第21話 久しぶりのオフ。三人でおでかけ 2


 翌朝、昨日の約束通り、朝一に瞳ちゃんから電話があり、改めて、今日丸一日のオフが決定した。せっかくの久しぶりの休みだから、しっかり家で休養につとめろよと彼女は言っていたけれど、今日は妹たちとお出かけする約束をしている。


 体のことも大事だが、それ以上に重要なのは心のリフレッシュだ。


 ということで、いつもより早めの朝食をとりながら、一日の予定を決めることに。


「美都弥、今日、俺とどこに行きたいか、何をしたいか決めたか?」


「ええ。昨日の夜、あれからアンと相談をして……ね?」


「はい。一緒に遊ぶ、とはいっても私はお二人の護衛というのもありますので、そう言った点も踏まえて、美都弥様から上がったいくつかの案について、少し意見をさせていただきました」


「真面目だなあ……まあ、万が一のこともあるからしょうがないけどさ」


 美都弥やアンジェリカはともかく、俺のほうは一般の、特に若い人たちを中心に顔が知られているから、繁華街で買い物をしたりというような、不特定多数の目がある中での行動は出来れば避けたいところ。


 特に、この手のゲームではわりとありがちな『金持ちの子息を狙う謎の犯罪組織』なるものが存在しており、シナリオによっては主人公やサブキャラの女の子、場合によっては攻略キャラも誘拐されることもあるので、悪い可能性の芽は今の段階で摘んでおく必要があるだろう。


「で、アンの意見を取り入れつつ、最終的に決まったのが……遊園地です!」


「……ん?」


 美都弥の結論に、俺は首を傾げた。


 別に遊園地に行くことが嫌というわけではないが、場所によっては繁華街以上に人で溢れかえっているし、園内で働いているスタッフにも余計な迷惑がかかってしまうかもしれない。


 それに、俺も久しぶりのオフだから、たまにはファンサービスなしでゆっくり過ごしたいというところもあるわけで。


「ご主人様、ご安心ください。もちろん、その点も踏まえて行く場所も選定させていただきました」


「? どういうことだ?」


「お兄さま、今回いく遊園地は『スターハイランドパーク』です!」


「スター……ああ、あそこか。そういえばあったな。ほとんど行かなかったからすっかり忘れてたよ」


 スターハイランドパークは聖星学院のある街からほど近い場所に建設された遊園地で、建設と運営を担当してるのは……当然のごとく五条組である。


 確か、『ツイプリ』もグループ結成時にそこで記念ライブをやった(と設定資料集にのっていた)はずで、申し訳ないことには変わりないが、時間帯限定で遊具の一部を貸し切ったり、遠巻きに常に監視をつけたりなど、一般のテーマパークよりも遥かに融通はききやすいはずだ。


 設定は当然されているし、街全体の様子がわかるマップにも隅っこのほうにきっちりデフォルメされたイラストがあるのだが、その場所に訪れる機会があるのはサブシナリオのみなので、すっかりその存在を忘れてしまっていた。


「ということで、今日はお兄さまと一日遊園地デートです! お兄さま、当然、付き合ってくれますよね?」


「ああ、もちろん。お兄ちゃんに二言はないよ」


 これだけ俺とのお出かけを楽しみにしていた美都弥のことをがっかりさせたくないし、それに、俺も多少はその場所に興味がある。ゲームに出てこないアトラクションなどもしっかり遊べるのかという、主にゲーム的な意味で。


「ふふ、では決まりですね! それなら私も久々におめかししないと。お兄さまとの、本当に久しぶりのデートなのですから」


「かしこまりました。では、私もお着換えを手伝わせて……」


「あら、何言ってるのアン? おめかしするのは、あなたもよ?」


「……え?」


 当然でしょう? と言わんばかりの美都弥の言葉に、アンジェリカが珍しくぽかんとした顔を浮かべている。


 俺たち二人と一緒に遊びに行くとはいえ、彼女は俺と美都弥の護衛係という仕事もある。なので、彼女も今着ているメイド服そのままで出かける気満々だったらしいが、どうやら美都弥はそこが気に入らない様子らしい。


「ダメよ、アン。そんなの許しません。屋敷ならともかく、その服で園内を歩き回ったら余計目立ってしまいます」


「それはわかりますが、しかしこれが私にとっての制服ですから……」


「制服は仕事の時に着るものでしょう? 今はまだお屋敷だから着ているけれど、外に出たらアンももうお休みなんですから。当然、私服を着てもらいます」


 わかるようなわからないような妹の理屈だが、しかし、気持ちはわかる。


 特に、アンジェリカは五条の屋敷に住み込みで働いているので、基本的に『休み』という概念が存在していない。


 仕事として、また最も近くにいる友人として、彼女が望んで俺たちの側にいるのは知っているが、たまにはそんな気遣いを考えず、昔のように戻って心おきなく休日の遊園地を楽しみたいという思いが、俺と美都弥にはあって。


「ご主人様、あの……」


「アン、こうなった美都弥がてこでも動かないの、お前も知らないわけじゃないだろ? ここはもう観念して、可愛い格好をしているお前のことを、俺の前で見せてくれ、な?」


「あと、『ご主人様』と『美都弥様』じゃなくて、昔みたいな名前の呼び方も。アン、お願いできるかしら?」


「……もう、時也君も美っちゃんも、いじわるなんだから……」


 一対二の多数決もあって観念してくれたのか、アンジェリカは、半ば強引に引っ張られる形で、今日のファッションをばっちり決めるべく、美都弥の部屋へと姿を消していった。


 いつもメイド服か制服姿のアンジェリカなので、ゲーム内ではほぼお目にかかれない私服姿。


 今から、とても楽しみである。

 

 

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