第17話 俺たちのこと、どう思ってる? 2


 麗華の持っている好感度メモは、主人公の攻略対象である5人の今現在の、主人公に対する好感度を詳細に把握することができる。


「あくまで私の独自調査によるものだけど、まあ、今はこんな感じかな」


 麗華のメモにはそれぞれデフォルメされたツイプリメンバーの顔が描かれており、その絵の線の色は、どれも青色となっている。これが、現在の好感度を現す目安となっているのだ。


「今のところは『ただのクラスメイト』って感じかな。でも、始まったばかりだし、きっとこれから頑張れば印象も変わってくるんじゃないかな?」


 麗華がそう言ったとおり、現在の青色は好感度が0~20であることを示している。ここから20~40、40~60,60~80、80~100までで、それぞれ色が緑、黄色、赤、ピンクへと、好感度が一定レベルにまで上昇すると変化する設定となっているのだ。


 これだけだと大まかにしか把握できないのは頬染め状態とそれほど変わらないのだが、麗華のメモ帳が他と違うのはここからだ。


 俺の顔が描かれている線の色はかなり濃い青色となっているが、その他の四人は、普通の青色だったり、若干色が緑がかっているようになっていたりと、わりと色味に違いがある。


 そして、この色味の違いで、一桁単位まで好感度を推測できるようになっている。


 青~ピンクのそれぞれの段階で、線の色が濃ければ好感度は低いし、それが薄く、色が明るくなっていけば好感度が高くなっていることを示している、というふうに。


「……俺の好感度は低いかな……まあ、これは当然だけど」


「んう? あ、時也君、もしかして『あなた』に興味あったり? へえ~、いっつも美人のメイドと妹ちゃん連れてたからどうかなと思ってたけど、わりと普通の子も好みなんだ。ちょっと意外」


「『あなた』さんがどうとかは別として、俺はそこまで面食いじゃないよ」


 さすがに『あなた』のような顔が存在しないような女の子はごめんだが。


 アンジェリカは確かに美人ではあるけれど、俺が彼女のことを好きになったのはそういうところではない。彼女の俺のことを想うその純粋な心に惚れたのだ。


 あの、シナリオを見れば、誰だって落ちる。まあ、この世界ではそれを見ることは絶対にないのだが。


「ん~、おいひい~。こんなに美味しいのに、もう残り半分しかないなんて……もう一回、今度はダブルチャレンジしたい……」


「うへ~、『あなた』ってば、まだ開始して5分も経ってないのにもう半分以上食べてる……どんだけ異次元の胃袋してんのよ、あの子は……」


「ああ、本当にな……」


 どうやら『あなた』の連打力はすさまじいらしく、開始前には塔のごとく積まれたいたトッピング類が綺麗さっぱりなくなり、こんもりともったライスとカレーも、すでに半分以上は皿からなくなっている。


 ……これ、俺でも連射パッド使ってようやくクリアできるくらい何気にシビアなゲームなんだけどな。まあ、CPU操作だとそういう制限はないのかも。


 まあ、あなたさんの注意がカレーからこっちに向く前に、好感度の話はここで終わらせておこう。必要なデータは一応ちゃんととれたし。


 現在の『あなた』に対する好感度数値(俺の推測)は、


 蓮  :0

 藤士郎:2

 塁  :10

 瑛斗 :4

 時也 :0


 となっている。この時点での塁の好感度が他より若干高いが、これにはちゃんと理由があるし、これから主人公のパラメータを成長し、イベントをこなしていけば、確実に瑛斗と数値が逆転するので、特に気にする必要はない。


