第8話 役割は果たす。でもイベントは起こさない 1
本来の3人にアンジェリカを加えた四人で、まずは1階から案内することに。
聖星学院は初等部、中等部、高等部とあり、当然ながらその分だけ校舎が存在している。一応ゲーム内でもゲームの進行次第で中等部や初等部に訪れるイベントがあるわけだが、今回は高等部の校舎のみ。
「それでは、まずは教職員の方々が居られる職員室へ参りましょう。これから3年間お世話になる方々ですから、挨拶は大事です。印象もよくなりますし」
ゲーム画面だと、これから行く職員室のほか、ライブでも登場した体育館、ゲーム内お助けアイテムなどが販売されている購買部や、生徒会室、中庭、文化部の部活棟、グラウンドなどなど……10ほどある施設の内からプレイヤーが自由に回ることができるのだが、天敵設定のアンジェリカがいる影響か、『あなた』ちゃんは何も言ってこない。
……なるほど、これは好都合だ。
ということで、早速俺たちは1階フロアの一番奥に職員室へ。ここに主にいる人たちは高等部を担当している先生たちだが、教職員合わせて100人ぐらいいる(という設定)。
ちなみに、ここ聖星学院高等部は各学年で100人ずつの計300人しかいないので、どう考えても過剰だと思う。まあ、ゲームなので、そこらへんはやはり気にしてはいけない。
「? おやおや、四人ともどうしましたかこんな薄暗い場所で……五条君、日本は重婚禁止ですよ~……ヒヒ」
「違いますよ。……アン、説明頼む」
「どうも四街道先生。今日はご主人様の命で、三上様と『あなた』様のお二人に校内施設の案内をしておりまして、まずは先生方に挨拶を、と思ったのですが」
「おや、そうだったのですか……ということであれば職員室内を案内するのもやぶさかではありませんが、生憎現在職員会議中でして……申し訳ないですが」
「そうなのですか……」
アンジェリカが俺のほうをちらりと見たので、問題ない、と頷いた。
この時点で、すでに俺の第一の目的は達成しているのだから。
「かしこまりました。では、また改めて伺わせていただきます」
「ええ、お待ちしております……今度は美味しいお茶をご用意しておきますので……
キシッ……」
不気味な笑い声の四街道先生と別れ、俺たちは引き返して、次の目的である生徒会室へ。
生徒会室には、聖星学院の生徒会長を務める蓮がおり、彼と、それから彼の脇を固める生徒会役員の紹介イベントがある。
その後は、藤士郎のいる剣道部、塁のいる料理研究会、そして瑛斗のいるサッカー部へとそれぞれ向かうつもりだ。ツイプリの皆もきちんとそれぞれ部活に入っている。当然、時也もだ。
「あ~あ、残念。職員室っていうから、もしかしたらルークに会えるかと思ったのに……」
「? 麗華、ルーク、さんって?」
「え? もしかして『あなた』知らないの? スティーブン・ルークっていう俳優さんなんだけど……ほら、最近もほら、ヒットしたハリウッド映画に出てた……」
「へ~、そうなんだ。私、映画ってほとんど見なくて……そんなにすごい人なの?」
「……マジか。ツイプリのことも知らなかったのもそうだけど、『あなた』ってかなり大物なのね」
俺たちの後ろで麗華がぼやいているが、スティーブン・ルークは、海外の主要な映画祭で何度も受賞経験がある俳優で、現在は、聖星学院で英語の臨時講師をしながら、ツイプリの演技や踊りの指導も担当してくれている人だ。
ゲーム内ではルーク先生、また、プレイヤー間では『ルー先』などと呼ばれていて、通常プレイでは遭遇確率が低いものの、もし会えた場合は特訓イベントが発生し、各ステータスをものすごく上昇させてくれたり、また、選択肢によっては特殊能力をつけてくれたりもする超重要キャラだ。
そして、それはもちろん、主人公と時也の恋を絶対に成就させたくないという、俺の計画にとっても。
「お二人様、お話中申し訳ありませんが、次の場所に着きましたよ。……ご主人様、よろしくお願いします」
「おう。……おーい、蓮。ちょっといいか? た~の~も~!」
『時也、そんなに大声出さなくても聞こえている。……どうぞ』
「あっそ。んじゃ、入ろうぜ」
