第4話 領主クロード

 赤面して非礼を詫びるユーナを、クロードはひと言も責めなかった。

 それどころか少年は、ユーナを仲間として歓迎する。


「ここで働いている者は、先代のときから住み込みでいるから、みな、ぼくのことを子ども扱いするんだ。

 だからユーナも、好きに呼んでくれていい。

 坊主、坊や、坊っちゃん。

 あ、さっきカイルのやつが言ってたガキンチョってのはやめてもらえると嬉しいな」

「そ、そんな滅相もないです。

 領主クロード様。

 どうかこれから、よろしくお願いします……っ!」

「そんな畏まらないでよ。

 参ったな。

 さっきまでので全然よかったのに」


 照れたように頭を掻いている。


 ユーナは改めて、クロードを見た。

 やわらかい金髪を短く刈った、青い目の少年だ。

 最初に十二歳くらいだと思ったように、痩せっぽちで背の小さい彼は十六歳という年齢よりも幼く見える。

 身長なんて、そう高いわけではないユーナよりも、さらに小さい。

 本当なら、クロード坊っちゃんと呼ばれて無邪気に遊んでいる姿が似合いそうなものだった。

 そんな彼が、領主を務めているなんて。

 いったいどれほどの苦労だろうと、ユーナは思った。


「あの、クロード様は、いつから領主なのですか?

 先ほど先代とおっしゃっていましたが、お父様は……」

「ああいや、先代はぼくの爺ちゃん、祖父なんだ。

 去年亡くなって、それからはぼくが領主をやっている。

 父上と母上は……はやくに亡くなってね。

 父上のぶんまで、ぼくは立派な領主になると決めている」


 ユーナは口を押さえて絶句した。

 なんて過酷な人生だろう。

 両親を亡くしただけでもその心痛は計りしれないのに、さらにおじいさんを亡くした彼は、領主という重責をひとりで担うこととなった。

 小さく痩せた背中で背負えるものではない。


 十七歳のユーナとはひとつしか違わないが、彼女はクロードを抱きしめたいと思った。

 彼が享受するはずだった母親の愛情を、ほんのすこしでも彼に与えて、そして優しく労いたかった。


 表情に出ていたのかもしれない。

 今度は彼が頬を染め、ぷいと背を向ける。


「そんな、聖女様みたいな顔をしないでくれ。

 みんながいるから寂しくなんてないよ。

 ほら、紹介するからついてきて。

 ユーナ、きみもこれから家族の一員だ」


 屋敷の勝手口へと向かいはじめた彼のうしろを、ユーナは小走りで追いかけていった。

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