第9話 メイドが学生になりました
朝のHRが終わった直後、リアラの美貌に魅入ってしまった生徒達の殆どが、一斉にリアラに駆け寄った。俺が前の席だということはつゆ知らず、押し出されそうな勢いである。
「日本語上手だね」
「今度遊びに行かない?」
お近づきになりたい奴らは、リアラに近づいて遊びに誘おうと頑張っている。リアラは一応学校だということで我慢しているのだが、女子には普通に受け答えするものの、男子には冷たい視線を浴びせながらイヤイヤ答えている感じだ。
「はあ……爆発しないといいけど」
俺の席だとうるさい為、一度廊下に出て友樹と話す。友樹は「何が爆発すんの?」と、興味津々で聞いてくる。
「リアラ、人が嫌いなんだよ。特に男子。レイプされかけてから人を信用できなくなったんだとよ」
「ゲームの中ではそんな裏話が繰り広げられてたのか」
「あっ、友樹ー!」
声がする方を向くと、茜が手を振りながらこちらに向かってきていた。
「転校生来たんでしょ? 美人さんだって噂だけど、どんな人?」
「リアラだよ」
俺が正直に言うと、茜はポカンとしてやれやれと両手を上げる。
「そんなわけ無いじゃん。現実にリアラちゃんがいるわけ……」
人混みの間から微かに見える銀髪と顔に、茜は言葉が出ていない。そしてゆっくりとリアラがいる方に近づいていく。
「待て待て」
俺は茜の制服を掴んで引っ張った。茜はリアラと話したかったのか、俺に静止されたことに口を尖らせ、
「なんでよ〜、話させてくれてもいいじゃん」
「リアラは人間不信なんだ。今だってどうしたらいいか分かんない状態だ」
「へぇ〜……ってなんで和樹君がそんな事知ってんの?」
ああ……俺に知り合いが少なくて助かった。仮に友達沢山いたら、何人にも同じ説明していかないと駄目だからな。
「ガチャで当てたら本当に来て、今は同居中。それでなんていうの? 裏話的な事も聞いてる。レイプされかけてから、特に男には敵対心ビンビンなんだよ」
「そうなんだ……和樹君は一緒に暮らしてるって事? 自分がビンビンになっちゃったりしてるんじゃ痛っ!?」
俺は茜のおでこに軽くデコピンをした。ビンビンになったら俺は恐らく殺される。というかあの話聞いてビンビンになるやつは、もはや頭がおかしい。
「ならねえし、てか女子がそんなナチュラルに下ネタ言うな。繋ぎは上手かったけど」
「お前も褒めてるじゃねえか」
おっと、つい口が滑ってしまった。結論は俺がビンビンとか謎の単語を使ったせいですね、はい。
「まあそういうことで、ちょっといってくる」
「なにしに……ああ」
俺がいなくなったことでクラスメイトに座られている、俺の席に向かう。リアラは受け答えはしているものの、絶対に嫌なはずだ。リアラの事情をだれも知らないのだから、中々たちが悪い。
「ごめん、俺座るからそこどいてくれない?」
少し大きめの声でそう言うと、リアラに集まっている生徒達からの声が途絶えた。
「あと、そうやって質問ばっかりしてるけど、会うの初めての相手にそんなグイグイいくのはまずくない? 実はコミュニケーション苦手かもしれないじゃん」
俺の言葉にどれだけの影響力があるのかは分からないが、一応納得してくれたのか、生徒達はリアラに一言声をかけて離れていった。
まあ、どうせ昼休みになったら噂聞きつけた他のクラスのやつらは、リアラの事見に来たりするんだろうな。だって絶対学校で一番美人だもん。
「災難だったな」
「……助かりました」
一応お礼は言ってくれたようだ。確かに鋭い視線がたまらないとか言ってる変態もいたからな。今のリアラには不快でしかないだろう。
「てか、何で学校来てるんだ? やっぱり神様が?」
「はい、通いつつ仕事もこなせと」
やっぱりあいつは俺を弄んでるな。今も俺の反応見て楽しんでるんじゃないか?
(大正解)
聞いたことのある声が聞こえてきた。友樹やリアラには聞こえていないようだ。
遂に心の中に話しかけてきたよこの人。明るい感じが言葉に表せないほどうざいんだが。
(つれないなぁ……せっかくリアラを送ってあげたのに)
確かにそれについては感謝している。洗濯や掃除もしてくれているため、前の生活よりは断然楽になった。だが、態々学校に通わせる必要はないと思う。
(まあリアラは年齢同じなんだしいいじゃん。じゃあよろしくね)
結局弄ばれた俺の耳には、声が聞こえてこなくなってしまった。時計を見ると既に授業が始まる一分前で、俺は次の授業の準備をする。
「……リアラって十七歳だったのか」
誕生日とか記載されてなかったし、歳なんて知ってるわけがなかった。十七歳なのに滅茶苦茶大人びてるし、外見的に見て二十二とかそこら辺だと思ってたわ。まあ高校に通わせるんだから、十七歳なら丁度いいよな。
「……」
あれ? じゃあ何故リアラは俺に何も言ってくれなかったんだ?
「……言う必要がないでしょう」
「うおっ……ビックリした」
リアラは俺の考えていることが分かったのか、小さめの声で的確な答えを返してきた。もしかしてリアラは人の心を読める能力でもあるのか?
「私と同居していることがバレたら面倒でしょうし」
「あ、ああ……それはそうだな」
リアラなりに気を使ってくれたのだろうか……。まあ話してくれない時点で、信用はされていないというかなんというか、複雑な気分だ。
「あと、放課後に校長先生が呼んでいるらしいので」
「え? 俺なんかしたっけ」
「……私がこの学校に編入したのも神が言ったことですので、それに関連することかと。あと和樹様と同居していることも知っているらしいです」
おいおい、普通高校生同士が同居してるってやばいんだよな。それを勝手に伝えるって、なんてことしてくれてるんだ。
……いや、神様のことだから結構いい感じに言いくるめてくれているかもしれない。俺が考えるだけ無駄な話だ。
「授業を始めるぞー……と言いたいところだが、今日は数学の先生が出張でいないから自習だ」
白崎先生が教室に入ると同時に言う。俺からすればかなり嬉しい話で、一時間の睡眠を取ることができる。
「おやすみ」
自分に一言かけて、俺の意識はは夢の中へ消えていった。
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