ゲームの推しキャラのメイドをガチャで当てた翌朝、玄関前にメイドが現れた
水野凧
第1話 ゲームでメイドを当てたら玄関の前に現れた
「はぁぁ……疲れたぁ」
まだまだ暑く感じる十月の夜に、俺は大きなため息をつきながら、一人で住んでいるマンションの部屋に戻ってきた。高校二年生の俺、
身長は百八十センチと、野球選手にしては普通ぐらいの高さだ。体型はそれなりにガッチリしているとは思う。
地元から離れた高校に通っていて、両親は俺に一人暮らしも人生経験だと言って寮には入らせず、今は父さんと母さんと俺の三人で暮らしていたマンションで一人暮らしだ。
元々父さんはプロ野球選手で、何年かは億を超える程の凄い選手だった。だが怪我をきっかけに引退して、今は何故かラノベ作家になっている。そんな父さんは作家の仕事が東京の方が都合がいいらしく、父さんと母さんは東京に広めのアパートを借りて二人で暮らしている。
プロ野球選手の時のお金と、ラノベもかなり売れていてお金はあるらしく、マンションは解約せずに俺の一人暮らし用の家となった。
「人の機嫌見ながら行動するのまじで面倒くさい……」
父さんの影響で小さい頃から野球をしている俺は、高校には特待生として進学している。
俺が通っている高校は頭髪検査などは基本的に緩めで、野球部も別に坊主は強要されていない。
中学までは坊主だったが、流石にずっと坊主なのも嫌なので、高校に入ってからは伸びすぎない程度に髪の毛を伸ばしている。
「……こんな筈じゃなかったのにな」
俺は野球部で軽いいじめを受けている。金を貸してと言って貸せば返って来なかったり、自分の知り合いに簡単にヤれそうな奴がいるから連絡先渡すから頑張ってヤれなどの、わけの分からない面倒くさい事ばかり。
入部したての時は別にそういったことをさせられていた訳ではないが、俺の顔が普通すぎるのか、それとも土壇場で強く言い切れない性格がいじめを呼んでいるのかもしれない。
「体育でふざけろとか幼稚かよ。まじであいつら小学生からやり直せよ」
あまり人を殴ったりする事に慣れていない俺は、どうしても嫌な事をやらさせても反発出来ない。
それでいて相手は暴力に何も感じていないのか、こっちが何もしていなくても殴ったり蹴ったりする。
「ちっ……仲いいと思ってた女も外面だけだったな。何が『え〜、あんな奴たまにご飯食べに行って奢ってもらうだけのかもだし〜』……ふざけんなしばくぞ」
気持ち悪い女声を出しながらぶつくさと、一人で愚痴っているのも虚しい。
自分が優しく接しようと相手からすれば勝手にやっているだけで、何も伝わらない事が殆どだ。しまいに人と話す事すら面倒に感じてくる。
「……ゲームしよ」
今から俺がするゲームは『ガールズバトルパーティ』といって、ガチャで女の子のカードを当て、育成した女の子達をパーティに編成して戦わせるというゲームだ。ちなみに略称はガルバである。
「俺は明日の為に魔宝石を五百個貯めたんだ。これで当たらなかったらもう知らん」
明日から更新されるガチャに幻のレアカードが導入されることになっている。そのカードのキャラの名前がリアラというメイド服を着た美少女。腰まで伸びた銀髪に、透き通るような碧眼、絵になるようなスタイル、冷静沈着でクールビューティー。
そんなキャラ設定で生まれたリアラの当たる確率が、0.000001%という、いつ当たるんだと言いたくなるレベルの確率。それに、リアラは当てた人が現れた場合、ガチャの排出からは除外される限定キャラだ。
「寮に入らなくて正解だよな。こんなゲーム寮でやったらキモいとか言われるに決まってる。リアラとか当たってみろ、発狂するぞ俺」
心の癒やしで言えば今のところは、二人の友達と言える存在に、ラノベとアニメとゲーム。なんて悲しいやつなんだって思うかもしれないが、友達なんて基本は狭い範囲で浅い関係を作ればいいのだ。
「さて……リアラが当たったとき用の強化素材と覚醒素材は準備しとかないと」
風呂に入る時も真空パックの袋に入れながらガールズブレイカーをプレイし、晩ご飯を作る時も食べる時もプレイする。普段はこんな事はしないが、今回だけは流石に避けきれない。
「明日が楽しみだ、ふっふっふ」
待っていろリアラ──必ず俺のものにしてやる!
