第24話 観覧車にて。どうやら妹に気をつかわれたらしい 1
ジェットコースターに乗るからと言い訳して手を繋いだ俺とアンジェリカは、待機列の最後尾で待つ美都弥と合流して、他のお客さんと混じって順番を待つことに。
スターハイランドパーク(略称SHP)の中では敷地外からも目立つほどだけあって、他のアトラクションと較べてお客さんが多い。
俺はというと、特にマスクやサングラスなど変装せずに素顔の状態だが、今のところ近くの人に気づかれている素振りはない。
というか、むしろ注目を浴びているのは、俺の隣で緊張した面持ちで立っているアンジェリカだった。
――ねえ、あの子、すごい綺麗。
――銀髪って何気に初めて見た。瞳も青いし、外国の人かしら?
――顔ちっちゃ、スタイル良っ。
髪の色オレンジには誰も突っ込まないのに、銀にはすぐに目が行くのか。まあ、アンジェリカはきちんと外国出身だという設定もあるので当然だが。
ちなみにアンジェリカは孤児で、赤子の頃に戸郷家の両親に引き取られている。
ゲーム内の話には一切登場しない設定資料集(アニメBDの初回特典についてきた)のみの情報だが、戸郷家は結構複雑な環境にあるらしいので、もし可能であればいずれそのへんも確かめたいところだ。
まあ、今はそんなことより目の前の遊びに集中だ。
「あら、私たちが先頭みたいですね。お兄さま、私、一番前がいいですっ」
「お、いいな。でも、俺はちょっと怖いから、お前のすぐ後ろにアンと一緒に乗るよ。アン、すまないが、それでいいか?」
「うん。時也君がそう言うなら、私は別に……」
「む~、アンだけずるい。お兄さまっ、次に乗るヤツは一緒に乗りましょうね」
「わかってる。さ、他のお客さんがつかえないようにさっさと乗るぞ」
テンションの高い美都弥を一人最前列に座らせて、その後ろに俺とアンジェリカが乗り込む。
まだ発進はこれからだが、アンジェリカは緊張しているようで、俺の手をきゅっと握りしめている。顔のほうに動揺が一切見られないのはさすがだが。
「アン、大丈夫か?」
「うん。なんとか……あの、時也君、その……」
「わかってる。ずっと握っててやるから、俺のことだけ見て集中してな」
「う、うん」
補助具がなければ手を繋ぐだけでなくお互いにもう少しくっつくこともできたかもしれないが、この『スタージェット』は中々スピードも出るし、落下の際の角度も急なので、そこはしっかりと。
「ふふ、アン、よかったわね?」
「っ……な、なんのこと? 私は別にいつも通りだよ?」
「別に私の前では隠す必要なんてないのに……まあ、そんなアンも可愛らしいから、見てて楽しいんですけど」
冷静な表情を貫きつつもほんのりと頬を赤く染めるメイドを二人で愛でていると、準備が整ったのか、ジェットコースターがスタートする。
「ふわあ、高い。すごい。お兄さまっ、人っ、地上にいる人たちが豆粒ですっ」
「ああ。俺でも吊られてせいぜい10mぐらいだから、これはこれで結構怖いかも」
頂上まで登った後、そのまま流星が流れるのをイメージするように、まっすぐ垂直に、時にはツイストを入れて、ものすごい速度で進んでいくコースとなっている。
大体乗っている時間は2分~3分だが、苦手な人にとってはかなりの苦行、もしくは地獄だろう。
ちょうどコースの最高到達点についたところで、いったん停止。
カウントダウンが始まる。
3、2、1――。
「よっしゃ、アン、腹くくって一緒に行こうぜ」
「う、うんっ」
俺たちが今一度手を固く握りしめたと同時に、流れ星をモチーフに設計された車両は、一気に地上へと落下していく――。
【※ スタージェット感想;意外にやばい】
※
そうして、全てを終えて無事帰還した後、俺たちは勢いにのって次なるアトラクションへ。
