第9話「3人の女神」

 女子寮で2日間ぼーっとして過ごした、水と電気が使える事がこんなに有り難いと思った事は無い。

 イオナは学生達と一緒に学外に出てフィールドワークを行っているようだ、その際彼らと一緒に魔物を倒し、レベル上げに貢献して学生達から信用を得て居る。

 覚も一緒に魔物を狩っている、覚の妹佳代は安全な場所を得た事で俺と同じ用に部屋の中でぼーっとして過ごしていた。


「先輩どうやったら呪文を唱えられるように成るんですか」

「発音を覚えたら良いじゃないのか、俺にはよく判らんよ」

「明日花もレベルが上がったんですよ、レベルが上がって無いの私だけじゃないですか」


 それは嘘と言うか大げさな話だ、学内に居る300人のうちレベル神を呼び出せるようになったのはその三分の一にも満たない、どちらかと言えばレベルが上がって無い人間の方が多数派なのだ。


「イオナに直接発音の指導をしてもらったらどうよ、俺と違って本場物だよ」

「先輩の発音の方が聞き取り易いんですってば、それでも上手く話せなくて、発音以外にも何か、異世界言語特有のコツなんて物が有るんじゃないですか」

「だから、そんな事は知らないって」


 部屋の中でユックリしても居られないようなので、部屋から出る事にした、充分休息は取れた。


「どこ行くんですか」

「農場の方に行ってみるよ」

「私も行きます、用意するので待ってて下さい」


 うるさい長田から離れる言い訳だったのだが、失敗してしまったようだ。

 どうせならと鈴木兄弟の部屋を覗いて、部屋に居た佳代を散歩に誘った、大人しい子では有ったが暇を持て余していたようですんなりと着いて来た。


「直樹兄ちゃん牛さんが居るよ」

「ここで牛と羊と鶏を育ててるんだよ、もう少し先まで歩いて行くと豚も育ててたと思う」

「ちょ、ちょっと2人とも、早すぎ」


 農場の牧草地帯に入って、牛を柵越しで眺めて居る、牧歌的な雰囲気でとても終末世界だとは思えなかった。


「長田が遅すぎなんじゃないか、5歳時より動けないって駄目すぎだろ」

「レベル4の佳代ちゃんに私が運動能力で勝てる訳が無いじゃないですか」


 佳代は精霊との親和性が高かったのか、レートが1を越えて居たらしくレベル神を呼び出すとレベルが4に上がっていた。

 それでも俺のようにレベル神と会話が出来なかったようだが、俺の次に佳代がレベルが高いと言う事になる。


「上堂さんですよね」


 農場に居た学生から声を掛けられた、多少は学内で有名になってしまったようだ。


「そうだけど君は?」

「畜産科4年の東です、あの僕もレベルアップの呪文を教えて貰えませんか。これ貢物です」


 手製の生キャラメルを貰ってしまった、その一つを佳代の口に放り込んでやると、東の為に呪文を唱えて実演して見せた。




「いくら何でもまだレベルは上がっておらんよ」

「それはそうでしょうね、レベルアップの呪文を教えてくれと言われて、唱えただけなんですが、その気も無いのにここに繋がってしまうんですよ。これ貢物らしいです」


 手製の生キャラメルをレベル神に差し出した、レベル神は生キャラメルを口いっぱいに頬張ると、一気に食べてしまった。


「次はシュークリームを希望する」

「どこでそんな物覚えてくるんですか」

「眷属の見たものは私にも見えるからのう、昨日佳代と2人で旨そうに食ってたでは無いか」


 見えてるのか、昨日もはやり貢物だと言って差し出されたシュークリームは、俺の佳代の腹の中に入ってしまった。


「イオナの指輪の中にならまだ入ってるかも知れませんけど」

「どうせなら作りたての物が食べたいぞ、あの明日花とか言う娘にまたせがむのだ」


 今の所は食材に困っては居ないが、何れ日本から食材が消えて行く事になる、大学で実験と実習の為に作られて居る農作物では300人の学生の、腹を満たし続ける事は難しい。


「頼んでみますよ、それより普通のスキルの取得ってどうやったら良いんですか、イオナに聞いても分からないって言われてしまったんですが」

「スキル神にスキルポインを捧げるんよ、でもその為にはステータス神からステータスの加護を貰わんとスキルを選べんちゅー訳やね」


 また神の名前が出て来たよ、無神論者が多い日本じゃ辛い物が有るな。


「俺でも、そのステータス神からステータスの加護を貰える事は出来ますかね」

「ステちゃんとはマブやから大丈夫やね、でもスキル神はもう無理よ、スキルポイントの贄が入らんから存在の消滅寸前やよ

「贄ですか?」

「うちらの糧やね、レベル神たる私は経験値、ステータス神は閲覧数、スキル神はスキルポイントを得て暮らしとるんよ。バナーランドの創造神はとっくに何処かに消えてまったし」

