65話。王権の継承
「そうは、させませんわ!」
ディアドラが炎の魔剣【レーヴァテイン】を振るう。うなりを上げる地獄の猛火が、俺たちに向かって放たれた。
「【世界樹のタワーシールド】!」
【世界樹の剣】を、俺たち3人の身体をすっぽり覆い隠せる大盾に変形させる。炎は大盾に弾かれて霧散した。
「ご主人様!」
コレットが目を閉じる。羞恥と期待からか、その頬は赤く染まっていた。
加速度的に俺は、顔が熱くなるのを感じる。
彼女を慈しむように抱き寄せる。コレットの温もりに、心臓が大きく跳ねた。
コレットとはまだ出会ったばかりだ。
だけど、彼女には大きく助けられた。きっと、コレットと出会わなければ、親父に立ち向かって勝つことはできなかっただろう。ユースティルアを救うこともできなかっただろう。
俺がどん底にいた時に、光をくれた存在。俺はコレットのことが好きだと思う。これからも時間と共に、彼女のことがドンドン好きになっていくに違いない。
コレットからの熱烈アプローチに、いつも逃げ回っていたけれど……本当はコレットのようなカワイイ娘が、俺のことを好きになってくれるなんて信じられなくて、照れ臭かっただけなのだ。
「うぉ、これは……!?」
コレットと重なった瞬間、俺の全身に電流のようなモノが流れた。
「お命じください。アッシュ様、わたくしたちエルフは、あなた様に従います!」
『真のエルフ王は、すべてのエルフに一日に一回、絶対命令権を行使できます。絶対命令権を使いますか?』
俺の頭の中に、世界の声システムボイスが響く。
初めてのことだったが、俺は声に導かれるまま叫んだ。
「絶対命令権を行使する。エルフたちは戦いを中止して、アルフヘイムの森を守れ!」
『『はっ!』』
俺の命令を受け入れた万単位のエルフたちの返事が、脳裏に響く。
すべてのエルフたちと心の奥底で繋がっているような心地よい感覚。大勢のエルフが、俺にかしずいてくれていると、実感する。
さらには、このアルフヘイムの森そのものが、俺と一体になっているような不思議な感覚を覚えた。
レイナたちが今どこにいるのか知ろうと思うと、それはたちどころに映像と音声を伴って、目の前に浮かんだ。
王宮への道に火の手が回って、彼女らの部隊は立ち往生している。森はひどい有り様だ。
いや、待てよ。もしかすると……
「【植物王(ドルイドキング)】、植物の再生!」
俺はスキルを発動させた。
炎に焼かれる木々が、再生することを願って。
すると、俺が見ていた映像に変化が生じた。燃え盛る炎が衰え、猛烈な勢いで木々の枝葉が再生していく。火の海と化していた森は、美しい緑をたちどころに取り戻す。
俺の通信魔導端末が、着信を知らせた。
「アッシュ団長! どういう訳か燃えた木々が、すごい勢いで再生していくわ!」
レイナの驚愕の声が、端末より響く。
「すごい! 森が蘇っていく! 火の勢いも弱まっていくわ!」
「ああっ! ご主人様! エルフ王は魔法とスキルを、アルフヘイムの全域に届かせることができます。【植物王(ドルイドキング)】のスキルを持つご主人様こそ、やはり、わたくしたちの王にふさわしくかったのですね!」
コレットが歓声を上げた。
森が感謝と喜びの声を上げているのが、俺にもわかった。
再生された木々は、より元気になって、その身を喰らう炎を弾き返している。これも【植物王(ドルイドキング)】の効果だ。
森の木々は、炎に対して強い耐性を得ていた。
「ご主人様に出会えたことに、最大の感謝を! おかげでアルフヘイムは救われました!」
コレットは感激のあまり、涙を流している。
「いや、感謝するのはコッチだ。俺もコレットに出会えて良かった」
俺の嘘偽り無い気持ちだった。
「アッシュ団長! 私とギルバートはアルフヘイムの王宮に向かうわ! それまで、持ちこたえてちょうだい!」
「ああっ、頼む!」
俺は通信を切って、ディアドラに相対した。
もう、何の不安も無かった。
「そ、そんな……私の計画がっ!」
「武器を捨てろディアドラ! お前の負けだ」
俺はディアドラに降伏を呼びかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます