第14話 鍵は友人キャラ 1


 攻略キャラ以外に好感度アップアイテムが有効なのかはひとまず今後も要検証として、次は主人公の育成についてだ。


 本来、ゲームでは主人公=プレイヤーとなり、勉強に部活にバイトに友情に恋にと忙しくやっていくわけだが、この世界の現状では、『あなた』の操作権は俺になく、現状、ランダムに動いているように見える。


 一応 『ツイ☆プリ』にはオートプレイという機能が搭載されている。これは、CPUが、各キャラの好感度やステータスに応じて、ベター(※ベストではない)な選択肢を選ぶというもので、


『ゲームはよくわからないけど、シナリオやCGは見たいな――』


 というユーザーを想定されているそうだ。そんなやついるのか、という疑問もあるが。


 ともかく、今のところ主人公を観察する限りは、特に誰かに攻略対象を絞っていたり、また、プレイヤーにありがちな、


・ 周回前提で、とにかくアルバイトだけやりまくってお金を稼ぐ

・ ルーク先生ガチャで頻繁に職員室付近をうろうろする


 などの、不審者じみた動きは一切見られないので、まず『あなた』は俺のように別の魂が入っているという可能性は低いだろう。


 で、ここから本題だが、追っかけさえすれば攻略可能な時也を除き、各キャラの攻略のためにはステータス管理が重要になってくる。


 現在、『あなた』とのくっつけを画策しているのは難度☆2の十河瑛斗だが、最初にグラウンドで話を聞いたように、運動系の能力を重点的に上げる必要がある。


 体育会系の部活に入って汗を流したり、自宅でトレーニングをしたり、もしくはお金稼ぎも兼ねて肉体労働系のバイトするなど……基本それだけやっていれば、ステータスが一定以上で解放されるシナリオを進めることができる。


 だが、さっきも言った通り、『あなた』は今のところ平均的にステータスを上げているように見える。勉強、運動、そしてアルバイトや遊びなど――バランスよく上げるのは王道だが、それでうまくいかないのがツイプリの厄介なところで、それだと瑛斗エンドに必要な数値に達しないので、ゲーム終盤のバレンタインの告白イベントに失敗してしまうのだ。


 時也以外のキャラの攻略失敗=時也とのフォローエンドへと進むため、それは絶対に避けたい。しかし、彼女の行動を自分が思っている通りに操作するのは難しい。


 ということで、ここで、この前購買部で手に入れたステータスアップアイテムと、そして、『あなた』の友人キャラである三上麗華の出番がくるわけだ。


「あ、おっす~、五人さんたち。相変わらず一緒に来てるけどさ、飽きないの? たまには女の子連れてとかないわけ?」


「はは、まさか。俺たちはみんなのアイドルだから、そんなことは絶対にしないよ。それに通学時間も貴重な仕事の時間だしね。時也、今日の動画、ちゃんと撮れてたか?」


「大丈夫だよ、リーダー。俺が最後に激辛からし入りシュークリームに当たって悶絶するところまでばっちりだ。んで、おはよう、三上」


「おう、おはよう時也君」


 俺が挨拶を返すと、麗華はにっこりと笑ってそう言う。


 麗華はどんな人に対しても物怖じしないコミュ強タイプのキャラで、この時点ですでに他クラスの女の子や上級生と多くの繋がりを持っている。


 生徒間のコイバナや、先生同士の交際・結婚情報、もしくは生徒と先生との許されざる関係など、学園きっての情報通として主人公の助けになってくれるキャラだ。


 髪や腕、足にシュシュを装着し、眉にはラメ、耳の数か所にはピアスと、ちょっと地雷ギャルっぽさがすごいが、やはり作画担当のイラストレーターさんが大当たりだったおかげで、外見は当然のようにかわいいし、中身も当然非の打ちどころののないいいヤツなので、男女プレイヤーともに人気を博したキャラだ。まあ、友人キャラなので、聖人化設定にするのは当然なのだが。


「……お、おは、ざっす。五条君」


「ん? ああ、おはよう『あなた』さん。それ参考書みたいだけど、もしかして勉強か?」


「あ、はい。英語の……私、そんなに勉強得意じゃないので、その、麗華ちゃんに教えてもらってて」


 麗華の隣の席にいた『あなた』の今日のコマンドは『英語の勉強』を選んだらしい。知力を上げて、これからのテストで赤点を回避しないと、もっとも王子様のとのイベントが多く用意されている夏のほとんどが『補習』に置き換わり、俺以外とのエンドが実質不可能になってしまうので、一応、その選択は正しい。


 まあ、それが現実の世界なら、ではあるが。


「ふーん……あ、そうだ。そういえばさ、これ、前に先輩からもらったヤツ参考書なんだけど、俺、もう全部読んで頭に入っちゃったから、あげるよ」


「え? いいんですか?」


「ああ、置いててもゴミになっちゃうからさ、助けると思ってもらってくれよ。ほら」


「あの……はあ、ありがとうございます」


 俺は押し付けるような形で、『秘密の赤本 3』を主人公へと渡す。これについてはゲームの設定にもある行動で、低確率ではあるものの、ツイプリの五人の誰かから、『拾った』とか『部活で余った』という理由で、ランダムで攻略アイテムを入手できるイベントがあるのだ。


 そして、主人公が攻略アイテムを入手できる場面は他にもいくつかある。


 イベントクリアの報酬、ミニゲームの商品、休日や放課後パートでの商店街のくじ引き、ただ単に学校のどこかで落とし物として拾うなど……だいたいしょぼいものしか入手できないが、このイベントを利用して、攻略に必要なアイテムを渡そうと考えている。


 ドーピングで主人公のステータスを上げようという作戦だ。


「へえ……なるほど」


「お、なになに? 『あなた』、なんかわかった?」


「うん。私、ちょっとだけ賢くなった気がするよ」


 ――ピロリン♪


 と、どこからともなくそんな効果音が俺の耳に届いた。特殊能力を取得した時の音だが、どうやら他の人たちには聞こえてないらしい。


 まだ本を渡しただけなのでなんとも言えないが、どうやら主人公は、もらったアイテムに関してはすぐに使う思考らしい。であれば、なかなか好都合だ。


 これでひとまず主人公の育成問題はなんとかなりそうだが、さて、その次は攻略を進めるにあたって、どうしても確認しておきたい『三上麗華』のみが持っている情報があって。


「あのさ、三上。ちょっとさ、お願い、あんだけど」


「ん? お、なになに時也く~ん、もしかして、この私をデートにでも誘うつもり~?」


「ああ。まあ、そんな感じだ。なあ三上、今日の昼休み、二人で一緒にメシでも食おうぜ」


「ん?」「え?」「あ?」「……む」


 突然の俺の行動に、まず真っ先に驚いたのは、蓮たちツイプリのメンバーだった。

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