第32話 主人公とメイドとその他、パワープレイでフラグ同時進行


 瞳ちゃんから調整後のスケジュールが来るまでは、ひとまずいつも通り学校生活……と行きたいところだが、その前に主人公のことも気にかけておく必要があるだろう。


 現状、時也オレ主人公あなたの間では何のイベントも進んでいないので、好感度は確実に0。そこはいいのだが、ゲームのシステム上、主人公には必ず御俺以外の誰かとくっついてもらわないとアンジェリカとの交際がどうなるかわからない。


 なので、空いた時間に動いておかないと。


「よう、三上。それに、『あなた』さんも」


「おす~」


「どうも。おはようございます」


 すでに席について女同士でお喋りをしている二人に声をかける。主人公に目を凝らす……が、相変わらず鼻から上は鉄壁の前髪ガードが発動している。


 あれでどうやって板書を見れるのやら……だがここはゲームの世界なので、物理法則をわりと超越してくることは念頭に置いておかなければ。


「あ、そうだ。『あなた』さん、ちょっといいか?」


「ふぇっ? は、はい、なんですか?」


「ちょっと渡したいものがあって……ちょっとだけ目をつぶってくれるか?」


 目なんかないのでその必要はないと思うのだが、俺以外のキャラの視界からは彼女のつぶらな瞳が見えているそうなので、とりあえず『ある』という前提で話を進めることに。


「あ、なになに時也君、もしかして『あなた』のこと狙ってんの? 私の目が黒いうちは、かわいい『あなた』は誰にもあげないんだから」


「バカ、なに言ってんだよ。ちょっとそこでいいモノ拾ってさ。俺はいらないから、よければやるよってだけ」


 そう言って、俺はバッグから『ステータスサプリ(パワーセット)』を取り出した。


 拾った、ではなく、きちんと美咲先輩の購買で購入したものだ。お値段は5万。


 一見突拍子もないプレゼント攻撃だが、これ、実はきちんとゲームのシステムの乗っとった行動だったりする。


 低確率ではあるものの、朝、攻略対象の内の誰か(ランダム)が、ゲーム内アイテムをくれるように設定されている。そして、ここでのプレゼント渡しはイベント扱いにもならないので、好感度の増減も一切なしという、主人公的にも、そして今回は俺的にも美味しすぎるシステムとなっている。


 発生確率は、学校のある日ごとに約1%。普通にプレイしていると概ね2回~3回は訪れるラッキーイベントだが、俺はこのプレゼントを、俺自身の任意のタイミングで行うつもりだ。


 確率1%のイベントを毎日起こすなんて確率の壁をぶち壊すようなものだが、TASや状況再現、乱数操作など、確率なんてゲームにおいては無いに等しいし、それに1%あれば、それが毎日起こる確率も、天文学的数字だが『』ので、問題ないだろう。


 これから数字によらない戦いが待っているので、数字で済ませられるものはできるだけゴリ押しする。それが今のところの俺の方針だ。まあ、ここは臨機応変に変えるつもりだが。


「とにかく、俺が持ってても荷物にしからないしさ。ってことでよろしく」


「あ、はい。くれるというのなら、ありがとうございます」


 当然、『あなた』は拒否することなく受け取ってくれる。CPUによるオート操作の場合、アイテムは手に入り次第、次のターンですぐに使用する思考になっているはずだから、明日になれば運動関係のステータスは上昇しているはずだ。


 今回、主人公に狙わせるターゲットは瑛斗。好感度の上昇具合は各キャラごとに基準があり、


・蓮 ステータス(高水準必要)+シナリオ内ミニゲームの成否+シナリオ進行度+選択肢(アイテムなしでのリカバリー困難)

・藤士郎 ステータス(高水準必要)+シナリオ内ミニゲームの成否+シナリオ進行度

・塁 ステータス(条件あり)+シナリオ進行度+選択肢(リカバリー可能)

・瑛斗 ステータス+シナリオ進行度

・時也(一応参考に) シナリオ進行度のみ(シナリオを消化すると自動的に次のシナリオ解放に必要な好感度値まで上昇する)


 と、概ねこんな感じ。


 特に瑛斗の場合、運動能力系のステータスを上げていれば自動的に次々シナリオが解放されていくので、サプリによる能力上昇もわかりやすい。疲労度やストレス値の上昇も考えてスタミナドリンクも都度渡してあげれば盤石だ。


 本格的に瑛斗が主人公に興味を示すのは5月の学習合宿前後だから、それまでに能力をある程度上げてしまえばいい。


 とりあえず、今のところ主人公への対応はそんな感じ。


 で、残るはその他の問題への対応についてだが――。


「――時也、ちょっといいか?」


「蓮」


 早速、来た。


 ツイプリのリーダーである蓮には連絡しても構わないことを瞳ちゃんに言っていたから、すでにもう詳細は言っているのだろう。


 こういうのは早い方がいいから、別に構わない。


「どうしたよ? 言っとくが、連れションならお断りだぜ」


「冗談言うな。そうでなく、今度取材を受ける雑誌の企画で『質問コーナー』をやるらしくてな。それぞれのメンバーに解答してほしいと言われたんだ。他の皆には予め渡してある」


「ふうん、なんかテスト用紙みたいだなコレ。メールとかでもいいのに」


「そのほうが学生らしいから、とのことらしい。ともかく仕事だから、放課後までに仕上げて提出を頼む」


「あいよ」


 気づくと他のメンバーもちゃちゃっと回答しているようだが、俺のだけ、その用紙にメモ書きがあった。


『昼休み、生徒会室へ』


 さすが政治家の息子。秘密主義なのはいいことだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る