはりあの三人がいなければ、俺はそれだけで楽しい。もし上本でもいようものなら、調子にのるなとか基準の分からない文句を言われるのがオチだ。


 ──まあそれでも、周りの目を気にするのは変わらないんだけど。

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