第11話 メイドと遊んでみた

 リアラが現実に現れてから、一週間が過ぎた。

 リアラの下着姿を見たあとは、三日間口をきいてくれなかった。何をするにも無言で、出迎えも来てくれない。流石にもう終わったかなと覚悟していたが、必殺の土下座を三日間続けていると、「次やったら本気で殺します」とだけ言われたが、何とか口はきいてくれるようになった。

 

 そんなハプニングを乗り越えた十月も、終わりを迎えようとしている。そして十月最後の土曜日に、なんと二週連続土曜がオフ。監督がメールがきた時は思わず「よっしゃー!」と叫んでしまった。基本は月曜日がオフなので、それほど野球部の一日オフは貴重なのだ。


「……でも、やることないんだよな」


 ガールズブレイカーを開いても、リアラは使えるようになっておらず、最近はログインだけになってしまっている。

 

 一見、殆ど友達のいない俺にはつまらない日常のように思えるが、一つ嬉しいことがあった。

 それは、リアラが一緒にご飯を食べてくれるようになった事だ。突然の事でビックリしたのだが、朝ご飯をリアラが用意してくれている時に、自分の分も用意していたのだ。

 思わず二度見した時には、「……なにか?」と相変わらずのひんやりとした目で見られ、「あ、なんでもない」とだけ返した。だが、今までの関係からすればかなり前進したと言えるだろう。


「友樹は茜とデートって言ってたな。リア充爆発しろ」


 ……いや、外から見れば俺もリア充か。こんな美少女と一緒に生活してるんだもんな。


「でも実質半家庭内別居みたいな感じだよな。家事以外は部屋から出てこないし……」


 案外スマホでゲームでもしているのかもしれない。想像は全くできないが、あっちの世界にスマホがある描写はなかったし、こっちに来てからは新しい発見でいっぱいな筈だ。

 神にスマホの使い方は事前に教えてもらっているようで、アプリの入れ方も知っているだろう。


「……実はゲーム上手かったりして」


 例え操作方法が分からなくても、教えればすぐに上手くなる人はいる。俺の父さんがそうだ。

 ガールズブレイカーの存在を知ってから、俺に教えてくれと言ってきたので教えてみると、謎の才能を発揮した。まあ俺には勝てないけどな。


「そう言えばなんでも命令していいんだよな。一緒に遊んでくれって言ったら……いや、リアラの意思を無視して遊ばせるのは駄目だ」


 何かいい方法は無いのかと、脳をフル活用して考えた結果は、これしか思いつかなかった。


「うん、甘いもので釣ろう」


 女子で甘い物が嫌いなやつなんてあんまりいないだろ。知らんけど。

 俺はリアラの部屋に向かい、ドアをノックした。


「リアラ、ゲーム一緒にし」


「嫌です」


 ドア越しに声が聞こえてきた。……まだ全部言いきってないんだけど、どうすんのこれ。まあ普通に誘っても無理なのは大体分かってた。


「……そうかぁ〜、一緒にゲームしてくれたら、ケーキでも買ってあげようと思ってるんだけどなぁ」


「……別にいりません」


 おっ、少し返答が遅れた。やろうか迷ってたな。これでもやってくれないのは一応想定内だ。最後に畳み掛ける。


「へぇ〜、俺に負けるのが怖いのか。それじゃあ仕方ないな」


「……」


 しばらくドアの前で待っていると、部屋の中で足音が聞こえた。そして俺がドアから離れる前に、ドアが勢いよく開いた。


「おごっ!?」


 俺はドアに鼻をぶつけてしまった。滅茶苦茶痛い。まじで鼻へし折れたかと思ったわ。


「……ふっ」


「おい、鼻で笑うな」


 初めて見た笑いが鼻で笑うかよ。てかそっちが勢いよく開けたんだから、笑える立場じゃないだろ!


「……ちゃんとケーキは買ってくださいよ」


「ん? あ、ああ、今日買ってくるよ。そんなにケーキ食べたかったのか?」


「うるさいです。早くやりましょう」


 リアラは俺よりも先にリビングに向かっていく。やだ、ツンデレだわこの子。すっごく可愛い。


「でもまさか本当に遊んでくれるとはな」


 誘ってみたとはいえ、半分は諦めていた俺だが、リアラがのってくれたのは素直に嬉しい。俺は気分を高揚させながら、リビングへ戻った。




  ◆




「……意外と簡単そうですね」


 これからやるゲームはレースゲームもので、今はコントローラーの操作方法を教えている。……人一人分離れて。


「それで、何レースするんですか?」


「基本は八レースだけど。」


「そうですか。……態々ケーキまで買う約束をしてまでゲームをしようなんて、変な人ですね」


「ケーキはたまに買いに行くし、誘う口実にちょうどよかったんだ」


 俺はリアラの表情を伺ってみるが、興味があるというわけではなさそうに見える。ゲームは一緒にやってくれるものの、あまり乗り気ではないようだ。ただ挑発されたことにイラッとしただけか、単純にケーキが食べたいかのどちらかだろう。


 俺は遊んでくれるだけでもありがたいと思い、早速八レース制でプレイした。遊び慣れている方と初めての方であれば、遊び慣れている俺の方が順位が上なのは自然なことで、多少の手加減はしたものの全部俺が勝ってしまった。

 それどころかリアラは十二人がレースいる中で、7回目のレースが終わった時点では一回も六位以内に入れていない。結局最後のレースも六位以内には入ることができず、レースが終わったあとに俺はリアラの表情を再度伺った。


「──っ……」


 リアラの表情は、まるでくっころをしている女騎士のように、とても悔しそうな顔だった。普段のクールな立ち振る舞いとは一見、かなりの負けず嫌いのようだ。


「……ぃです」


 リアラがぼそっとなにかを言ったが、よく聞こえなかった。


「え? なんだって?」


「──もう一回です。このまま終われないので」


 何故かジト目を向けてくるリアラだが、気持ちはなんとなく分かる。俺が一回で聞き取ればよかったんだよな。


「ああ、いいよ。何度でも」


 嫌われているのかもしれないが、彼女の負けず嫌いな可愛いところが見られるのであれば、ゲームに誘った甲斐があったというものだ。

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