第5話「新たな出会い」
「お邪魔しますよ」
警戒しつつ声を掛けて中に入る、店の中は荒らされて居る様子は無い、人が隠れられそうな場所は無いように思える。
イオナが窓際を指指すので私と長田が窓を確認する、子供の物だと思える足がカーテンの隙間から見えた。
「子供なのか」
「子供なんかじゃ無い、俺はもう中学生だ」
カーテンから出てきたのは小学生にしか見えなかったが自称中学生と言う事らしい、カーテンの後ろにもうひとり、正真正銘子供が隠れて居て、その子供を庇うようにして男の子が前に出てくる。
「親はどうしたんだ」
「死んだ」
「両親揃ってか」
「父ちゃんだけ、母ちゃんは3年前に家を出てった」
「どうしてここに隠れて居たんだ、避難所が何ヶ所が出来たみたいだけど」
逃げ遅れてここに隠れて居たと言うなら、避難所まで連れて行ってやっても良い、どれだけの期間持ちこたえれるのかは分からないが、ここよりは安全だろう。
「避難所は危険だって父ちゃんが言ってた、逃げるなら山の方が良いって、ここで道具を揃えたら山に逃げるつもり」
「何で避難所が危ないって思うんだ」
「魔物が襲ってくる事なんて考慮してないから、駄目だって父ちゃん言ってたし俺もそう思う」
俺もその意見には賛成だ、警察や自衛官が重火器を使えないのなら尚更郊外に逃げるべきだろう。
「山登りの経験が有るのか」
「父ちゃんと一緒に何回か登った」
「そっか、俺は上堂直樹、俺も都心はヤバいと思って逃げてる最中だ。この店で装備を揃えたいんだけど構わないか」
「俺達にも道具を残してくれるなら。俺は鈴木覚、こっちは妹の佳代」
カーテンの後ろに隠していた妹も紹介してくれた、こっちが女連れなので気を許したんだろうな、俺1人ならもっと警戒されていただろう。
「イオナ適当な武器を選んで貰えないか」
「良いけど、ここに有る武器って魔物相手に出来るような物じゃ無いわよ」
そりゃあそうだ、剣鉈ってのは野山に入る時、背の高い草なんかを切り払う物らしい。
「それでも包丁よりはましだろ、長田はイオナに会う服を見繕ってくれ、俺は自分の服を確保するから」
俺が真っ先に手に入れた物はカバン、バックパックと言うのか、リュックサックで腰の部分も固定出来る物だ。カバンの中に俺のサイズに合う服を入れていく、アウトドアショップらしく、多少生地が厚い半袖も有るが長袖の物も頂いて行く。
「兄ちゃん達は何処に逃げるんだ」
「最終的には京都の山ん中だけど、とりあえずは八王子の大学に逃げるよ」
「何で大学?」
「農学部が有るから野菜が有るんだよ、それに俺とそっちの若い姉ちゃんがOBOGだからな」
「そうなんだ、あさの俺と妹を一緒にその八王子まで連れて行ってくれないか」
「別に構わないけど、妹を連れて行くなら車が必要になるぞ」
「うん、車ならここまで乗ってきたんだ、兄ちゃん運転出来る?」
「乗ってきたって、表に止まってたボロボロの車か」
「うん、運転なんて初めて当てまくってここまで来たんだけど、危なくてこれ以上運転出来ないから」
オートマなら中学生でも運転出来なくは無いが、よくもまあ乗ろうと思えた物だ、いくら非常事態とは言え、中々出来る事では無い。
「俺達と一緒に大学まで来るって事で良いか」
「見てみないと分からないけど、父ちゃんの山小屋が八王子の山の中に有るから」
覚の父親は山小屋を所有していたようだ、近くまでは車で行けて、駐車場から山小屋まで1時間程山歩きをしなければ到着出来ない場所に有るらしい。
「歩けるのか」
「背負ってでも行くつもりだった」
覚の瞳に嘘は無いように思えた、頭も良いのだと思うから薄々その計画が成功しない事を気づいて居たのでは無いだろうか。
「長田、佳代ちゃんの服も用意して上げて、覚君達も一緒に行く事のなったから」「判りました」
「あの、ありがとう御座います」
覚の頭を撫でて荷物をまとめるように伝えた。
「先輩缶詰とかどうします」
「一応持っていこうか」