「さっ、二人とも。早く次っ、次にいきましょう。ほら、こっちこっち!」
「あ、おい美都弥……ったく、あんまりはしゃいで転ぶんじゃないぞ。……アン、もしきついんだったら、ベンチで休んでてもいいぞ?」
「だ、大丈夫……私は二人のメイドなんだから、なんのこれしき……」
さすがに国内でも有数のジェットコースターというだけあって、たった三分弱でも体力ゲージの削られ方は半端ない。
比較的こういうのには慣れていた俺でも終わった後にほっと安堵するぐらいだから、苦手なアンのゲージは今ごろレッドゾーンだろう。
俺もアンジェリカも少し休憩したいところだが、美都弥を一人にするわけにもいかないので、なんとか呼吸を整えつつ、先程と同じように美都弥のガイドに従って、次の待機列へ。
「お兄さま、次はここで三人で一緒乗りましょう」
「お、観覧車か。いいじゃん」
俺たちの様子を知ってか知らずか、美都弥が次に選んだのは、ジェットコースターとはほぼ対極の存在ともいえる観覧車。
こちらもかなり巨大ではあるものの、先程のように高い位置からの落下や連続回転もないので、高いところからゆっくりと街の景色を一望できる。休憩も出来るし、一石二鳥だ。アンジェリカもほっと胸を撫でおろしている。
こちらはスタージェットに較べて列がまばらなため、まったく待つことなくスムーズに案内された。
「よし、乗ろうぜ二人とも」
「はい、お兄さま」
「うん」
ゆっくりと動く観覧車にあわせて、俺、アンジェリカの順に乗り込む。乗った瞬間、足元がわずかに揺れるものの、その後は特に問題ない。
従業員さんの手によって扉がガチャンと閉められ、さて、これからしばらくゆっくり三人で――と思ったところ、俺たちはある異変に気付いた。
「ん? あれ、美都弥は?」
外の景色から視線を外して席に座ったところで、当然、俺の隣か正面に座っているはずの妹の姿がない。一緒にいるのはアンジェリカだけだ。
「! 時也君、見て、あそこ――」
「え? あ――」
乗車口のほうに目をやると、困惑する従業員さんの側で、美都弥が俺たちのほうへ向かって笑顔で手をぶんぶんと振っている。
防音がしっかりしているので何を言ってるのかはしっかりと判別はできないが――。
「『おにいさま、アン、ごゆっくり』……って言ってる感じか?』
「うん。多分……」
ジェットコースターを降りたすぐ後は『次は私と』だなんて言っていたくせに、どうやら全部フリだったらしい。従業員さんに丁寧にお礼を行った後、美都弥は近くにいたマスコットキャラ(何かあった時のための護衛の人、らしい)に話しかけて、フードコートのある場所へと歩いていった。
「まったく、美都弥のヤツ、余計なことを……」
「あはは……しょうがないよね、美っちゃんは。普段はしっかりしているのに、私たちの前だと途端にいたずらっ子になって」
しかし、あれが本来の五条美都弥でもある。俺やアンジェリカよりもよほど賢く、会社内では時也よりも美都弥のほうを推す経営陣も多い(※実際、時也が主人公とくっ付いた場合、会社は美都弥が継ぐ)ほど将来を嘱望されているが、そのこともあって、時也がアイドル活動などで家を留守にしている時は、人知れず、親の期待に応えるために努力しているのだ。
本人も半ば覚悟しているのだろうが、そうだとしても、出来れば、美都弥には家のことを気にせずやりたいことを自由にやって欲しいと思う。
だから、このぐらいのわがままやいたずらは兄としてはなんてことない。
それに、結果的にはアンジェリカとまた二人きりになれたわけだし。
「まあ……とりあえず、座るか」
「う、うん。そう、だね」
妹に気を遣われてしまったわけだが、せっかくの機会だし、有効活用させてもらうとしよう。
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