第4話 神様が現れた
四時になり、部屋からリアラが出てきたので、俺は適当に食べたいと思った食材をメモに書いてリアラに渡した。
「……あのさ」
「なんですか?」
「……メイド服で行くの? 流石に注目されると思うんだけど」
「……面倒くさいですね。着替えてきます」
意外と天然も入っているのか、ゲーム内の常識が抜けきっていないのか、リアラはメイド服のままで行こうとしていた。
確かに異世界とかそっち系の世界なら、メイド服の人が街にいても不自然ではないだろう。しかしここでメイド服で出ていけば、コスプレして買い物に来る変な人になってしまう。
しばらくして部屋から出てきたリアラは、上が黒のセーターで下がジーパンと少し地味な格好で出てきた。だが、元々美人で可愛いなリアラが着ていると、寧ろリアラの可愛さを強調しているようにも見える。
普通の服を持っているのは、神様が事前に渡しているのか買ったのかは俺には分からない。
「これでいいでしょう」
「うん。……じゃあ気をつけてな」
「言われるまでもありません」
本当に道を知っているのか不安だが、ついていくと言っても嫌な顔をされるに違いないので、あとは何も言わずに見送った。
「何着ても可愛いとか最強じゃん。何ならジャージでも可愛いに違いない。……でもいつになったら普通に話してくれるんだろ。男に抵抗ありすぎるだろあれ」
俺はあの子の心を溶かせるほどの存在になれるのだろうか。ただでさえ自分の心が闇に染まりかけている俺に、そんな事ができるのだろうか。
「何があったんだろうな」
リアラの事が頭から離れない俺は、ソファーに座りながらしばらくぼーっと考えていた。
するとリアラが帰ってくる前にインターホンが鳴った。
今回は誰なのか分からないのでモニターを確認したのだが、サングラスにマスクをつけたとても怪しい奴に見える。
「何だこの人……」
得体のしれない男と、リアラがここにやってきたタイミングはやけに不自然だ。
この男が父さんの言っている神様なのかもしれないと思い、俺は思いきって玄関の扉を開けた。
「あ、やっほー、神様です」
「……」
やはり神様だった。長い顎髭を生やした爺さんがイメージにあったため、少し拍子抜けだ。声はそこらへんにいそうな若者の声で、髪は黒寄りの茶髪といった感じ。
「あれ、反応薄いな?」
「いや……神様と言えば爺さんを想像するじゃないですか。あまりに普通男すぎて……」
声は別にそこらへんにいそうなのだが、雰囲気は普通の人とは違うなにかなのは分かる。そこは神様特有の雰囲気なのだろう。
「ははっ、まあそんなかしこまらなくていいよ。取り敢えず家に入ってもいいかな?」
「……いいよ、入ってくれ」
こういう時は言われたようにするべきだ。俺は砕けた口調で喋り、神様を家の中に入れた。
「さあ、何が聞きたい? 本当にかしこまらなくてもいいし、横に座ってよ」
リビングのソファーに座りながら神様は言った。俺も神様の隣りに座って少しだけ考えるも、すぐに質問することはまとまった。まず最初に聞くならこれしかない。
「じゃあ、なんでリアラをここに?」
「やっぱりそこだよね。それは、ガルブレがリアラを出す時から決めてたんだよ。当てた人の元へ送り出すってね」
あっぶな! 俺が当ててなかったら他の人のところに行ってたかもしれないのか。ハゲの変態の人が当てたりしてたらもう最悪じゃん。
ひとまずは当てていてよかったと俺は安堵の表情を浮かべる。
「まあ君の元に送り出せて僕も良かったと思ってるよ。ゲームのストーリーの裏で何が起こってるか知らないでしょ?」
全国民誰もが分かるわけがないであろう、ストーリー外での出来事。やはりリアラがあそこまで男嫌いをこじらせているのには、そのストーリー外での事が原因なのだろう。
「リアラはね、雇われていた人からセクハラを受けてたりしたんだ。両親が死んでから拾ってくれた家で、変に抵抗もできない。反抗して雇い主を殺すなんてとてもとても……」
俺の予想大体合ってたんだ。それにしても酷い話だなこれ。
「それでもまだ胸とかお尻触られるぐらいでなんとかなってたんだ。けどね、遂に雇い主はリアラを本格的に襲おうとしたんだ」
