第4話「現状把握」
後輩の部屋は78階の最上階ペントハウスに有った、大学を出てまだ2年程の後輩が住めるような場所では無い。
長田の親父さんは国会議員で、娘の長田を自分の秘書として雇っているのだ、このマンションは親父さんの名義なのだろう。
「信じられません、彼女の家に女連れで現れるなんて」
「俺達って付き合ってたっけ?」
大学時代に彼女は居たがそれは長田では無い、長田とは精々一緒に映画を見に行ったくらいだ。
「一緒に映画を見に行って、ご飯まで食べたじゃ無いですか。結婚前なのに破廉恥です」
おうふ、箱入りだとは思っていたがここまでだったとは、毎年年賀状が来て、中元歳暮が届くから律儀な子だとは思っていたが、まさか脳内彼氏にされていたとは思いもしなかった。
「携帯繋がりませんよね」
「無理っぽいね、実家とも音信不通で、会社も潰れた事だし様子を見に帰ろうかと思ってたんだよ。東京は危なさそうだし」
「確かに東京危ないみたいですね、議員の先生方は小笠原に逃げるみたいですよ」
小笠原も一応東京都に属してたんじゃないのか、詳しい事は知らないが議員が逃げるなんて相当拙い事が起こってそうだ。
「長田は逃げないのか」
「うちは地元が神戸で、丁度父が地元に戻っていた時に騒ぎが起こったんですよ。秘書の私1人が貴重なチケットを手に入られる訳が無いじゃ無いですか。出来れば地元の神戸に戻りたいんです」
「ニュースってやってんの?」
「やってますよ一応」
点けっぱなしに成っているテレビからニュースが垂れ流されて居るが、悲惨な状況を伝えるだけで、原因や避難する場所の情報は流されて居なかった。
「何が起こっているのか、国は把握してるのか」
「原因は予想出来ているみたいですよ。アメリカの研究所で人工ブラックホールの実験をしてたみたいなんですけど、その実験を開始した直後、北米大陸が消えたんですって」
北米大陸が消えた?それってアメリカとカナダが無くなったって事か?
「アメリカ無くなったの?」
「衛星写真では消えてましたね、それはもうスッパリと、代わりに現れたのがなんか良く分からない大陸で、そこから次々とおかしな生き物が出て来てるらしいですよ」
アメリカから日本まで魔物が泳いでやって来たのか?そんな馬鹿な事あり得ないだろうに。
「怖い顔しないで下さい、世界に溢れてる生き物はアメリカから来た奴じゃ無いですよ。理由は判りませんが、北米大陸が消えると同時に世界各国に現れたみたいです」
魔物が溢れてるって話も気になるが、もっと問題なのはアメリカが地球から消えたって事だ。
世界の警察なんて呼ばれたのは一昔前だが、それでも影響力は世界で一番だった、アメリカが無くなれば暴発する国なんて1つや2つじゃ無いだろう。
「それって重しが外れた北が核を日本に向かって打って来ないか」
「そんな余裕は無いじゃ無いですか、北にも南にも中国にも等しく魔物が溢れてますもん」
規制の有る日本なら魔物の処分に手間取る事も判るけど、北や中国ならお構いなしに魔物を殲滅出来るのでは無いのだろうか。
「核兵器は無いにしたって、何で軍を使って魔物を一掃しないんだ、あっちの国だと法律とか人命だとか無関係に武器を使いそうだけど」
「重火器を使うと集まって来るんですって、より強い魔物が、戦車とか戦闘機も落とされたみたいです」
街中でも発砲音が聞こえたけど、大丈夫だったのだろうか。
「じゃあ肉弾戦で倒すしか無いのか」
「拳銃とかライフルなら大丈夫みたいですから、間引きはしてるそうです」
間引きね、あれか、重火器で倒しても経験値が得られない的は事は有るかも知れないな。
鉄砲やライフルは弓の延長で経験値が貰えるとか、だからと行って戦車や戦闘機が落とされる理由が分からないが。
「特に空は拙いみたいです。世界各国に民間航空機が空を飛んでたでんすが全て落とされちゃったみたいですよ」
「誰に?」
「ドラゴン的な奴に」