「バナーランド?」

「あのエルフっ子の居た世界の名前やよ、直樹の世界はガイアって呼んだらええんかな、こっちの創造神も居ないみたいやし、今更世界の名前なんてどうでも良いんとは思うけど」


 イオナが居た世界の名前がバナーランドか、イオナが世界の名前を知ってるのかは知らんが、レベル神の話だとどうでも良い事らしい。


「ステータス神を呼び出すにも呪文が必要なんでしょうか」

「ステちゃんとも仲良くしてくれるの?なら呼んじゃうよ」


 レベル神とステータス神は互いの仲が良いらしく、この場所にステータス神を呼び出してくれた。


「おいっす、久し振りで相変わらず景気が良いじゃねえか姉ちゃん」


 レベル神と全く同じ顔をした女神が突然現れた、おそらくステータス神だとは思うが、色違いの2Pキャラのようだ。


「直樹この子がステちゃんやよ、冒険神から生まれた3女神の1人で、私の妹なんよ」


 3女神って言えば現在、過去、未来の三姉妹が有名だが、冒険神の三女神って地球の神には居無さそうな神だな。


「レベル神の眷属をさせて貰ってます、上堂直樹ですよろしくお願います」

「へえ地球でも相変わらずの人気だな姉ちゃん、自慢の為に呼んだのか」

「あのね、直樹がステちゃんとも仲良く成りたいって言うから呼んだの、ステータスの加護が欲しいんだって」

「それは良いや、だったら直樹は俺の地球での最初の使徒だ、沢山ステータス教の信者集めよろしくな」


 レベル神の眷属に続いてステータス神の使徒まで拝命してしまった、まるで俺がチート野郎のようだ。


「信者集めって何をすれば良いんですか」

「ステータスのPVを稼いでくれよ、ステータスを閲覧される度に信仰度が上がる仕組みなんだ」


 そっか、レベル神も経験値を糧にして信仰度を上げて居るんだな、つまり貢物の菓子なんて本来は必要では無いわけだ。


「どうやって信者を勧誘したら良いんですか」

「直樹が窓口に成ってステータスを配布してくれよ、俺んところは姉ちゃんの所と違って、犯罪深度が1000を上回ったらステータスの閲覧が出来なくなるんだ。だから信者にヤバい奴は要らないから」

「犯罪深度って何ですか」

「罪を犯した度合いだな、罪の度合いなんてどうやって測るんだって話だけどよ、実は俺も詳しい事は知らないんだよな。ただ犯罪深度はこっちの創造神様のが基準になるから、直樹の倫理観で大体有ってると思うぞ。特別に俺の使徒たる直樹には犯罪深度を見える目をやるよ」

「ちょっ」


 背中に冷たい物が流れ、辞めてくれと辞退を申し出るスキも無く、左目に激しい痛みが現れ、ステータス神とレベル神2人の頭の上に数字が見える。


「犯罪深度10億超え・・・」


 ヤバい物を見てしまったステータス神の犯罪深度は10億5240万、そしてレベル神の犯罪深度は9999億9999万9999と成っており、数値の表示限界を越えて居た。


「なんだよ俺と姉ちゃんの犯罪深度まで見れたのかよ、思っていたより優秀なんだな。鏡を見たって自分の犯罪深度は見えないぜ、直樹の俺の使徒だからな、やりたい放題やっても大丈夫で嬉しいだろ」


 俺の考え程度は簡単に見透かされてしまうようだ、実際俺も自分の事を聖人君子だなんて思っても居ない。

 ここに逃げて来るまでに倉庫荒らしはしてきたし、助けを求めて来た連中も切り捨ててきた。

 どの程度の犯罪深度か見極めてみたかったのだが。


「なあ姉ちゃん、スキルの奴には声を掛けてやらないのか」

「あの子は私と合わへんでしょ、呼んでも来ないと思うんよ。それにもう存在事態が希薄やし、このまま見送ってやるのも姉としての優しさやと思うんよ」

「まあ姉ちゃんとは合わないとは思うぜ、でも俺はスキルの事を消えて欲しいなんて思えねぇんだ。だから俺の所でスキルを呼んで、直樹と契約を結ばさせる」「そうなん、頑張ってね」


