第8話 外国人?

「和樹様、朝です。起きてください」


 無機質な声が聞こえてくると共に、俺はゆっくりと目を開けた。すると目の前にいるのは、太陽の光が反射してくるほどの艷やかな銀髪の美女がそこにいた。

 だが俺はもう少し寝たい。そういうことで俺は再び目を閉じる。


「……早く起きてください」


 布団をめくられて温まっていた体に少し冷えた布団の外の空気が体に触れる。


「今何時? もう少し寝かせてくれ……」


「七時十五分です。和樹様がこの時間に起こせとおっしゃったのですから、さっさと起きてください」


「手厳しいね……よいしょっと」


 いくら自分が設定したとはいえど、朝のベッドほど出たくならないものはない。


「朝食はできていますので」


「分かった。すぐ行く」


 リアラが部屋を出た後、俺は制服に着替えて洗面所に向かい、すぐに顔を洗って歯を磨く。


「ふぁー……はっほういやはな……」


 最近は学校に行くモチベーションが低くなっているが、こうして歯を磨いている間にも刻々と学校に行く時間は迫っている。


「ぺっ……ふぅ。……朝練がないだけマシか」


 幸い監督が朝練を強要しているわけではなく、するなら各自で好きにやっていいとなっている。

 俺は夜遅くまでやるタイプなので、朝までやろうとは思わない。


 俺の朝ご飯は曜日ごとにパンとご飯で主食を分けている。

 月曜日はパンの日で、それにスクランブルエッグとベーコンにサラダが添えられたものがテーブルに並べられている。


「いただきます」


 相変わらずリアラは俺と一緒には食べない。リアラを見ている感じだと、朝早くに起きて自分で勝手に食べているのだろう。

 

 食べ終わった後は優雅にコーヒを飲むといきたいところだが、別に時間に余裕があるわけではないので、少し早めにコーヒーを流し込んで学校の鞄を手に取り、野球のカバンとバットケースを背負って持つ。


「じゃあいってくる」


「いってらっしゃいませ」


 気のせいか分からないが、昨日よりは敵対心の薄れたような表情をしたリアラから送り出され、俺は学校に向かう。


「ちょっとのんびりしすぎたかな」


 速歩きで学校に向かっていると、校門の前に見慣れている姿が見えた。


「おはよ」


「おっ、和樹か」


「なんだ、もう少し遅くてもよかったか」


 速歩きの時間が長すぎたのか、思ったよりも早く学校についてしまった。別に悪いことでもないが、多少なり疲れてしまった為、少し損した気分になる。


「ん?」


 上履きに履き替えている時に、スマホのメールの着信音がなった。こんな時間にメールしてくるやつなんているのか。


「誰だこんな時間に……は?」


 俺は自分の目を疑った。……いやいや、なんで登録もしてない神様の連絡先が俺のスマホにあるんだ!

 ちなみにメールの文はというと、


『あっ、勝手に登録しちゃった。まあいいじゃんこれからも連絡し合うんだし。それでなんでメールしたかなんだけど、まあ面白いことがあるって伝えたかっただけ。それじゃ』


「……」


 何が勝手に登録しちゃっただ! 普通に怖いんだけど! てか、面白いことってなんなんだよ。今の学校に俺が面白いと思う要素なんて一つもないんだが……。


「どうかしたか?」


 友樹が俺の様子が変だと分かり、声をかけてくる。


「いや……なんでもない」


「……そうか」


 顔を見る感じ、少し俺を怪しんでいるように見える。俺なにか悪い事したっけ?


