第16話 俺たちのこと、どう思ってる? 1


 昼休み。


 特別個室の使用をマネージャーの瞳ちゃんから許可してもらい、準備のため先にメニューを一通り注文してから、俺、麗華、『あなた』の三人は学園にある学食へ向かう。


 学食、と名前がついているが、校舎とは別の専用の建物として存在しているそこは、レストランといって差し支えない外観である。大半の生徒が利用するだけあって、建物は広く、また、メニューについても、一流ホテルなどで腕を磨いた料理人の手によって、和洋中、様々な国の料理を味わえるようになっている。


 そして、学園のアイドルたる『ツイプリ』や、それに近しい人たちのみが入ることの許される個室は、一般学生が集まる1階……ではなく、そこから階段を上がった二階にあった。


「うわぁ、ひろぉい……これ、全部、『ツイプリ』さんたちのためのお部屋なんですか?」


「ああ。蓮の親父さんがなんでもデカくなきゃ気が済まない人で、一部屋だけでいいところを、二階のフロア丸々個室にしたらしい。急な話だったから、施工を担当したウチの会社の人も大変たったみたいだぜ」


 聖星学院はとある湖の一角に建設されており、二階の個室からはその湖全体が一望できるようになっている。今は天気がそれほど良くないものの、晴れた日には太陽の光を反射した水面がキラキラと光り、とてもいい景色を拝むことができる。


 ……とはいえ、シナリオではあまり登場しない場所なのだが。無駄なところもちゃんと設定を盛るのは、このゲームらしいといえばらしい。


「ったく……おい時也、個室の許可はせめて前日までに、っていつも言ってるだろ。今日の料理の仕込みとかお願いするの、大変だったんだぞ」


「悪かったよ、マネージャー。でも、どうして瞳先生もここにいるんだ? もしかして一緒にメシ食いたいの?」


「お前が一般生徒と、しかも女の子なんか連れてきたらいらぬ想像をするアホどもが出るだろう。そのために私が間に入って、何か仕事が入ってる風に装ったんだろが。ったく、誰が好き好んでこんな禁煙部屋なんかでクソガキどもとメシなんか……」


 瞳ちゃんは元々タバコを吸うような人ではなかったらしいが、入社してツイプリの担当を始めてからは、すっかりヘビースモーカーとなってしまった。


 今は比較的落ち着いてきた俺たち五人だが、結成当時はまだ小学校を卒業したばかりのクソガキだったので、それはもう凄まじい心労だっただろう。


 俺一人だけのせいではないが、多少申し訳なく思う。


「まあ、せっかく来たんだし、ひとまず皆でランチを楽しもうよ~、私、もうお腹ぺこぺこ」


「私もです。でも、五条さん、本当にお代はただでいいんですか?」


「ああ。誘ったのは俺だし、気にせずいっぱい食べてくれ」


 学食については通常利用料が引かれるわけだが、俺たちの場合はアイドル活動による学校側が得るリターンが大きいということで、基本的に無料で利用できるようになっている。


 急な話だと、こうして瞳ちゃんに迷惑をかけてしまうわけだが、しかし、情報のためには仕方がないところだ。


 まあ、ここらへんは今後の仕事で返していくことにしよう。


 言葉より行動で示せ。アンジェリカが自分を律するときによく言っているのだが、その考え、俺も嫌いじゃない。


「お、注文してた料理、運ばれてきたみたいだぜ」


「お~……これは、見ただけでヤバいのわかる……」


 麗華がそう言ったように、使われる食材は全国から取り寄せた高級食材ばかりである。彼女が頼んだのはステーキセットだが、使われている肉は当然のように最高級のもので、しかも、プロの手によって目の前でいい感じに焼いてくれる。


 麗華もそこそこの家の出だが、日常的にこういう食事はしていないだろうし(『俺』もだが……)、びっくりするのはわかる。ちなみに俺も同じメニューだ。


 そして、一方の『あなた』は、というと……


「ほわ~……すごい、写真で見た通り、まさしくマウンテン……美味しそう」


『あなた』が頼んだのは一般学生でも人気のあるカレーだが、マウンテンと彼女が評した通り、量が半端ではない。


 学食のメニューで、ネタ的に存在する『聖星マウンテンカレーC+改』は、総重量約4キロ以上で、山のように盛られたライスの上に、カツ、ウインナー、唐揚げ、ポテト、白身フライ海老フライなどの揚げ物各種に申し訳程度の野菜と、どこぞのチャレンジメニューの様相を呈している。


 初登場は確か瑛斗ルートのサブイベント(※トゥルーに必須ではない)で、完食に成功すると特殊能力『くいしんぼう』(消費系アイテムを一日に何度も使用できる)を取得できる、とかだったはずだ。


 確かそのイベント時に『前々から食べてみたくて~』と言っていたが、まさか、こんな初期から目をつけていたとは。さすが大食い設定。


 大食い自体はミニゲームになっていて、ボタン連打で制限時間内にカレーを食べつくせ、という簡単なものだったはずだが……さて、この世界での『あなた』の喰いっぷりははいかに。


「ん、んじゃあ、とりあえずいただくか」


「そだね。『あなた』も頑張れ~!」


「うん、麗華、見てて! それから、五条さんも!」


「あ、ああ……」


 ちょっと予想外ではあるものの、しかし、主人公がカレーに夢中なら、その間に麗華から話を聞けばいいだろう。


 スタート、という声を合図に、あなたちゃんが上に乗った巨大な一枚カツにかぶりつき始める。


 間近で見る食べっぷりは豪快の一言だが、それはともかくこちらもこちらで本題に入らなければ。


「なあ、三上。俺、最近ちょっと気になることがあんだけど」


「お、なになに? 私にわかることなら、何でも聞いてみてよ。まあ、答えられるかはわからないけどね~」


「そっか。じゃあとりあえず聞いてみるけど――『あなた』ちゃんってさ、正直俺たちのことどう思ってる?」


 その瞬間、それまでにこやかだった麗華の瞳が一瞬細められる。


「ああ、そのことか~……へへ、本当は秘密なんだけど、お世話になってるから特別に教えてあげちゃおう」


 ほぼゲームと同じセリフを言って、麗華は胸ポケットから『マル秘!』と赤字で書かれた小さなメモ帳を取り出したのだった。

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