第6話 ☆1の五条、反抗する 1


 さて、俺の『あなた』ちゃんに対する第一印象はともかくとして、まずは簡単に『ツイプリ』のゲームフローについて説明しよう。


 記念で受けてみた聖星学院に補欠合格ながら見事に滑り込んだ幸運と、学校側の不手際というほんの少しの不幸のバランスによってツイプリの五人とクラスメイトになった『あなた』は、学校の内外で起こる様々なイベントを王子様たちと過ごし、最終的に選んだ一人とハッピーエンド目指すこととなる。


 期間は4月の入学式から、3月の終業式の一年間。


 好きな人を一途においかけるもよし、もし気になる人が多すぎてとてもじゃないけど絞れない、という場合には、二人、三人、いや、いっそなら全員まとめて自分のものにすべく奔走するのもよしだ。


 エンディングルートは多数用意、自分を磨いて、王子様の隣に相応しい女の子になろう――それが、取り扱い説明書の最初のページか書かれている文言だ。


 それだけだとあまりにもふわっとしているのでもう少し詳しく説明するわけだが、主人公にはゲームらしく『パラメーター』なるものが存在している。


 体力、気力、知力、器用さ、運、外見、音楽センス、運動センス、芸術センスその他特殊能力などがそうなるのだが、この各パラメータを上昇させていくことで、これから起こる学校でのイベントなり、王子様を攻略する上で立ちはだかる壁を乗り越え、少しずつ、王子様側に設定されている『好感度』を上昇させていく――まあ、この手のゲームにはありがちなシステムだ。


 とりあえず説明はこの辺にしておいて、ツイプリ本編のシナリオへ。


 お互いに自己紹介を終えた翌日から本格的に学校生活がスタートするわけだが、まず4月については、5月に迎える最初のイベントである勉強合宿に向けて、各パラメータを上げる準備期間的な扱いとなる。


 この月にも一応王子様たちとのイベントは用意されているものの、特に攻略に必要なものでもないし、回収するべきイベントCGもないので、この手のゲームに慣れたプレイヤーは、攻略キャラごとに特化したステータス上げに専念することになる。


「……それぞれの王子様は、一人一人得意なことや好きなことが違うの。だから、もしこの時点で気になる男の子がいるんなら、その人と同じことを重点的にやれば、いいことが起こるかもしれないよ?」


 教室につくと、すでに三上麗華が『あなた』ちゃんにアドバイスを送っている最中だった。


 ゲーム中での麗華は、ここから王子様の主人公に対する好感度判定キャラとして徐々に存在が薄くなっていくのだが……この世界ではいったいどんな感じになるのだろう。


「お~っす、三上」


「お、ちょす~。時也クンは相変わらずちびっこさんだね~、私もそんなだから、妙に親近感がわいてくるよ」


「うっせーな。これでも170センチはちゃんと超えてんだ。他の奴らがデカいからそう見えるだけで、俺は小さくねーぞ」


 他の四人はすべて180センチ以上あり、藤士郎や瑛斗に至っては190センチ近くあり、今なお成長という化物だ。一応俺たち高校1年生という設定なのだが、シナリオライターにはそこらへんもうちょっと考えて欲しかった。


「あ、ねえねえ時也クン、私たちって、ここの学院に通うの初めてじゃん? だからさ、ちょっと校内のこと、私たち二人に色々案内してよ。ここの皆は、初等部からずっと通ってるんでしょ?」


「まあ、そうだけど」


 時也たちツイプリにとっては(もちろん、何周もプレイしている俺自身も)すでに庭みたいなものだが、この二人にとって、ここの学院はまだまだ巨大な迷宮と言って差し支えない。


 新入生に早くこの学校生活に慣れさせるのも在校生としての務め(本当は、ただイベントに沿っているだけ)なのだが。


「わかった、いいぜ。んじゃ今日の放課後、行ける範囲で案内してやる」


「ホント? ありがとー、さっすが聖星の王子様。ね、『あなた』」


「う、うん。そうだね。あの……ありがとうございます。五条さん」


「いや、別にいいよ。他の奴らに頼んでも、適当に理由つけられて結局は俺に回ってくるからな」


 二周目以降は案内してもらえるキャラを選んだりもできるのだが、この世界が一周目なら、案内役は時也で固定である。


 というか、それにしても、やっぱりどんなに近くで見ても『あなた』ちゃんは顔が見えないな。声はきちんと聞こえているのだが、耳から聞こえている、というより、頭に直接音声が流れ込んでいるような……そんな奇妙な感覚がするのだ。


 うん。やっぱりこの子はなんとなく不気味だ。何度も言うが、俺自身はやっぱりこの子とフラグを立てたくない。できれば別の子と幸せになりたい。


 だからこそ、このチュートリアルイベントを、有効に活用しなければ。

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