第10話「犯罪深度」

 東はレベルアップは叶わなかったようだ、それもそうだろう、犯罪深度が10万を越えて居る、何をしたらここまで深度が深くなるのか解らないが、見た目通りの学生って訳じゃ無いらしい。


「残念だったな」

「発音間違ってますかね」

「残念だけど、それを判断出来る程ネイティブじゃ無いんでね、イオナにでも聞いてくれよ」

「そうですか、そうですね機会が有れば聞いて見ます」


 それだけ言うと東と別れ、再び放牧場の柵の周りを歩いて行く。


「先輩あの東って子佳代ちゃんを見る目、怪しく無かったですか」

「あいつロリコンかよ」


 ロリコンで犯罪深度が高いって、思い浮かぶ事が不吉な事しか無かった。

 その佳代の犯罪深度は23しか無い、5歳児だと犯罪なんて犯さないかと安心した、これならステータスとスキル両方取得出来そうだ。

 一方の長田は犯罪深度950でギリギリステータスを得られそうだ、レベル神の呪文が唱えられないのは、単純に上手く詠唱出来なかっただけのようだ。


「直樹兄ちゃん羊さんに餌を上げても良い?」

「餌って何を上げるつもりだ」

「チョコレート」

「それは辞めて置いた方が良いと思うかな、草しか食べないと思うよ」


 牧場の周りを回ってから女子寮に戻った、イオナ達が帰って居て、何だか騒ぎに成っている。


「直樹帰って来たのね、大変よゲートを発見したの」


 こんなど田舎でゲートが有ったのかよと神に苦情を言いたく成ったが、話をよく聞いてみると、ゲートが存在したのは山間部では無く、ニュータウンの中央地区の地下に有るようだ。


「危ない感じなのか」


 ゲートはヤバいって事は分かる、分かるのだが、イオナの犯罪深度もかなりヤバい、5万近い深度で流石わ1兆越えのレベル神の信徒、かなりの深度でもレベルを取り消される事は無さそうだ。


「今すぐどうって事は無いけど、大学で暫く暮らすつもりなら叩いて置いた方が良いわね。今なら私と直樹でどうにか出来ると思う」

「先輩俺も協力するんで、是非、お願いします」


 三枝もゲートの存在を確認しているようだった、三枝の犯罪深度は590意外や意外、長田よりも健全に人生を謳歌していたらしい。


「レベルを上げてからでも大丈夫か」

「直樹のレベル?それは大丈夫だと思うけど、もうレベル10なんでしょ、ゴブリン相手じゃそろそろキツイわよ」


 俺もそうじゃないかとは思っていた、残りの経験値かなりの数値だもんな。


「ゴブリンの次の相手って何を狙えば良いんだ」

「そうね、トードかオークあとは居るならホブゴブリンを狙いたいわね」


 トードと言うのは名前の響きからカエルだろうか、オークは分かる駅前で女性を襲っていた豚の化け物だ。


「この辺りにそいつら居るのか」

「少なくともオークの姿は確認したわ、覚達を連れて居たから迂回したけど、余裕で殲滅出来そうだったわよ」


 ひとまずイオナには休んで貰って、ステータスを覚えられそうかつ口の硬そうな学生を選んで話をする事にした。


「上堂先輩イオナさんにも内緒の話って一旦何ですか」

「三枝はRPGはやるほうか」

「子供の頃には多少やってましたけど、そんなに詳しかないですよ」

「それで充分、ああいうゲームにはステータスを確認出来るよな、普通は」


 俺のその言葉で何人かの学生が、ハッとした顔になって、小さな声でステータスやオープンステータスと口にしていた。


「察しの良いオタク連中はもう口にしているけど、ステータスを見る事が出来る人間が居るんだ」

「それが俺達なんですか」

「そう云う事だな、ただ全員が見れる物じゃ無いから見れそうな人間を集めたって訳よ。今からここに居る全員にステータスを付与するから確認してくれ」


 よく考えるまでも無く付与の仕方なんか知らんが、ここに居る連中の犯罪深度は1000を切っている、ステータス神の言葉が正しければステータスに目覚める筈だ。

 

