第9話 役割は果たす。でもイベントは起こさない 2
まず説明すると、『ツイプリ』は各攻略キャラクターごとのエンディングや、二週目以降に解放される複数人と結ばれるハーレムエンディングなど、そこそこのルートが用意されているのだが、ただ一つ、バッドエンディングが存在していない。
バッドエンド。大抵は主人公が攻略対象キャラを誰一人攻略できず終わったり、もしくはキャラの誰か、もしくは全員が悲しい結末を迎えてしまう後味の悪いルートだが、大衆受けのことを考えすぎたのか、『ツイプリ』の場合は、もしキャラの攻略に失敗しても、必ずとある人物とのエンディングを迎える……そういうお助けキャラが一人存在する。
……そう、何を隠そう時也だ。
そして、それこそ、彼が☆1難度だと言われている所以の一つでもある。
まず、時也の攻略方法について、やることはたった一つだけ。
自由行動になった際、校内外で登場する時也を追いかけて(出現した場合は、ちゃんとキャラのアイコンが出る)、時也との会話イベントを見る――これだけで、勝手にトゥルーエンドへと真っすぐ進んでいくのだ。
当然、各種パラメータを上げていくことによって、時也関連のサブイベントが発生し、メインルートを辿るだけでは回収できないCGが用意されているわけだが、特に回収しなかったからと言って、特にトゥルーエンドに辿りつけないとかそういうわけではない。
時也の攻略を通して、ツイプリ世界の雰囲気や、ゲームシステム、キャラとこれからどういうストーリーを歩んでいくか、などを感じてもらう――そんな役割を五条時也は背負わされているのだ。
プレイ時はわりと主人公のことを気にかけてくれるのでありがたい存在だとは思ったが……こうして『五条時也』に実際になってみると、かわいそうなことこの上ない。
「それじゃあ、そろそろ生徒会の仕事に戻るからこの辺で……時也、くれぐれも二人のこと、しっかり頼んだぞ」
「はいはい。お前こそ、千歳ちゃんのこと泣かすんじゃないぞ」
「メンバーにそんなことはしないさ。冗談はいいから早く行け」
「ったく、相変わらず真面目なヤツで……行こうぜ、アン、皆」
ひとまず最初の蓮との会話イベントを終えたところで、俺たちは校舎の外へ。
次の目的地は、瑛斗のいるグラウンド。聖星学院は生徒数は少ないはずだが、グラウンドは○○ドーム何個分という広さで、野球、サッカー、ラグビー、陸上その他、部活ごとに一面ずつ使えるようになっている。なので、サッカーコートまで行くのも一苦労だ。
近くまで差し掛かった時、ちょうど、グラウンドの脇にいる女の子たちから黄色い声援が起こっているのを耳にした。
シナリオ通り、今日はきちんと練習しているようだ。瑛斗の場合、サボり魔という特性があって、自由行動画面でアイコンが出現していても、一定確率でイベントが起こらなかったりする。
一見チャラい服装と髪色の割に、実はめちゃくちゃ真面目な時也の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいところだ。
「よう、瑛斗。今日は真面目に練習してんのな」
「ああ、今日はコーチの奴が五月蠅くて仕方なくな……で、お前のほうは呑気に女の子三人引き連れてお遊びか? 俺もちょっと混ぜろよ」
「今日は三上と『あなた』さんのことを案内してるだけだよ。ほれ、鬼コーチがこっち見てっぞ。練習しなくていいのか?」
「やべ……ったくしょうがねえな。んじゃ、俺は戻るわ。あ、そうだ麗華ちゃんに『あなた』ちゃん、これ、さっきそこの応援の子にもらったんだけどよ、俺たち、ファンの子からの差し入れって基本口に入れちゃだめだから代わりにもらってくれや」
「ふぇっ……!? わ、とと……ふ、ふう。ナイスキャッチ」
危なっかしい手つきながらも、投げられたドリンクボトルをキャッチする『あなた』。
なんの変哲もないスポーツドリンクだが、実は、これが主人公がもらえる最初の攻略お助けアイテムとなる。このドリンクの名前は【スタミナドリンク】。勉強や運動、アルバイトなどで消費する体力を、休養無しで小回復させてくれる消費アイテムだ。
普段はむかつく瑛斗だが、こういう偶に気のいい一面を見せてくれたりするので、憎み切れない部分もあったり。
「じゃあな、アンちゃん、それから二人とも。もし俺と遊びたければ、だいたいはここにいるから。俺と遊んでも大丈夫なくらい鍛えてくるようにな」
ここについては一字一句変わらず。少々無理のあるセリフだと思うが、つまり何が言いたいかというと、『体力』や『気力』、『運動センス』など、スポーツにまつわるステータスをちゃんと上げておいてね、というゲーム制作者からのメッセージだ。
こんな感じで、一応セリフの中から攻略の糸口を掴んでもらう仕様になっている。
「さてと、んじゃ次は塁んとこ行くか。アン、塁は今日いるって?」
「はい。先ほど連絡しましたが、今日はお姉さま方が会社にいるそうなので、部活中だそうです。新しいレシピを考えたから、時也様に味見してほしいと」
「へえ~、塁君って料理できるんだ。なんとなく女子力高そうだなとは思ったけど、やっぱり次期社長は違うね」
「うん。どんな料理なんだろうね。私、楽しみ」
「もう、『あなた』ったら、花よりなんとかってやつ? しょうがないんだから」
二人のほうは今のところしっかりと楽しんでくれているようで何よりだが。
……さて、それじゃ、そろそろ本格的にゲームを引っ掻き回していくとしますか。
俺も一応はゲームキャラなので、最初ぐらいは役割を果たすが、このままだと主人公と結ばれてしまう可能性大のため、これから訪れる予定の時也イベントは回避させてもらおう。
まずは、時也トゥルールート潰しからだ。
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