◆
「眠てぇ……遅くまでやりすぎた」
野球の練習で疲れていた体をさらに酷使して、結局寝たのは夜の二時半頃。ショートスリーパーの俺でなければ授業中に寝るのはほぼ確定である。
俺が一人で登校していると、後ろから肩を組まれる。こんなふうに肩を組んでくるやつは一人しかいない。
「よっ! 和樹、おはよう」
「ああ、おはよう友樹」
肩を組んできた男子の名前は
クラスが一緒で、名前が少し似ていることから、友樹から声をかけてきた。ゲームの事で意気投合し、練習がオフの日はよく俺の部屋にも遊びに来ていたりする。
どんな人にも気さくに話しかけるいいやつで、俺は友樹の事を親友と勝手に思っている。
「お前絶対夜までやってたな」
「決まってるだろそんなの。今日だぞ今日」
そうこう言っているうちに、学校についた。HRまでまだ時間がある為、和樹と友樹はお互いがやっているゲームについて話している。
「和樹は何個貯めたんだ?」
「昨日やり残してたイベント終わらせて五百五十」
「って事は百十連か……。でもあの確率だろ? 俺も五十連分は貯めてるけど……」
「そうだな、正直当たる気はしない」
課金者なら俺の何倍もガチャを回す筈なので、確かに期待はするが百十連で当たるわけが無い。出来ることは当たった時の妄想をするだけだ。
「ゲームでもいいよ、あんなクール美人に尽くされたいよなぁ」
「妄想しすぎると悲しくなるからやめて。てか友樹は彼女がいるだろ」
今まで何度ラノベの中の女の子が現実にいたらと想像したものか。俺はラノベを読むたびに妄想して悲しい気持ちになっていた。
「ははっ、そうだな」
話をしていると、教室の扉が開き、担任の先生が入ってくる。
「おはよう。今日は全校集会だから体育館に集合だ」
担任の先生の名前は
体育館に着いてしばらく待っていると全校集会が始まり、校長先生の眠くなる長い話を聞いて終わった。
教室に戻れば、あとは何食わぬ顔で授業を受けて、野球のユニフォームに着替えて練習に向かう。
この高校の野球部は全体練習と自主練習の時間が半々ぐらいで、俺はこの方針に惹かれてこの高校に入学したまである。部員の人数も各学年十五人程で、コーチがおらず監督だけの珍しい野球部だ。
「宮本! 声が出てないぞ!」
「はい!」
今日の全体練習は内野と外野の連携を確かめる為のノックだが、最近の俺はあまりやる気が出ず、ガルバのガチャが気になっているせいか余計に声が出ていなかった。
おかげで野球部の監督である少し太った体型である
ノックが終われば、後はマシン打撃かティーバッティングかノックなど、自分の課題だと思ったところを練習する自主練習に入る。
俺はバッティングの調子が良くない為、野球部の中でまだ仲のいい
「ガルバはどう? ガチャは回すの?」
「当然だろ、引く以外の選択肢はない」
「そうだね。僕も頑張って石集めたし」
北村は俺がガルバを勧めてハマってしまい、一緒にガルバ話をしたりするいわゆるガルブレ仲間。野球部で不快感がない会話ができる唯一の相手だ。
「そういえばさ、結構仲良くなってた女の子はどうだったの?」
「ああ……俺はかもにされてたらしいわ」
「……やっぱり二次元の女の子が正義だね」
「ははっ、そうかもな」
後は走り込みや素振り、筋トレをして夜の九時頃になってようやく帰る準備をする。
「中村さん、お疲れ様でした」
帰る前に中村さんに挨拶をしに行く。中村さんは何故か監督と呼ばれるのが嫌で、さん付けでみんなは呼んでいる。部員との距離をできるだけ近くにおいておきたいのだろう。
「宮本か、最近元気がないようだが何かあったのか?」
「あ、いえ……」
「そうか……お前は才能はあるんだ。頑張れよ」
「はい、お先に失礼します」
中村さんとの挨拶を済ませた俺は野球の頭から完全にゲームに切り替え、すでに行われているガチャ更新を見るために早歩きでマンションに向かう。
マンションに着いた俺は急いで階段を登る。俺の部屋は二階にある為、階段を使った方が早い。
部屋に入り、すぐさまスマホの電源をつけてガールズブレイカーのアプリを起動させる。
「おお! カードイラストマジどストライク! 早速引くぞ!」
