第22話 決意の朝
翌朝――
ユーナはいつのまにか寝ていた自分に気がついた。
ルイザからの手紙を何度も読み返すうちに、横になっていたベッドでそのまま寝ていたらしい。
昨日は多くのことがあって、さすがに疲れていたのだろう。
へんな姿勢のまま寝たせいでこわばっている身体を、ぐーっと伸びをすることでほぐす。
窓から朝日が射している。
冬の空気は冷たいが、空気が静謐でユーナは好きだ。
唇から出る白い息も、なんだか神秘的な気がする。
そんな空気のなか、彼女は思った。
「教会に帰ろう」
それはルイザの思惑どおりの行動なのかもしれない。
断罪してほしいと彼女は書いていたが、もし戻ってもユーナがそんなことをしないのは、当然わかっているはずだ。
ルイザはきっと、ユーナが戻ったのを見届けて、自分から教会を去るつもりでいる。
そういう、自分勝手な決着のつけかたをする子なのだ。
「そんなこと絶対させない。
それじゃなにも変わらないもの」
ユーナは、教会を離れたひと月ちょっとのあいだに、彼女なりに見えたものがあった。
教会という神聖な世界で競い合う同僚たちを心のどこかで見下げていたが、ユーナ自身もその狭い世界に捕らわれていたことに気づいた。
クロードを見ると、それがわかる。
屋敷がどうなろうと、自分がどうなろうと、つねに領民のことしか考えていない彼。
もし彼がユーナの立場だったら、どうだろう。
靴がない? 服が汚れている?
そんなことを気にするだろうか。
誰のしわざだなんてことは考えもせず、そのまま儀式へと向かう彼の姿が容易に想像できる。
儀式をおこなうとき、周りは最初、その見た目に驚くかもしれない。
でも真剣に取り組む彼を見て、そんなことはしだいに気にならなくなるはずだ。
妨害しようとした側が、おのれを恥じることになるだろう。
なにかに尽くすというのは、そういうことだ。
まっすぐに見ること、ただそれだけ。
ユーナは、この考えを教会に持ち帰りたかった。
あそこをあのままにしていたくなかった。
「そして、それを伝え終わったそのときに……」
コンコン、と扉が鳴った。
朝食の時間だろうか?
いつもなら早めに降りて支度を手伝うユーナが慌てていると、扉の向こうからクロードの声がした。
「早くにすまないが、朝食のまえにみんなに話があるんだ。
いま集まれるかな?」
「はい! すぐ行きます」
話? なんだろう?
わざわざ話があるといって人を集めるのは、これまでになかったことだ。
なにか胸騒ぎがする。
昨日の出来事が関係しているのは間違いない。
聖女だったのがいけなかった?
たしかに、加護の力を使うときは、ここを去ることになる覚悟をしていた。
でもそれは、ムーニーにバレるときっと町まで伝わることになると考えていたからだ。
彼がそんなことをしないとわかった以上、このままここで働くことに支障はないはずだ。
「って、いま自分で教会に帰る決心をしたのに、わたしはなにを心配しているの?」
ひとりで苦笑する。
たとえ聖女は雇えないと言われても――いやそれはそれでショックだが、大きな問題ではない。
教会に戻る話なら、ユーナのほうからするつもりでいた。
でもきっと、クロードの話はそんなことじゃない。
彼が見ているのは領民のことだけなのだ。
だから胸騒ぎがする。
彼も朝起きて、この朝日と、静謐な冷たい空気を感じたことだろう。
身が引き締まったに違いない。
彼はそのとき、いったいなにを決意したのか。
「やだ……なんで涙が……?」
服を着替えて階下へと向かうあいだ、ユーナはただならぬ予感から溢れてくる涙を、勝手に震えだした手でしきりに拭っていた。
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