 ――ピロリン♪


 特殊能力取得の効果音がどこからともなく流れ、主人公が『くいしんぼう』を習得したことを告げる。


 この能力、正直今のところそんなに有用というわけではないのだが……まあ、あるにこしたことはないので、ひとまずそのまま取得させておこう。


 というか、まだ時計のほう10分しか経過してないんだが……もう学生やめて大食いチャンネルでも立ち上げたほうがいいのでは。


「ふう、おいしかった。五条さん、ごちそうさまでした」


「あ、ああ、どうも……三上、俺たちのも出来たみたいだから、さっさと食べちゃうか」


「そ、そだね」


 食後のデザートにとこれまたどでかいパフェをキラキラした表情で食べる『あなた』を横目に、俺と麗華は自分たちの分をいただくことに。


 肉はおいしかったはずだが、直前の『あなた』の化物っぷりが脳裏によぎって、あんまり味に集中は出来なかった気がする。


 食事の後、麗華にこっそりお礼を言ってから、俺は二人と別れて、俺の所属する軽音楽部の部室となっている音楽準備室へと向かう。


 これからの攻略予定をおおまかに考えるためだが、一人でこそこそやるには最適の場所だ。昼パートで校内をぶらつく『あなた』に遭遇する可能性もあるが、鍵を閉めて居留守でもしていれば問題ないだろう。


 部室の鍵をもらうべく、一応、担当顧問をしてくれている四街道先生のもとへ。


「おや~? あなたはもしや、ナンパ野郎の五条君ではないですか。お昼はまだ時間残ってますのに、もう三上さんたちとのお食事はよろしいので?」


「まあ、別にそれ以外何もしなかったし。ところで先生、部室の鍵は?」


「んふふ……残念ですが、ありません。他の方々にお貸ししましたので……ヒヒ」


「他の……」


 方々、ということは一人ではないということか。


 音楽準備室は吹奏楽部や合唱部などの機材もあるので、先にとられた可能性もあるが、昼の時間はあまり使われないはず。


「まあ、行ってみればわかりますので、諸々気になるのであればどうぞ……あ、鍵はちゃんと返してくださいね~……では、私は忙しいのでこれで」


 そう言って四街道先生は、のそのそとした動きでどこかへと消えていった。


 あの人も、なかなか謎の多い人だ。素顔はとても可愛いのだが。


「……とりあえず、行ってみるか」


 行ってみればわかる、と四街道先生が言っているので、ひとまず言う通りに軽音楽部の部室としている音楽準備室へ。


 確かにドアの鍵は開いているようだが、ふと、隙間からほのかにいい香りが漂ってきて――。


「! あ、お兄様っ」


「どうも、ご主人様」


「お前ら……」


 準備室にいたのは、なんと美都弥とアンジェリカだった。しかも、こんな場所でわざわざ優雅にティータイムときている。


「どうした? 今日のことは、ちゃんとお前らにも言っておいたはずだろ?」


「そうですけど……でもでも、クラスメイトの方たちだけお兄様のことを独り占めだなんてずるいですっ。お兄様、私もっ。私もお兄様とお昼をご一緒したかったんですっ。ね、アン? アンも私と同じ気持ちよね?」


「……いえ、私は美都弥様がどうしてもということでしたので、それにお付き合いしているだけですが」


「あ~っ! ダメよ、アン。お兄様の前だからって、そんなに強がっちゃ。お昼休みの時間が始まったらすぐお兄様のこと遠巻きに監視していたの、私、ちゃんと知ってるんですからね」


「……なんのことでしょう? 私にはさっぱり理解できませんが。監視など、そんなこと、私がするはずが」


 といいつつ、アンジェリカのポットを持つ手が微妙に震えている。


 動揺している証だ。アンは時也のことになると、微妙にポンコツになる。そういうこところも可愛い。


「ったく揃いも揃って……まあ、寂しい思いさせたのは事実だし。仕方ないから残りの時間は一緒にいてやるよ」


「まあ、お兄様ったら! そんなこと言って、本当は妹の声が恋しかったんじゃありませんこと? お兄様が寂しがり屋なの、ちゃ~んと知ってるんですから。ね、アン?」


「それについては美都弥様に同意です。ご主人様は仕方のないお方です」


「アン……なんか怒ってる?」


「……いえ、別に。他のお嬢様とどうしようが、所詮メイドの私には関係のないことですから」


「……怒ってるじゃん」


「怒ってません」


「悪かったって。謝る、謝るから、アンの紅茶、俺にも飲ませてくれよ、な?」


「……仕方ないですね」


 主人公の攻略の手助けのことばかり考えてしまっていたが、本来の目的は、アンジェリカや美都弥と平和に学園生活を過ごすことだ。


 なので、ちゃんとこちらのほうの時間も、これからはしっかりとつくっていかなければ。

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