車が使えると成れば持っていける荷物の量も増やせる、イオナと俺の2人ならバンバンイオナに収納してもらいのだがそうは行かない。
それでも4往復して車のラゲッジスペースは荷物で満載になった。
「よっしゃ行こうか」
見た目はボロボロになっていた車だったが、山登りが趣味の父親が乗っていただけ有って7人乗りのSUVで、走りに問題は無かった。放置車両の少なく、同時に魔物が居ない道を行くためかなり時間が掛かって居る。
「お兄ちゃんオシッコ」
「佳代ちょっと我慢してな」
「うん、我慢する」
トイレか、トイレな、無事そうな場所でトイレに入れそうってこの辺り何処かあったかな。
今は調布だから・・・国内最大手のオゾングループの東京配送センターが調布に有ったな、あそこは食品を扱って居ない配送センターだ、魔物が狙って来る事も無いだろう。
「10分でトイレに到着するから少し我慢してな」
「直樹兄ちゃんありがと」
配送センターは大分混乱した跡が見られる、トラックは乗り捨ててあったし、普段閉められて居る正門も開いている、従業員が残っているのかは謎だが、トイレくらいは貸してくれるだろう。
勝手知ったる他人の家とばかりに、車を倉庫の来客室の入り口に乗り付ける、ここにも商品を納入していた、以前は食品も取り扱って居たのだ。
「イオナ魔物って居そうかな」
「ここには居ないみたいね、中に人の気配も無いから魔物も寄って来ないんでしょうね」
「くっそ鍵が掛かってやがる」
来客用の出入り口には鍵が掛かっていた、倉庫の出入り口からぐるっと回って移動しないと駄目そうだ。
「あそこのトイレじゃ駄目なの?」
トラックの運転手用に作られた外部のトイレを指さして訪ねて来たが、あんな所魔物に襲われたら逃げられないし、立てこもる事も出来ない、出来るだけ安全を重視した方が良いだろう。
「こっちに着いて来て、少し暗いけど大丈夫だよな」
倉庫の出入り口は24時間開放されている、普段なら誰かしらが居るから問題にならないのだ、今は人っ子一人居ないが。
5人で固まって移動して、倉庫側から来客室に移動して長田に佳代をトイレに連れてってもらった、俺とイオナは倉庫を探索するつもりなので、覚には来客室で鍵を掛けて待っていてもらう事にした。
「あの俺何かお手伝いをしたいんですが」
来客室近くに給湯室は有ったがお湯は・・・ここガスだった、電気が来なくてもお湯ぐらいは沸かせるな。
「お湯を沸かして珈琲でも入れて置いてくれないか、俺達もトイレに行くつもりだし、そんなに長い時間探しものをするつもりは無いよ」
「判りました」
覚を残して倉庫に移動すると物色を開始する、俺はアウトドアショップから失敬した懐中電灯を使っていたが、エルフのイオナは夜目が利くらしく、暗闇の中をスイスイと移動していく。
「石鹸類は持っていきたいな」
「この石鹸は良いものよね、髪を洗ったらサラサラになるし」
「それはシャンプーな、細かい事は後だ、この辺りからこの辺りまで一気に収納しちゃって頂戴」
イオナに石鹸やタオルなんかを収納してもらっている、今は良いがいずれ日用品も不足して来る筈だ。
「トイレの紙もいっぱい欲しいな、収納出来るか」
「大丈夫よ」
紙や鉛筆、ボールペンなどの筆記道具、それに乾電池も大量に確保してもらった。
「ベットは無理そうか」
「この大きさだと台数が制限されるから、多くても6台ね」
シングルもダブルも台数は同じだったので、ダブルベットを6台収納してもらった。寝具コーナーでは布団も収納したもらったんだがやはり個数に制限がかかった、10セットの布団と毛布でいっぱいと言う事だ。
シーツなんかは無制限に幾らでも収納する事が出来た。
「これはランプなの」
「電球かな、消耗品だから数を確保して置きたい」
丸形のLED電球は有るだけ収納出来たが、直管のロングタイプは10本で限界に達した。
粗方必要そうな物は拝借して来客室に戻った、覚が入れてくれた珈琲を飲みながらこの先直近の行動を確認する。
