66話。【炎の巨人】に勝利

「どうやら、至宝【レーヴァテイン】があったとしても、ディアドラでは相手にならぬようだな」


 ディアドラの口より、ドスのきいた声が響いた。全く別人としか思えない口調だ。


「宗主!? お待ちください。私はまだ負けた訳ではありませんわ!」


「エルフどもは全員、敵に回った。手駒も失い、もはやお前は孤立無援。それでどうやって、勝つというのだ?」


 ディアドラは一人芝居のように、自分自身で問答をしている。

 ディアドラではない何者かが彼女の口を使って、しゃべっているのか?

 まさか、コイツが【炎の巨人】(スルト)の宗主か。


「もう良い。お前には失望した。我ら【炎の巨人】の尖兵として、最後にその身を捧げてもらうぞ」


「お、お待ちくだい、父上……!」


「父だと? お前を拾って育てたのは、我らの復活の手駒とするため。無能めが、お前に父などと呼ばれる筋合いはない」


「あぁあああっ……!」


 ディアドラの悲痛な声が途切れた。

 彼女の身体が、異音と共に膨れ上がり、全身が炎に包まれた巨人と化す。


「ハハハハッ、ディアドラよ。光栄に思うが良い。お前の肉体は、我が依り代となったのだ! 心地良い! 久しぶりの地上よな!」


「お、お姉様!?」


 コレットが目を白黒させた。


「ディアドラの妹か? 我は【炎の巨人】(スルト)の宗主グローアなるぞ! 膝を屈せ! 絶望の涙を流せ! 我は神々をも超える存在である!」


 【炎の巨人】が、すさまじい威圧感を発する。空気すら震えるような絶対的強者のオーラをまとっていた。


「お前が黒幕か!? ディアドラは、最初から捨て駒にするつもりだったんだな!」


「そうだ。見事、エルフを絶滅させた暁には、我が娘として認めてやると言ったら、大喜びしておったわ」


 【炎の巨人】グローアが、あざ笑う。

 親の愛情に飢えていたディアドラは、その甘言にまんまと乗せられたという訳か。


「本来、我は表に出てくるつもりは無かったが。アッシュ、アルフヘイムの森を復活させたお前は、世界を炎で包まんとする我らの脅威となるだろう。お前には、ここで消えてもらうぞ」


 グローアが炎の魔剣【レーヴァテイン】を振りかざす。

 超高温の熱波が魔剣から放出され、床や天井が溶け出した。


「いけません!」


 コレットが耐火用の結界を張ってくれる。


「ご主人様、この結界の外に出ないでください。外は1500℃近い、灼熱地獄になっています!」


 部屋の石材が溶けて、灼熱の溶岩と化す。熱気に視界が揺らいで見えた。


「クソっ……歩くだけで、すべてを焼き尽くしたって伝説は、本当のようだな」


「そうだ。力を解放した【炎の巨人】の前では、すべての生命が死に絶える。この圧倒的な力ゆえに、神々は我らを異次元に追放したのだ! 我らは炎の中でしか生きられぬというにな!」


 グローアが口惜しそうに言った。


「だから、エルフを絶滅させ、誰も彼も不幸にしてまで地上に復活したいって言うのか? 悪いが、そんな自分のことしか考えていないヤツは追放されて当然だ!」


 俺は【神剣ユグドラシル参式】を構えた。

 すべてを引き裂く最強の一撃を放つべく、精神を統一する。この【神剣ユグドラシル参式】は【植物王(ドルイドキング)】によって生まれ変わった炎に強い神剣だ。

 なら、そこから放たれる【天羽々斬】(あめのはばきり)も、同じではないか?


「ほざきよるわ! 我は実態なき炎そのもの! その我を斬ることが、できるとでも思っていのか!?」


 グローアが【レーヴァテイン】を大上段に構えて、振り下ろす。

 コレットの結界ごと、俺たちを蒸発させる気だ。


「コレット! 筋力強化バフを限界以上までかけてくれ! 俺の身体が壊れても構わない!」


「はい!」


 コレットが俺にバフ魔法を重ねがけする。

 無茶な筋力強化のため、全身の筋繊維が破断し骨が軋んだ。本来、バフ魔法は対象者の身体を痛めないようにセーブして使うモノだが、そのリミッターを外してもらった。


 おかげで一瞬だけだが、【植物王(ドルイドキング)】を得る以前のパワーが戻った。

 この一撃にすべてを賭ける。


「【天羽々斬】(あめのはばきり)!」


 俺の放った衝撃波によって、支柱が弾け飛び、床が裂けた。


「ハハハッ! 世界樹よ、万物を焼き尽くす我が炎に飲まれよ!」


 【レーヴァテイン】の業火と、俺の衝撃波が激突し、王座の間が激震した。

 だが、均衡は一瞬で崩れた。

 俺とコレットの最大最強の合せ技が、こんな奴に負ける訳がない。


「なんだとッ!?」

 

 グローアが目を剥いた。

 【天羽々斬】は【レーヴァテイン】の炎を蹴散らして驀進する。それはグローアを飲み込んで粉砕し、壁に大穴を開けた。

 グローアは跡形も残らず、この世から消え去った。

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