 次の瞬間景色が変わる、真っ白な空間から、宇宙船の中のような場所で椅子に座っていた。


「ここは?」

「俺の本陣って所だな、信者の連中は神域だとか呼んでるけど、別に神聖な場所だって訳じゃねえ、冒険神から奪った空間ってだけだ」


 不穏な言葉を聞いたがあえて無視した、地球の神話でも神々の酷い話なんてそこら中に溢れ返って居る。


「スキルこっちに来いよ」


 背後から急に何かの気配を感じ振り返ると、やはり同じ顔の色違い3Pキャラって事になるのかな、スキル神だと思われる女神が佇んていた。


「犯罪深度0?」

「そうだよ、俺の妹のスキルだ、スキルはちょっと真面目過ぎてよ、犯罪深度が相当浅くないとスキルを与えないんだ。だから信者が居なくて消え掛けてるんだよな」


確かにレベル神とステータス神と比べると存在が薄い、レベルも重要だけど、スキルもかなり必要だと思う。

 俺はレベル神から剣士のスキルを貰ったが、生産系のスキルを取得すれば、この先復興にも役立つと思える。

 なんとかスキル神のご機嫌を取って、長田達にも取得させてやりたい物だ。


「直樹良かったな、地球の理不尽な惨状は理解してるってよ。それで現状があまりも不条理だから犯罪深度500未満の奴らにはスキルを与えても良いってさ」

「そうなんですか、ありがとう御座います。それで俺にもスキルを貰えるんでしょうか」


 スキル神に話しかけて見たが返事は無かった、既に俺みたいなん凡人とコミニュケーションを取れる程の能力が無いのだろう。


「勿論直樹にはスキルの伝道師に成ってもらうから、スキルポイントに応じてスキルを取得してもらう事になる。直樹の行動や態度によってスキルを普及させてくれよな」


 眷属で、使徒で、伝道師か・・・意味が判らん。


「レベル神様を呼び出すような呪文は無いんですよね」

「そうだな、俺達にはそう云うのは無いんだよな。ステータスが見たく成ったらステータスって心の中で思うか、言葉に出せば見えるし。スキルポイントを使ってスキルを得る為にはステータスが必要だし、バナーランドじゃステータスの付与は使徒を頂点にして教会が代行してたな」

「俺も最終的には教会を作らないと駄目な感じですか」

「ネットを介してでも、テレビ電話でも直樹の好きにしてくれれば良いぜ」


 ネットの存在もテレビ電話の存在も知っているようだ、どちらも絶賛稼働停止中では有る、つまり暫くの間は俺が直接会って、判断してステータスの付与と、スキルの取得方法を広めないといけないらしい。


「まずはステータスの確認から初めて、スキルを取得してみてくれよな」


 確かにそうだと頷いてステータスを確認する、態々言葉にしなくてもステータスを確認出来るのは有り難い。



名前:上堂直樹

年齢:27歳

レベル:10

信仰:レベル教・ステータス教・スキル教・冒険教

スキル:剣士

スキルポイント:31

加護:レベル神の加護・ステータス神の加護・スキル神の加護・冒険神の呪縛


 ちょと待て俺、冒険教なんて信仰してないし、冒険神の呪縛なんて訳の分からない加護まで有るぞ。

 この事を目の前のステータス神に話して良いものなのか・・・後からバレると不味いし話して置いた方が良いか。

 冒険神の事を話そうとすると、口が動かない、口だけでは無く何故だかステータス神とスキル神さえ微動だにしてなかった。

 どうにかして伝えようとしても駄目だ、口にする事を辞めるとステータス神は動き出すし、俺の口も回る。


再び口にしようとしたら、やはり時間が止まったようにステータス神の動きが止まった。



「ハァハァ」

「突然どうした、ここで直樹の体調が悪く成るような事あり得ないぞ」

「大丈夫です、少し緊張しただけですから」


 冒険神の事は口に出来ないようだ、同じやり取りを既に4度行っているが、ステータス神はその事すら認識して無いようだ。

 冒険神の事を伝えるのは諦め、スキルポイントを使って新たなスキルを得る事にした。


 スキルポイントを使って得られるスキルは最低でも5ポイント必要で、最も欲しいと思えるアイテムボックスのスキルを取得するには100ポイントが必要だった。


「今31のスキルポイントが有るんですけど、レベルが1上がると3.1ポイント増えるんですかね」

「ポイントの増え方はレートに寄って違うらしいぞ、直樹は3.1らしいけど、他の人間だと違うみたいだ。それから前もって伝えて置くけど、所得出来るスキルは種族や犯罪深度によって変わってくる。直樹はスキルの加護が有るから全てのスキルが取得出来るけど、必要なスキルポイントは一緒だってよ」


 そう云う事ね、通りで無理目なポイントのスキルも有る筈だ、普通は取得出来るスキルの幅がもっと狭いのだろう。

 亜神って神に至る途中って事だよな、必要なスキルポイントが1億ってどうやったら貯められるか想像も出来ない。

 イオナのような長命種でも無い限り貯まらないのだろう。

  最低でも一つはスキルを取得するよう強要されたので、無難な丈夫な身体と言うスキルを取得した、必要スキルは最低の5ポイントだ。


「よっしゃ、これで最低限スキルが消える事も当分無くなったな、向こうに帰ったら普及よろしくな」


その声を耳にするなり現実世界へと帰ってきた。


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