「うおおお、びっくりした。これってまるでVRみたいですね」

「名前とレベルと年齢と信仰する神の名前が乗ってますね」

「スキルも有るみたいですね、空欄ですけど」

「えっそうなの、俺スキルに栽培ってのが有るけど」

「農学部だからって事か、何で俺は何も無いんだ」


 それぞれが話ているが概ね、俺が見ている物と同じらしい、既にスキルを取得している連中も居るようだ。

 栽培ってのは生産系のスキルで、通常の3倍の速度で成長して、収穫量も3倍になると言うお得スキルだ。


「スキルの事は俺も詳しい事は判っちゃ居ない、残念ながらイオナもステータスを見る事は出来ないらしい。ちなみに俺のスキルは剣士だ」

「おお、剣士スゲー」


 話題が落ち着いてきた、スキル教に入信させらそうなのは、この場には3人しか居ない、少し時間を置いてから個別で勧誘すれば良いだろう。


「上堂さん、この健康状態とか、MP、HPってゲームと同じなんですか」


 俺のステータスにそんな表記は無いのだが、他の面子にも確認したが、MPとHPの表記が有ったのは最も犯罪深度が低い、稲村と言う女子学生だけだった。


「上堂先輩、ステータス画面で何が出来るんですか」

「実はよく判らんから、検証して欲しい、何か出来る事が有るのかも知れない」

「そう云う事ですか、どうやって先輩はこのステータス画面を取得出来たんですか」

「胡散臭い話だが、俺はレベル神様から、ステータスの事を聞かされて、ステータス画面を見れるようになったって事だよ」

「確かに胡散臭い話ですが、否定出来る事でも無いですね。実際に見えるように成りましたし」


 話すなと釘を打っては居たが、夕方には粗方の学生に話は回ってしまった。

 俺の目的は布教に有る為それは別段問題ないのだが、イオナにまで事情を聞かれたのにはまいった。




「直樹兄ちゃん、スキルポイントを使ってスキルを取得出来るように成ったって事だよね」

「そう云う事になるのかな」


 覚と佳代の鈴木兄弟には夜、スキルの取得の仕方まで教えた、彼らを起点にしてスキルが広まる事を期待しているのだが、如何せんスキルを覚えられる人材が少な過ぎた。全員に教えても両手の指の数さえ余る。


「佳代は何ポイント有った?」

「私は40ポイント有ったよお兄ちゃんは」

「俺は5ポイントしか無かったよ」


 佳代はレベル4で40ポイント、一方の覚はレベルが5になって5ポイントしかスキルポイントが得られなかったようだ。

 覚にしても最低限1つはスキルが取れる。

 俺のような戦闘系のスキルを取りたかったようだが、5ポイントで取れるスキルでは、汎用の戦闘スキルは無かった。


「直樹兄ちゃん無病息災ってスキルどう思う」

「医者にすぐ掛かれるとも限らないから良いんじゃないか」

「そうだよね、なら最初のスキルは無病息災を取るよ」


 覚は無病息災と言う病にかかり難く成る、状態系のスキルを取得した。


「私は魔法使いに成りたい」

「それでも良いと思うぞ」


 佳代は魔術士のスキルを取得した、必要なスキルポイントも人によって大小が有るらしい。

 他の戦闘職のスキルを取得するには100ポイント以上必要だったが、佳代は魔法系のスキルの必要ポイントが軒並み低く、魔術士スキルは30ポイントで取得出来た。


「佳代も無病息災が取れたら良かったのにな」

「うん」


 佳代のスキル取得欄にはそもそも無病息災が無かったようだ、残り10ポイントは保留して身体強化系のスキルの為に残しておく事にしたようだ。


「直樹兄ちゃん、魔法ってどうやって使ったら良いのかな」

「イオナに聞くしか無いかな、俺には全く分からないよ」

「うん、明日に成ったらイオナ姉ちゃんに聞いてみる」



鈴木兄弟の部屋から自分の部屋へと移動していると、イオナが俺の部屋の前で待ち構えて居た、指で部屋の中を示すので話が有ると言う事なのだろう。


「なんすか、イオナさん」

「直樹、ステータスどうやって覚えたの」

「レベル神様に教えて貰った」

「教会の祈祷も無くて覚えたって事よね、それもレベル神からステータス教の事を教わったって事でしょ。それともステータス神とも会ったの」


 イオナの居たバナーランドでは教会にお布施をして、ステータスが使えるように成るんだったか、どれだけ金を積んでも犯罪深度の深いイオナではステータスが見えるような事あり得ないんだろうな。


「レベル神、ステータス神、スキル神は三姉妹の女神様なんだってさ。冒険神から生まれたって話だったけど、知らないのか」


 イオナには冒険神の話は出来た、タブーって訳では無いのか。


「レベル神とステータス神が姉妹神だったなんて初めて知ったわ。その上にスキル神様も同じだなんて、予想外の事ね」


 スキル神だけ敬称を付けるのか、もしかしてイオナはスキル教の信者なのだろうか。


「私達古き森の一族はね、皆がスキル教を信仰しているの、そしてスキル神様に願いた届いた時にはスキルが得られるって信じて居るのよ」

「なるほどね、それは大分難しそうな話だ」

「どうして」

「イオナは犯罪深度って知ってるか」

「カルマの事?」


 カルマは因果応報とか宿命とかそんな意味の言葉だったように思う、漫画かアニメで聞いた話なので、間違って居るかも知れないが、まあ言葉の意味は近いだろう。


「カルマって数値化されてたりした?」

「分からないけど、カルマが高いとレベル神からレベルを剥奪されるわ。前に貴族が戯れに人を殺した時に、その貴族からレベルが失われる所を見たわね」

「人を殺すとレベルが無くなるって事か?」

「まさか、そんな事でレベルが没収されたら私なんて今頃レベルが0ね」


 つまりイオナは人を殺しているし、例え人殺しでもレベル神の信徒から除外される事は無いわけね。

 じゃあ、あの東って学生何をやったんだ、ロリコンって事は分かるが、殺しなんかに手を染めているようには見えなかった。



 確か、俺達の倫理観で犯罪深度が図られるなんて話も聞いた、イオナとは同じ価値観では無いかも知れない。


「イオナには正直に言うけどな、その犯罪深度ってのが高すぎてイオナがステータスの加護を得る事は出来ないんだ。ステータスが覗けないとスキルが取得できないんで、つまりイオナがスキル神の加護を得る事も出来ないって話なんだ」

「なるほどね、教会の連中がエルフ差別してたって訳じゃないのね、カルマの数値が関係するなら確かに私じゃ駄目そうね。魔王を討伐する為に無茶な事もしてきたし」


勇者小川大地も中々エグい事をやっていたようだ、彼もステータスの加護は得られず、レベル神の加護と勇者としてのスキルだけで、最終的に魔王を討伐したようだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

会社が倒産したら世界も破滅していた件 まわたふとん @apuro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