カードのレア度は、順にR、SR、SSR、リアラのカードのレア度はLRとなっている。今の俺にはLR以外のカードなど必要ない。リアラ一点狙いだ
「まずは10連」
ガチャには確定演出があるのだが、10連目は確定演出が無かった。その後も期待しながら20連目、30連目と回していくが、当たるのはRとSRだけ。
「これだけ頑張ったのに……せめてSSRぐらい出てくれよ」
淡い期待を嘆いて回した四十連目で、ついに確定演出がきた。
「よっしゃ! リアラきてくれ!」
ところが出てきたのはSSRが一枚だけ、狙いのリアラは出てきてくれなかった。
「何故だぁ! どうして出てくれないんだぁ!」
俺は出てきたSSRのカードを見ながら叫ぶ。
その後もガチャを回していくも全て撃沈。殆ど諦めつつも俺はプレゼント一覧を見た。するとそこにあったのは運営からのプレゼントでガチャ一回分の五個の魔宝石だった。
「一回分……これ出てたら苦労はないよ」
そう言いながらもガチャを回す。すると、思いもしなかったことが起きる。
「な、何だこれ!」
それは今までガチャを回してきて、一度も見たことがない演出だった。
そして出てきたカードは、
「うおぉぉぉ! 出た! 出たぞ! 遂にリアラが俺のもとに! 課金しなくても出してやったぜ!」
キラキラと輝くLRの文字に、落ち着いた表情をした、もはや神秘的に見える銀髪の美少女のキャラ。まさしくリアラが、俺のもとにやってきた。
「すぐに友樹に報告だ」
先にリアラを当てたほうは報告すると約束していたので、俺はメールアプリを起動し、友樹に報告した。すぐに既読が付き、『お前ずるいぞ!明日見せてくれよ』と送られてきた。『わかってるよ』とだけ返し、すぐにゲームの画面に戻す。
「早速編成して使ってみよう」
キャラ一覧でリアラを選び、パーティに編成しようとしたが、
「ん? あれ、なんで編成できないんだ?」
何回パーティ編成のボタンをタップしても反応は無い。他のキャラを試してみると、普通に編成できた。なのにリアラだけは編成できないのだ。
そこから俺はご飯を食べるときも、風呂に入っているときもネットで調べたりしてみるが、どう頑張ってもリアラだけが編成する事ができなかった。
「ふざけんなよ……もう疲れたわ」
ため息をついた俺はは諦めてスマホを充電し、ライトノベルを読み始める。俺の部屋の本棚にはライトノベル以外の本は無い。無類のライトノベル好きなのだ。
そもそもここまでライトノベル好きになったのは両親の影響があり、父さんと母さんがライトノベルが好きで、読んでみると俺もハマってしまった。
ライトノベルでは美少女が多い。そしてそんな美少女と結ばれる主人公。だが現実は彼女などいないただの陰キャの野球部。
「やっぱり彼女がほしいな……」
ラブコメを見ていて現実を見ると虚しくなる。友樹の彼女とも面識がある為、友樹と彼女の仲睦まじい場面を見ては、彼女がほしいと嘆いてばかり。なんで俺だけ彼女出来ないの? 神は俺に味方してくれないのか?
「もう寝よう。明日にはなおってるかもしれないし」
俺はスマホで音量小さめで音楽を流しながら眠りについた。
◆
カーテンの間から光が差し込んでくる。その眩しさで俺は目を覚ました。今日は珍しい土曜日のオフで、一日休める最高の日だ。
時刻は午前9時、メールで友樹が10時に家に行くと連絡が入っていたので返事をする。メールアプリをよく見てみると、もう一つの通知があった。送り主は父親。夜中に送ってきていたらしく、内容を確認すると、
『明日、和樹のところにメイドが来るはずだから、和樹の部屋に住ませてやってくれ』
「何だこれ? 寝ぼけてんのかな?」
俺は何を言ってるんだとメールの文を信じず、洗面台に行って顔を洗って歯を磨く。すると歯を磨き終わったタイミングで、インターホンが鳴った。
(友樹か? それにしては早すぎるし……)
誰かと思い玄関の扉を開けるとそこにいたのは、
「リアラと申します。和樹様のメイドとして参りました。よろしくお願いします」
「……へ?」
昨日ガチャで当てたリアラが、俺の目の前に立っていた。
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