「なあ和樹」


 唐突に立ち止まった友樹が俺に問いかけてきた。

 

「……なんだよ」


「最近ちょっと注目されてる人がいるんだ」


「そうなのか」


 ……やっべぇー手汗ベタベタなんだけど。


「日曜日に銀髪の女の子を学校で見かけた人がいるんだって」


「……」


「それも俺と和樹がよくやってるゲームのキャラにすごく似てるんだよ」


 なぜ俺にそんな事を言う? ……いや、俺がリアラを当てたんだから、そのリアラに似てる人が現れたら友樹が考えるのはこれしかない。


「……」


「……やっぱり何か知ってるんだな! さあ吐け!」


 友樹は俺の両肩を持って体をグラグラと揺らしてくる。


「わかっらからゆらふな!」


 一旦俺は友樹から離れ、体から落ちた鞄を拾う。


「後で話してやるから、まず教室行こうぜ」


「分かった。まあ大体予想はついてるけどな」


 バレてしまったことは仕方がない。というかいずれバレるのであれば、先に話しておくほうが気が楽だ。

 問題は何故リアラと思われる人物が学校に来ていたのかだ。


 まずは教室に入り、俺の席で話をする。窓際の後ろから二番目の席の為、殆ど誰にもバレずに話すことができる。


「もしかして和樹の家にいるのか?」


「……おっしゃる通りでございます」


「マジかよ……なんで現実にいるんだよ。普通ありえないだろ」


「友樹、神様は本当にいるんだぜ」


 謎に決めゼリフっぽく言ってみるが、友樹のキョトンとした顔を見るとこの言い方は失敗だったと分かる。


「いや本当だから。グラサンマスクで俺の家来たんだから。さっき俺がスマホ見たのも神様からのメールだ」


「……なんかいざゲームのキャラが現実にいると、なんて呼べばいいか分からないな……。えっと、リアラさんってもしかして昨日家に遊びに行った時からいたのか?」


 ……え? 何そのジト目。もしかしてなんでリアラと会わせてくれなかったんだとか思ってる? それだったら彼女で我慢しとけって言うけど。


「いたよ」


「なんで会わせてくれなかったんだよ〜」


「……色々あるんだよ」


 友樹はフレンドリーで親しみやすい性格だが、今のリアラにそのフレンドリーさは相性最悪だ。恐らく会っていれば友樹が速攻殺されてるまである。


「てか、なんでリアラさんは学校に来てたんだ? お前、実はリアラさんに弁当届けてもらってたとか?」


「んなわけ無いだろ」


 仮にそんな事をしてくれるなら、そんな日がくるのはいつになるんだろうな。


 この疑問が膨らんでいく会話は、ガララッと教室の扉が開く音で終わりを迎える。


「席につけ」


 白崎先生の声は休み明けのダラッとした雰囲気を一掃してくれる。まあ部活してるやつに休みなんて無いに等しいけどね。土日なんて消えてしまえと思う。


「今日は編入生がこのクラスに来る」


 ここで隣にいる友樹の方を向くと、丁度友樹も俺の方を向いた。


「よし、入ってきてくれ」


 開いている扉から見えてくる腰まで伸びたサラサラの銀髪に、一体いつ用意したんだと俺だけが思う制服に、朝も見た完璧美少女の顔。


「リアラ・アニシナです。ロシアから来ました。よろしくお願いします」


 まあ銀髪だし、ロシアから来たって言えば何とかなるはずだ。ガールズブレイカーを知っているやつが、「あれって、ガルブレのリアラじゃね?」と疑っているが、現実にいるわけがないという意見のやつばかり。似ているだけと思われているだけで、本物とは誰も思っていないようだ。


「席は宮本の後ろが空いているな。そこに座ってくれ」


「なんでやねん……」

 

 思わず関西弁出ちゃったよ。そもそもなんで俺のクラスに、しかもよりによってなんで俺の後ろが空いてるんだ! 


「処理が追いつかん……」


「すっげぇ……本当にリアラじゃん」


 友樹はリアラを拝むことができて見惚れてしまっている。


「友樹、間違っても話しかけようとか触れようとかするなよ」


「え? なんで……」


 友樹は俺の言葉を聞いてリアラの方を見る。ゆっくりとこちらに向かってくるリアラの表情は、とてもじゃないが編入を喜んでいるようには見えない。寧ろ周りの男子をゲスを見るような目で睨みつけている。


 恐らくだが、神様が学校に通えとでも言っているのだろう。そうでなければ男子というか人を嫌いなリアラが、学校になんて通おうとするわけがないからな。

 一体神様は俺とリアラに何を求めているのだろうか。謎は深まっているばかりだ。

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