第33話 リーダーとの話し合い 1


 他のメンバーにはメッセージのことは伏せ、俺は蓮の待つ生徒会室へ向かう。


「こんなことゲームでは全くなかったからな……蓮のヤツ、瞳ちゃんから話を聞いたときどう思ったんだろうな」


 プリントを渡してきた時の蓮の表情に変化は見られなかったものの、こうして昼にわざわざ呼び出すぐらいだから、何かあるのは確かだ。


 男女交際をするな……というわけではないだろうが。彼女の有無でいえば、蓮には許嫁がいるし、瑛斗は女の子をとっかえひっかえしているので、俺だけ禁止というのは不公平がすぎる。


 アンジェリカとの交際の件で話が着くまでは、おそらくこんな感じが続くのだろう。慌ただしいことこの上ないが、これも自分の将来のためだ。


 アンジェリカと美都弥に今日の昼の予定のことを伝えて、俺は教室を出て生徒会室のある校舎のほうへ。


 指定された時間ぴったりにつくよう、歩くスピードを調整しながらゆっくり行っていると、生徒会室に面する廊下に出たところで、小さな影がひゅっと飛び出してきた。


「ん?」


「ひゃっ――!?」


 ぽすん、という軽くぶつかったような感触だったものの、相手にとってはまったく違うらしく、抱えていたのだろう書類の山を放り投げて盛大にすっ転んでいた。


 パラパラと、大量のプリントが宙に舞っている。


「っと、悪い大丈夫か?」


「うにゅ……こ、こちらこそ申し訳ありません。一度に持っていこうと無理していたら、案の定前が見えなく……あ、五条先輩でしたか」


「そういう君は……」


 小柄な体格と、頭についた色とりどりの小さなリボンのアクセサリ、そして『会計』と刺繍された腕章が特徴の少女。


「なんだ、綿花めんかちゃんか。盛大に尻餅ついてたみたいだけど、怪我なかったか?」


「も……問題ありませんっ。私は栄えある聖星学院の生徒会役員なのですよっ! 尻餅程度でどうにかなるはずがありませんっ」


「生徒会に入っても別にフィジカルが強化されるわけじゃないんだけど……まあ、ともかく怪我がなさそうでよかったよ」


「当然です。あ、先輩も平気そうで安心しました」


 ぱん、と軽くお尻をはたいて立ち上がった女の子の名は、小熊綿花こぐまめんか。聖星学院初等部の5年生で、年齢は11歳。


 生徒会メンバーの中で唯一、厳しい生徒会役員選挙を小学生で勝ち抜いており、蓮もその実力を認めているほどだ。


 実力はあるのだが、年相応に調子乗りの一面があり、ごくたまにドジをやらかすことも――というのが、キャラ表に書かれている設定のはずだ。


「ともかく、まずは資料のほう全部拾っちまおうぜ。すごい量だけど、どっかに持っていく予定だったのか? 見た感じ会計資料っぽいけど、それって生徒会室の棚で補完してたはずだろ?」


「3か月以内のものなら。それ以上は職員室の倉庫に保管する決まりですので、会長が持っていくように、と。いつもは月末に持っていく予定だったのですが、『手が空いているのなら』ってことで」


「そっか。そりゃご苦労さんだ」


 おそらく人払いの意味もあったのだろう。ということは、こうなってしまったのは俺のせいだ。


「職員室だったな? なら、この量を小さい女の子一人で大変だから、俺も手伝ってやるよ」


「いえ、お気になさらずとも問題ありません。先ほどは失態を見せてしまいましたけど、このぐらいなら全然平気ですから」


「俺にぶつかっておいて、平気?」


「うっ……それは、その……でも、だからと言って会長は別の件でなんだか忙しそうですし、他のメンバーはお昼休み中だしで……」


 生徒会メンバーは、蓮を除いて仲良しだったはずなのだが、綿花は人一倍責任感が強く、誰かに頼ることをとても苦手としている。


 蓮ルートを進めると、彼女が一応主人公にとってのお助けキャラとなる。


 シナリオの選択肢をノーミスで正解することで、彼女との友情構築イベントが発生するのだが、そのシナリオの影響によって、ツイプリの中でも人気のサブキャラクターとされている。


 そして、一部の界隈にとても好かれている。


「俺は部外者だけどさ、まあ、うちのリーダーが世話になってることだし、たまにはこのぐらいのお節介、させてくれよ。な?」


「そ、そこまで言うならお願いしないことも……しかし、良いのですか? ここに先輩がいるということは、会長に用があるのでは?」


「そうだけど、まあ、事情を説明すればわかってくれるさ。放っておくほうが、よっぽど王子様らしくない」


「わかりました。では、お願いします。五条先輩」


 そうして素早く散らばった会計資料を集めて、俺と綿花は職員室へ。本当は俺の方が多めに持つつもりだったのだが、そこは綿花も意地があったのだろう。


『絶対に二等分ですっ』


 と引かなかった。


 頑固なことだが、こういうところが他プレイヤーにとってはものすごく可愛い……らしい。


 資料を届け終わり、二人で一緒に生徒会室へと戻ると、部屋に入った俺の顔を見た瞬間、蓮の眉がぴくりと動く。


「……遅刻だぞ、時也」


「すまん。ちょっと可哀想な生徒会役員の手助けをしていてな。まあ、昼休み内のたかが5分だ。仕事じゃあるまいし気にするな」


「私は何回かに分けて持って行っても構わないと言ったのだが。まあ、今はその話はいい。……小熊君、よければ席を外して欲しい」


「はい、会長。……では、五条先輩、私はこれで」


 礼儀正しくぺこりとお辞儀し、綿花は会長の指示通りにさっさと部屋を後にする。


 他のメンバーもすでにいないようで、部屋には蓮と俺の二人きり。


 すると、蓮がすぐさま話を切り出してきた。


「中川マネージャーから今朝電話があったが……話は本当か?」


「何の話だ? ちゃんと言ってくれ」 


「……戸郷さんとの交際の件だ。婚約も視野にいれていると」


「認められればな」


「なるほど」


 俺の答えを聞いて、蓮は小さく嘆息する。


 アイドルなので男女交際は基本避けるべきなのだが、瑛斗はデビュー時から俺様キャラをやり過ぎて『そういうキャラ』的な認識が成されている。


 で、時也にはない。


 アイドル活動に関してはストイックに見られていたはずの時也の交際がバレてしまえば、確実に影響は避けられない。


「時也、どういうつもりだ? 今まで戸郷さんはあくまでメイドでビジネスパートナーでしかなかったと思うが?」


「気が変わったんだよ。ずっと一緒に暮らしてて、幼馴染で、可愛くて、時には仕事も支えてくれる女の子のことを見ちゃいけないか?」


「そういうことは言っていないさ。そうだとしたら、俺にも許嫁がいるし、瑛斗のこともあるし不公平だろう。交際も婚約も自由にすればいい」


「なら、なんでわざわざ呼び出す? 勝手に仕事の調整を瞳ちゃんに頼んだことについてか?」


「それについてもだが、マネージャーが認めたのなら文句はない。言いたいことはあるが、ウチはそういう決まりだからな。だから、俺が今回お前に言うことは一つ」


 声をさらにワントーン落として、蓮はいたって真剣に俺へと忠告する。


「……絶対にバレるな。バレたら、強制的にツイプリを辞めてもらう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る