「先輩どこかでお風呂に入れませんか」
「風呂?」
俺も入りたいと言えば入りたいのだが、大学に行けばどうにかなるんじゃ無いかと期待していた。
「どうして今なんだ」
「佳代ちゃんを洗ってあげたて、丸2日お風呂に入って無いみたいなので」
異変が置きたのは2日前だけど、タイミング的には2日間風呂に入れない事も有るか。
「温泉でも有れば良いけど、都内の温泉なんて大抵追い焚きして温めるから、電気が来てないと風呂は無理かも」
「あのヤカンでお湯沸くのを待って貰えるんなら、ここで身体だけ拭かせて貰います」
そっかプロパンガスなら電気が来て無くても使える場所は有るか、となると風呂に入れそうな場所は有るな。
「スマホって繋がってそうかな」
「駄目みたいです、それにそろそろ充電しないと」
「車の中で充電すればいいよ、ケーブルは有るから」
そうだ、ナビで検索すれば良いのか、アレはネットに繋がって無くても地図検索が出来る。トイレを済ませた後、車に戻って地域の公衆浴場を探す、その中でも運営を自治体がやっている場所を探し移動する。
公民館の建物内に風呂が有り、緊急事態と言う事で無料開放されていたが、道にはあふれる程の車が駐車されていた。
少し離れた場所に車を止めて、各自の着替えを出すと石鹸とシャンプーを持って公衆浴場に向かった。
「君等は何処から逃げて来たんだ」
「私は新宿です」
「少し話を聞かせて貰えないだろうか」
「先に風呂に入らせてもらっても良いですか」
「ああ、そうだね、ここは幸い地下水と電気はソーラーパネルが有るから、充分にお湯は使えるんだけど、1人10分までに制限させてもらっているから、そのつもりでお願いするよ」
公民館を仕切っていたのは地元自治会だったようだが、今は目の前に居る警察官が差配しているようだ。
男女に別れて風呂に入る、中に入っていたのは10人程の避難民だろう、誰も彼もが疲れて居た。
「あの直樹さん、ここって安全なんでしょうか」
「どうかな、あの化け物達の行動原理が判って無いから何とも言えないよ、ここに避難したいのかい」
「風呂に入ってる間に襲われないかって思って」
「魔物が来たら裸のまま逃げないとしょうがないよ、逃げる前に女風呂に乗り込んで、佳代ちゃんだけは助け出さないと行けないけど」
物騒な話を覚としていたら、風呂に入っていたおっさんが小さな声で話しかけて来た。
「君等何処方面から逃げて来たんや、わしは中央線の武蔵境駅から逃げて来たんやけど」
「俺は新宿から青山経由で表参道に出て、後は裏道を逃げ来て来た感じですかね」
関西訛りの強いおっさんも情報を求めて居たから、風呂の場で簡単に情報の交換を行った。
「避難所が有るんは皇居を中心にぐるっと一周って事かいな」
「多分、あの辺りは公園が多いんで、避難所が出来やすかったんだと思います。新宿方面は避けた方が良いですよ、後逃げる時に見かけたんですが原宿も駄目でしょうね」
向かっては居ないが六本木方面も魔物が跋扈しているのでは無かろうか、人の多い場所に魔物が集中しているのだと思える。
「電車は完全に止まっとるな、線路の歩いて逃げるのも辞めて置いた方がええで、もっと言うと駅には近寄らん方が吉やな」
現在地で有る公民館は、京王線の調布駅と中央線の武蔵境駅の中間付近に存在する。
一時的に避難するには向いているが、人口の多い地域だ、何時までも留まっては居ない方が良いだろう。
「逃げる場所に心当たりが有るんか」
「実家が福井と京都の間の街なんで、そこまで逃げ延びられたら」
「そうなんかわしの家は三重やねん、方向が大分と違うわな、おおきに兄ちゃん参考になったわ」
おっさんと別れた後、少し湯船に浸かって直ぐに出た、真新しい下着と着替えでリフレッシュすると、イオナ達が出てくるまで待った。
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