蓮の許可が出たところで、俺は後ろの3人を引き連れて生徒会室の扉を開ける。
すると、生徒会室のメンバ―の数にわりにまたしても広すぎる部屋の中心に、『聖星会 会長・万堂蓮』と大きなネームプレートの置かれた机と、そこの椅子に座っているリーダーの姿があった。
「やあ、時也。珍しく真面目に案内をしているようじゃないか。感心感心」
「珍しくは余計だ。三上、それに『あなた』さん。これ、ウチのクラスの委員長」
「どーも万堂君。話は自己紹介でも聞いてたけど、アイドルやりながら生徒たちの代表もやってって、本当に大変だね」
「まあ、生徒の上に立つものとしてこれぐらいはね。『あなた』さん、そんなに緊張しなくても、教室のようにしてくれて平気だよ」
「は、はいっ……あ、そういえば、その上に着てる服、なんかすごい格好いいですね」
「ん? ああ、これは星聖学院が出来た当時から受け継がれている会長専用の制服でね。生徒会活動中は基本的に着用を義務付けられ……時也、さっきからなぜずっと笑っているんだ?」
「え、えっ……い、いやなんでも……ワライダケでも食ったかな……ふふっ」
他の奴らはまったく気にしていない素振りだが、この姿は、何度見ても噴き出してしまう。
おそらく会長としての威厳を少しでもデザインで出そうと、普段の制服に羽織る形でものすごく丈の長い特別な上着を用意したのだろうが、それがどう考えても暴走族の特攻服にしか見えないからだ。
肩にゴテゴテとくっついた機能性皆無でただ重いだけの金具や、背中にでかでかと金の糸で刺繍された『初代会長』の文字とその下に続く歴代会長の名前と、流星をモチーフにした校章……どう考えてもクソダサなのだが、なぜか会議では『いいじゃんコレ』『イカす』などといった絶賛コメントが続出だったらしい。
あまり言いたくないが、締め切りに追い詰められて変な幻覚でも見たとしか思えない。
ちなみにアンジェリカも俺と同様、顔には出さないが必死に笑いをこらえている。彼女は笑いをこらえていると能面みたいに無表情になるのだ。
「……まあ、そこの時也については放っておくとして、二人とも、何か質問はあるかい? ちょうど今仕事も一段落したところだし、色々と説明してあげよう」
「はいはーい。私、生徒会にちょっと興味あるんですけど、どうやったらここに入れるんですか~?」
「あ、私も、それ……ちょっと気になります」
「ふむ、いいよ。では僕が直々に説明してあげよう。……生徒会長、及び生徒会メンバーの全員は、毎年7月に行われれる生徒会選挙で、生徒たちの票をそれぞれ最も集めたものがその座を勝ち取れるというシステムだ。ウチの学校の生徒であれば、初等部、中等部、高等部問わず立候補可能だし、能力さえあれば選ばれる。実際、現在のメンバーには初等部の子もいるしね」
ということで、蓮を攻略するためには、この生徒会に入ることがまず第一条件となる。ゲームを開始してたった3か月で生徒会に相応しいと判断される数値までパラメーターを上げ、その上でミニゲームである『選挙イベント』をクリアすることで、晴れて生徒会入りとなるのだ。
蓮の攻略難度が☆5なのは、こういうところに理由がある。とにかく要求されるステータス値が高く、一周目でクリアするためには、先程名前だけ出たルーク先生との特訓イベントを引くまで、何度もロード&リセットを繰り返さなければならないほどだ。
俺の場合、蓮のルートはお助けアイテムが持ち込める二周目以降のプレイでクリアしたわけだが、今回のような一周目で、しかもどういう『あなた』がどういう行動をするのかまだ判断がつかない以上、ここのルートはあまり推奨できない。
なので、今回はセオリー通り、☆2難易度の瑛斗にルートを絞るよう、『あなた』ちゃんの行動を陰で操れればと思うが……なぜ、俺がそこまで積極的にイベントに介入するかはちゃんと理由があって。
……なんとこのゲーム、適当にプレイしていると、『 必 ず 』時也と主人公が結ばれるルートに入ってしまうのだ。
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