第23話 主人公じゃないけど、シナリオの裏でこのぐらいやってもいいはずだ 2


 全員の準備ができたところで、俺たち三人は屋敷の運転手を務めている不二城さん(50歳。元タクシードライバー、だったはず)の運転で、スターハイランドパークへと向かうことに。


 俺と美都弥が行くことについてはすでにあちら側の責任者には了承を得ている。初めのうちは貸し切りにしましょうか、という申し出もあったが、急な変更は一般のお客さんにも迷惑だということで、それについてはお断りさせてもらった。


「お忍びではありますけど、そうなると今日遊びに来た方は皆びっくりしてしまいますね。なんていったって、今をときめく『ツイプリ』の『五条時也』が、これから園内を歩いているのですから」


「いや、大丈夫だろ。いつものメイクもしてなきゃ、服装もこんなガキっぽいし。案外普通にアイス食ってうろついてりゃバレないんじゃないか?」


「まあ、お兄さまったら、そんな冗談を。千人の中に紛れていても一目でわかるぐらいのオーラをお持ちのお兄さまが誰にも気づかれないなんて、いくらなんでも謙遜しすぎです」


 それは美都弥が常日頃俺のことしか見ていないからそういうことを言えるのでは。


 確かに『ツイプリ』は今をときめく人気アイドルではあるが、やはりメンバーがいると、その人気には当然差が出てくる。


 グッズの売り上げや先日行われた(という設定)のメンバー人気投票でも、ダントツ一位は蓮で、ついで瑛斗、籐士郎、塁、そして最後に俺という並びになっている。


 票数については明らかにされてはいないものの、瞳ちゃんから見せてもらった事務所の内部資料によると、一位の蓮と五位の俺とでは2倍~3倍の数差があるのだ。


 頭脳、運動神経、容姿、生まれ持ったカリスマ性などなど……時也も出来るだけの努力はしているが、同じように常に一番であろうとしている蓮には、どれも一段も二段もかなわない。


 そういうこともあり、時也はグループの中では三枚目の役割に徹していることがほとんどだ。この前の激辛シュークリームもそうだが、ライブ中のMCでも話のオチにされたりなど、共通ルートでは気にしないようにしていても、個別ルートでは、そのことについて劣等感を持っていることを主人公に吐露していたり。


 まあ、その分、時也のファンを公言している人は筋金入りの人が多く、ツイプリのファンの中でも熱狂的な人が多く割合を占めるので、事務所的には、安定した数字が見込める時也はとても大事にされている、らしい。


 縁の下の力持ちというやつだが、そういうポジション、俺は嫌いではない。


「ま、バレたらバレたで、その時は三人で逃げようぜ。鬼ごっこだ」


「時也君ったら、またそんなこと……その時は、私がちゃんと守ってあげますから」


「そっか。んじゃ、もしもの時は頼んだぜ、アン」


「うん。……でも、この服あんまり丈夫じゃないから動きにくいのよね……」


 いったいどんな立ち回りを想定しているのやら。後、しきりに長袖のあたりを気にしているのは、いったい何なのだろう。


 ……物騒なもの、持ち出してはないよな?


 心配性のアンジェリカをよそに、車のほうは渋滞に巻き込まれることもなく順調に走り、それほど退屈することもなく目的地へと到着した。


 一般の駐車場とは別の、ここでのライブの際にも使ったことがある関係者専用の地下駐車場に車を停めて、俺たちはこの施設の園長さんの案内により、別の入口から園内へと入った。

 

「ふわあ……ここに来るのは久しぶりだから、やっぱり色々と遊具も変わっていますのね」


「時代とともにお客さんのニーズも変化してるからな。で、美都弥、最初はどこ行きたい? 昔は身長制限もあって無理だったけど、今は絶叫マシンでもなんでもいけるからな」


「はい! では、定番ですがさっそく『スタージェット』に行きましょう。アンも、それで大丈夫?」


「もちろん。昔は高いの苦手だったけど、そういうのは全部鍛錬で克服したから。そういえば、時也君は大丈夫だったっけ? 昔は、確か苦手だったような気が……」


「おいおい、俺ももう高校生だぜ? 最近はライブの演出でよくクレーンに吊るされたりしてるし、ジェットコースターなんて玩具みたいなもんだ」


 実はものすごく我慢しているだけで『時也』は絶叫系のマシンを苦手にしているのだが、『俺』のほうは逆に得意なので、さっきのセリフは強がりでもなんでもない。


 子どもの時は苦手にしていた時もあったが、大人になり、社会にはジェットコースターなんかよりもよほど恐ろしいモノや輩が沢山いると知ってからは、特に何も感じなくなった。


 なので、心配なのは、俺というよりむしろ――。


 久しぶりの遊園地でテンションの爆上がりの美都弥がジェットコースターの入口へと走って向かうのを追いかける中、俺は隣のアンジェリカの手をさりげなく握った。


「アン、怖いと思ったら、俺の手を握ってていいからな。一緒に乗ろうぜ」


「……やっぱり、時也君にはバレちゃうか」


「当たり前だろ。何年一緒にいると思ってるんだ」


 訓練をして動揺はしないようになったとはいえ、元から感じている恐怖心が抜けきるわけではない。


 たまには怖がるアンジェリカを見るのもギャップがあって可愛いが、まあ、あまり意地悪するのも可哀想だから、それなら俺の側で安心してくれたほうがいい。


「お兄さま、アン、早く早く~!」


「ああ、今行く! ほら、行こうぜ」


「……うんっ」


 ごく自然にアンジェリカの手を引いて、昔のように戻った俺とアンは美都弥を追いかける。


 あくまでゲーム内の設定しかないので『俺』にとっては懐かしさなど微塵もないはずだが、やはり『時也』の肉体に入った影響もあるのだろうか、不思議と胸のあたりがあたたかくなっている気がしていた。

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