第2話 理想のメイド?

「男子高校生の部屋としては合格ですね。きちんと片付けられています」


 俺はリアラをとりあえず部屋に案内した。手には大きいカバンを持っていて、恐らく生活するための服やらが入っているのだろう。


「あのさ、本物のリアラだよな?」


「はい、正真正銘リアラです」


 メイド服はロング丈の露出が少なめで、これがリアラの雰囲気にとてもマッチしている。事前にお知らせに貼られていたリアラの画像と全く同じ姿で、まさに感無量だ。俺は今日幸せすぎて死んでしまうのではなかろうか。とまあ、興奮は後でするとして、


「何で俺のメイドになったんだ?」


「和樹様が私をガチャで当てましたので。それだけです」


 一応俺のメイドとしてやって来たらしいが、態度はどこか素っ気ない。だがそれよりも、俺はゲームでのリアラがどうなっているのか知りたかったので、ゲームから出てきた張本人に聞くことにした。


「ゲームではリアラはどうなったの?」


「私はもうゲームでは当たらないようになっています。ゲームで使えない理由も今ここにいるからです」


 和樹はガルバの排出キャラ一覧を見る。するとリアラの言っていた通りにリアラはゲームから消えていた。所持キャラ一覧のところにはいるものの、編成できないのは変わらない。


 となるとやっぱりここにいるリアラは本物なのだろうかと様々な疑問が浮かぶ。そもそもリアラは自分がゲームのキャラということを知っているのだろうか。俺はその事が気になり、リアラに聞いてみることにした。


「リアラは自分がゲームのキャラって事は知ってるのか?」


「はい、理解しております」


「何でゲームからこっちに来れたんだ?」


「はい、それは……」


 話を要約すると、リアラは突然現れた神様によって和樹のメイドになるようにと言われ、ゲームから現実に送られた。そして気がつけば俺の部屋の前に召喚されていていたらしい。その時には俺の情報を何故か全て理解していた。これが大体の内容だとリアラは言っている。


「そんな事あるのか……」


 とはいえ、これからはメイドのいる生活ができると心を踊らせていた俺に、衝撃の一言が飛んできた。


「……もういいですか」


「ん?」


「はぁ……質問はもういいですか? 後は自分で勝手に考えてください」


 ……どうやらリアラは冗談も言えるメイドのようだ。俺にこんなに冷たく接してくるなんてさっきまでとは大違いだ。


「私、人はあまり信用してませんので。特に男は見たくもありません」


「……」 


 畳み掛けてくるリアラに俺は言葉が出なかった。


「メイドとしての仕事をしなければ私は殺されるらしいので、仕方なく来ただけです。まあ下心丸見えで見てこない事だけは評価していますが」


 な、なんか俺が見定められてるんだけど……。てか一体ゲームの中では何があったんだ? ストーリー外での嫌がらせか? 主人にセクハラされまくってたとかそんな感じ? てか殺すってなんだよ、リアラ呼んだやつ鬼畜すぎるだろ……。


「部屋はまだ余っていると聞いているのですが」


「あ、ああ……」


 俺が住んでいるマンションは、父さんが金を持っているからか3LDKと贅沢な家である。俺はリアラを空いている洋室に案内した。


「ここは好きに使っていいよ」


「分かりました。では、今後は勝手に入ってこないでください。入ってきたら殺します」


 こっわ!? 俺のメイド滅茶苦茶怖いんだけど!?


「いや……流石にそれは」


「私はいつ死んでもいいと思っています。どうせ戻ったところでいい事なんてありませんし、あなたを殺して私も死ぬ事に後悔はしないです。この事はお忘れなく」


 そう言ってリアラは最後に冷たい視線を俺に向け、部屋に入って扉を閉めた。よほど入られたくないのか、鍵までかけている。


「……クールビューティーのクールの部分、冷たすぎるんだけど」


 メイドが現れたと思えば初対面の俺にすら冷たい視線を向けてきた。ゲームの中でよほど男を嫌う原因になっている出来事があったのだろう。


 それよりも、何故リアラがここに現れたのかがまだ腑に落ちない。色々考えてみると、父からメールが来ていたことを思い出した。なので和樹は父に電話をかけてみることにした。電話をかけると、2、3コールほどしたところで父が電話にでた。