「7つの球を集める感じ?」
「どっちかって言うとクエストする感じなんじゃ無いんですかね、1匹や2匹じゃ無いみたいですし」
空がヤバいのなら海もヤバいんじゃないのか、小笠原に逃げ出すのは悪手のような気がしてきた。
「うち新宿なんだけど停電している理由って知ってる?」
「都内の3分の2は電気が送られて無いみたいですよ、送電線が倒されたんですって」
「それ復旧はされないのか」
「日本にいるドラゴンをどうにかしないと無理みたいですよ」
送電線を倒したのもドラゴンか、7つのボールを集めたら消えてくれないかな。
「国内線の航空機ってまだ飛んでるのか」
「自衛隊の最新鋭機も落とされたって話なので、国内の飛行機は飛んでませんね」
どっちにしろ俺の地元の近くに空港なんて無いけどな、地道に車で移動するしか無いのか。
「東京以外の状況は?」
「大阪もかなりの被害が出てるって話はニュースでやってましたけど、その他地域は判りません。でも四国は比較的安全みたいですよ」
四国に伝手は無いし、両親の事は心配だからな、1回は実家に帰らないと駄目だな。
「俺以外に誰か連絡ついた奴居ないのか」
「携帯は繋がりませんからね、私は直接国会まで歩いて行こうとしましたけど、途中で警察官に拾って貰わなかったら死んでたと思います。ですから誰とも連絡が取れてないですね」
携帯電話は完全に不通に成っているらしい、固定電話は運が良いと繋がるみたいだけど、俺も長田も固定電話を契約してなかった。
「大学に顔をだしてみるか、田舎だしワンチャン無事かも知れない、足りない食料の補給も出来たら良いんだけど」
倉庫で手に入れたのは加工された食材のみだ、生鮮食品も仕入れて置きたいから、大学で栽培されている野菜に目を着けた。
「私も一緒に行って良いですか」
「ここの方が安全じゃね」
「いつ電気と水が止まるのか判りませんからね、電気の止まったタワマンなんてどうする事も出来ませんよ、窓すら開かないですから」
うちの部屋はまだ窓が開く、同じ高層マンションの分類にされるが、その中でも低層階と高層階では分類がまた違うんだろうな。
俺達が通っていた大学は、東京とは名ばかりの八王子の山の中に有った。
一応八王子キャンパスの他にも世田谷にもキャンパスが有ったが、俺達はついぞ一度も世田谷キャンパスで授業を受ける事は無かった。
「そんじゃあ一緒に行くか」
「それで先輩、彼女は誰なんですか」
「一緒に逃げる事になったイオナさんだ、滋賀に居る彼氏に会いに行きたいらしい」
「そうなんですか、それは失礼しました」
言葉が通じないから適当に説明してみたが、長田は納得してくれたようだ。長田の手料理を御馳走になって、風呂に入らせて貰ってから寝室を借りる。
フロアー全体を借りているペントハウス、寝室は4つ有って全ての部屋にトイレが着いていた。
「一緒に寝ないの?」
「イオナと俺とが、それって誘われて居るのか」
「魔物に襲われた時、まとまって居る方が対処しやすいと思っただけだけど」
「子供を生む覚悟が有るのなら一緒に寝てくれ」
俺の冗談を軽く交わされて本題に入った。
「この国じゃあ私が異世界人だから、疎通の魔法を自分にかけようと思うの。その為にはこの国の言葉に精通している直樹の協力が必要なの」
「何をすれば良い?」
「おでこをくっつけてくれていれば良いわ、精霊の制御は私が行うから、出来れば精神を平常には保ってて欲しいかな」
一番最初、イオナが俺にやったようにおでこをくっつけてイオナが呪文を唱える、暫く時間が経過するとイオナがふーっと息を大きく吐いて、疎通の魔法は終わったらしい。
「もう日本語を理解出来たのか」
「多分ね、直樹は後3つ言葉を覚えて居たみたいね、英語とドイツ語とフランス語だったからしら。フランス語の方は私の国の言葉に近かったから使えるようになったと思う」