「それはつまり……」
「うん、レイプだね」
ゲーム内で凄い事が起こっていた。もはや現実にありそうな話である。実際リアラが美人で手を出したくなるのは分からないわけでもないが、惚れられてもないのに流石に手を出したらもう負けである。
「その時にちょうど君がリアラを当てたから連れ出したってわけ。凄いでしょ」
「そりゃ凄いわ。まずゲームのキャラが現実にいるなんてまだちょっと不思議感が抜けてない」
「まあ、そんなわけでリアラは男嫌いなんだよ。ついでに人もあんまり信用できなくなっちゃった感じだよ。君と似たようなもんさ」
「……俺の事も知っているのか」
似たようなものと言われ、少し心臓がキュッとする嫌な感じで体が反応した。
元々神様だと言っているのだから、俺の行動や性格など全てを把握していてもおかしくはない。実際俺がリアラを当てたことも知っていた。
「軽いいじめでメンタルやられてプレーにも影響してる。精神的にも疲れてきてるよね」
「……そうだな」
「友達に相談したところで状況は変わらない。親には心配をかけられない。それに相手に悪気がこれっぽっちもないんだから怖いよね。世の中こんなクソ共がわんさかいるんだよ」
神様は俺の全てを知っていて、俺が思っている事を全て言った。
「……ま、そんなわけで少しでも癒やしの要素があればと思ってリアラを送ってみたけど……無意味だったかな?」
「いや……実際あんな可愛い子と一緒に暮らせるのは嬉しい。結局俺も男だし、妄想が現実になったという点では滅茶苦茶感謝してる」
ぶっちゃけ性格良ければ全て良しなんてのは、はっきりと言えるほど俺の性格はいいものではない。ただひたすらに可愛い女の子が家にいることは、嬉しいものは嬉しいのだ。
「簡単に手は出さないでよ? リアラも君も死んじゃうかもしれないから」
「え? それって……ああ、リアラも言っていたな。メイドとしての仕事はこなさないと殺されるって。俺を殺せばリアラも殺すってことか?」
すると神様はゆっくりと首を縦に振った。
「僕もリアラに条件をふっかけて確認はしたんだ。ずっとセクハラを受け続けるか、他の場所でまたメイドとして過ごすかってね。それでまだこっちに来たほうがマシだと言ったからここに呼んだんだ」
質問が極端すぎるだろ! そりゃセクハラ受け続けるより他のとこ行ったほうがマシだと思うわ。
「あ、そろそろ帰らないと」
もう少し話をしたかったのだが、時間だと言って神様はソファーから立ち上がる。
「和樹君、リアラの事を救ってやってくれ」
「え……それってどういう……」
「その答えは自分で探し出すべきだ。すぐに分かるだろうけどね。それじゃあまたね」
そう言って神様はリビングから出て行った。その後を追うと既に玄関の扉が閉じかけていて、扉を開けて外に出ると既に神様は消えていた。
「……玄関から出て消えるならその場で消えても一緒じゃん」
神様なのに意外と人間味のある感じだったが、殺す事にはあまり抵抗がないことに関しては流石神様といったところだ。
「……救ってやってくれ……か。自分の事で手一杯なのに人なんか救えるかよ」
そもそもリアラが何を望んでいるのか分からない。本当に話すのも嫌なのだろうか……いや、それならそもそもメイドの仕事をしなければ死んで人と話す事もなくなる。
つまりは、リアラもまだ死にたくはないという事だ。ほんの少しでも何かに希望を持っているのだろう。
「……はぁ、これからどうすっかな……」
リアラの事も気にかけるのは当たり前なのだが、まずは自分の事を考えなければならない。なんだかんだでもうすぐ高校最後の学年になり、野球でプロを目指すのか、それとも別の道を歩むのか。それ以前の問題も山程抱えている。
「人生ハードモードだよなほんと」
せっかくのオフなので、もう少し寝たかった俺は自分の部屋に戻ってベッドに寝転んだ。しばらく目を閉じていると、そのまま俺は夢の中に落ちていった。
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