『お、どうだ、ちゃんとメイドは来たか?』


「いや来たけどそうじゃない! 何でリアラが俺のところに来たんだ?」


『いや、なんか昨日神と名乗るやつが来たんだよ』


 なんとも怪しいやつが実家に来たもんだ。まずこの世に神が存在していると言う事が怪しすぎるが、取り敢えず話を進める。


「……それで?」


『お前がゲームでリアラを当てたから、リアラを召喚してメイドとして向かわせるって言われたんだよ』


「何だそれ」


「信じてないだろ、けどな、実際会ってみた時の雰囲気は他の人とは全然別物だったぞ」


 と言うことは本当に父が会った人は神だというのだろうか? だが、何故こうなったかは理解することができたので良しとしよう。


『母さんも興奮してたぜ? なんせラノベのような展開になってるからな。今度そっちに行くから俺達にも会わせてくれ』


「会ってなかったのか?」


『ああ、俺も欲しかったよ。密かに狙ってたんだがな』


 父さんがガルバをやっている事を初めて知った俺は、驚きを隠せなかった。


「父さんもやってんのかよ!」


『母さんもやってるぞ。まあ有名だからな、やっていくうちにどんどんハマってしまってな』


「……まあいいよ、取り敢えずわかったから、もう切るよ」


『ああ、これからは少し金を多めに振り込んでおくから、なんとか二人で頑張って生活してくれ。あと、野球も頑張れよ。敵は自分だからな』


「分かった。じゃあまた」


『無理はするなよ』


 そう言って父は電話を切った。


「さて、何とか状況は理解できたが……」


 銀髪にメイド服の美少女がこうして家にいる。妄想の中だけと思っていた存在が現実にいる事に喜びは隠せない。

 だが、


「はぁ……打ち解けられる日はこないのか?」


 少なくとも俺が嫌われていることは確定している。何故男が嫌いなのかは予想はしたものの、予想でしかない。


「これはあれか、美少女と住めるだけでも感謝しろ的なやつか」


 神様かなんだか知らないが、今の俺に癒やし要素が可愛いしかないメイドは少しきついものがある。


「卒業までの辛抱か。あと一年と半年ぐらい……長いな」


 ガチで殺してやろうかと考えるぐらいストレスが溜まっている時もあり、そんな湧き出てくる怒りの感情を抑えつつ生活するのは辛い。こうしてリアラが家に来てくれ、少しでも癒しになるかと思っていたが、俺が逆に彼女のストレスとなるかもしれない。


「なんでリアラはああなったんだ?」


 いじめや何もしていないのに殴る蹴るの繰り返し、仮にリアラがセクハラにあっていたとして、何故そんなことが平気でできるのかが全く理解できない。


「……どこへいってもクズは存在するのか」


 どす黒い感情が湧き上がり、折角の休みの日なのに少し病みそうになる。だが、そんな事を考えるよりも他に俺には対応しなければいけない事があった。


 ピンポーン


「……あっ」


 やっべ……友樹が来るの忘れてた。


「え、どうしよ、リアラいるのに家なんて上げたら……」


 俺は慌ててリアラの部屋の前に向かい、扉越しに声をかける。


「ごめん、友達くるからしばらく部屋から出ないでくれ」


 一言だけ声をかけて玄関に向かい、玄関の扉を開ける。


「おっす!」


「やっほー和樹君! お邪魔するね」


 友樹の隣にいる女の子が、友樹の彼女である浜村はまむらあかね。茶色の髪のショートカットで、胸は控えめだが、スタイルはいい。よく友樹と一緒に俺もと話をしたり遊んだりもする友達である。


「相変わらず元気だな。いいよあがって」


 俺は内心焦りつつもなんとか平然を装って対応する。そこで俺はリアラが履いてきたローファーの存在を思い出すが、家に入ってくる時に既に片付けていたのか、玄関にローファーは無かった。


「相変わらず広いとこに住んでるなぁ。部屋もそれなりにきれいだし」


「ほんと、野球部とは思えない」


「部屋はもてあましてるし、一人暮らし結構面倒くさいけどな。あと野球部部屋汚い偏見やめろよ」


 確かに練習の後は靴下臭くて泥だらけになるし、部屋汚そうなのは分かるけど……。


「それで、早くリアラ見せてくれよ」


「そうだよ、私も欲しかったんだからね」


 二人共リアラを見たがっているが、そんな期待は無駄だ。


「はい」


 俺はガルバの画面を開いて二人に見せた。


「……あれ? なんで編成してないの?」


 茜がもっともな質問をしてくる。誰もが欲しがっていたリアラを編成していなければ、当然その疑問が浮かび上がって当然だ。 


「編成出来ないんだよ。理由は分からん」


「嘘だろ? 問い合わせとかしてないのか?」


 ……そこは面倒くさいし盲点だった。これなんて説明すればいいんだ? 実はリアラが現実にいるんだって言うのもな……適当に誤魔化すか。


「まあ明日直ってるかもだし、駄目だったら問い合わせるわ」


「そうか……ならいいけど。取り敢えずなんかゲームでもするか」


 友樹と茜の二人は結構なゲーム好きで、外に遊びに行ったりもするが、どちらかというと家で遊んだりする事の方が多い。インドア派の俺からしても二人との相性はいいのだ。

 

「じゃあ今日のレースで負けた人は月曜ジュース奢りで」


 友樹が唐突に提案してきた。といっても、普段からこういった賭けはしているので、今更である。


「了解」


「よし、負けないからね」


 さて、今日も俺が綺麗に勝利をかっさらってやるとするか。

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