英語もドイツ語もフランス語も話せないんだが、どうしてだろうか、英語に関しては中学高校と学んできたから全く知らない訳では無い。
しかしドイツ語とフランス語なんて大学時代に少し学んだだけだ、カッコつけて第1外国語をドイツ語にして第2外国語をフランス語にした。
あんなあやふやな知識でも大丈夫って事なのだろうか、考えて居たら眠くなってかなり早い時間だが眠ってしまった。
「おはよう」
「先輩おはよう御座います、随分と早いですね」
「昨日は9時には寝たしな、長田も随分と早いな」
「ニュースを確認してたんですよ、今日はNHK以外全滅ですけど」
民放各局は放送を打ち切ったようだ、自分達の命が惜しくなって逃げたのだろう、正しい判断だと思う。
「それで何か判ったのか」
「火力発電を完全に止めるみたいで、関東全域で停電するようです」
火力発電が止まったら動いているのは原子炉か、水力発電って事になる、太陽光発電なんて安定電源が無ければ送電する事は出来ない。
「それっていつ?」
「早けば今直ぐにでも」
「急いで飯食って出かけよう、階段で降りるには高すぎだろここ」
「そうですね」
朝食は長田が購入していた調理パンとインスタントのスープだった、ベジタリアンのイオナでも食べられる物が有って一安心した。
「イオナさんってヴィーガンなんですか」
「いいえ私はただの菜食主義です、体質的に肉や魚が合わないだけなので、動物の利用には反対していません」
転写された知識の中にそう云う部分も含まれて居たのだろう、かなり上手に日本語を操って居るように感じられる。
朝食を取り終えると荷造りをしてからマンションを出た、荷物の大半は長田の着替えだ、俺自信の着替えも必要だし、イオナも日本に馴染む服装も持っていた方が良いだろう。
「どこかで着替えと武器が手に入らないかな、こんな出刃包丁を括り付けた槍なんて直ぐに壊れそうだし」
「登山用品を扱ってる所なんてどうですか、剣鉈とかナイフを扱ってますよ」
最近流行りのソロキャンプと登山か、確かにナイフとか持っていっているイメージが有る、まだ略奪されずに残っているだろうか。
「知ってる店どこかに有るの?」
「私は山登りには興味が無いんですが、父が山岳部だったので、個人でやられて居るショップなら表参道に有りますよ」
青山から表参道か、少し距離が有る、レベルの上がった俺は大丈夫だしイオナなんてその道のプロだ、問題は長田なのだが歩いて行けると自信タップリに言うので歩いて移動する事にした。
青山のマンションから神宮の公園内を通って移動し、千駄ヶ谷の狭い道を移動する。
大きな道路は放置車両がいっぱいで危険が大きすぎる、狭い道だからと言って安全な訳では全く無く、途中2度の戦闘が有った。
「先輩凄いです、私感動しました」
精霊魔法の援護が有るとは言え、長田の存在が有るので派手な魔法は使えない、俺が先頭にたって戦うしか無いのだ。
「そろそろ表参道だけどまだ遠いのか」
明治神宮の敷地内を移動しながら長田に確認する、マンションや小規模なビルが立ち並ぶ光景が広がっている。
「あのボロボロの自動車が止まってる辺りです」
「襲撃されたのかな」
車は狭い道を通せんぼする形で止まっている、フロント部分は酷い破損の跡が残っていた、まだ新しい傷のようだから魔物に襲われたのかも知れない。
明治神宮を抜け、目的のビルに到着する、ボロボロの車を横目にビルに入ると目的のショップが入っている3階に階段で移動した。
「まだ電気は来てるな」
「信号機が点灯してますからね」
ビル内に電気が来ているのかは分からない、ショップにセキュリティーが入って無い事を祈ろう。
「鍵が開いてるな」
「中に人が居るわよ」
イオナの忠告で中に入る事をためらう、イオナは魔物とは言わずに人と言った、無理に入らず引き返す事も考えたが、覚悟を決めて中に入る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます