第6話 悪魔のアイデア
「カイトっ!」
ギルドに戻ったわたしは、大人の冒険者たちとテーブルを囲んでいるカイトを見つけて、手を振った。
「リリム、ちょっと待って──」
管理人のお姉さんが、カウンターの中から何か言おうとした。
だが、わたしはもう、カイトたちのいるテーブルに向かって駆け出していた。
「カイトっ、レベル80になったよね? ボクもレベル91になったんだよ!」
「……」
無言のカイトに〈審美眼〉を向けると、レベル82になっている。
スキルにも〈念話〉といった実用スキルや〈電雷〉、〈氷結〉など、以前にはなかったマジックスキルが増えていた。
「やったね! これで、ボクと一緒に〈卒業クエスト〉に──」
「この子が、あなたの
テーブルを囲むひとり、魔導士の服を来た女性が、思いがけないことを言った。
「え……いま、なんて……」
「あんたのおかげで、俺たちもずいぶん、
モヒカン頭の戦士が、ニヤリとしてわたしを見た。
メガネをかけた貴族風の若者が、わざとらしく溜め息をついて言った。
「まったく……カイトの悪魔的な発想には、
「パーティー……メンバー……?」
魔導士の女性が、下品に舌なめずりをしながら、あざけるように私を見た。
「やっぱり、なんにも気づいてなかったのねぇ──。かわいそうだから教えてあげる。ギルドで組めるパーティーの上限人数は、4人なの。メンバーは、パーティーリーダーが自由に変更することができる……あんたはカイトだけに尽くしているつもりだったかもしれないけど、稼いだ経験値やスキルは、わたしたち3人がローテーションしながら、
「どうして……そんなこと……」
「そりゃあ、俺たちみんなで、シャトーナの王都に行くためさ」
モヒカン頭の戦士が、酒臭い息を吐きながら、ゲラゲラと笑った。
「シャトーナ王国の冒険者ギルドは、最高レベルのギルドだ。受注できるクエストの参加条件も厳しい。まず、フルメンバーの4人パーティーを組んでいること。そして、全員のレベルが80以上であること。いまは、俺たち4人でパーティーを組んだ状態さ。嬢ちゃんは、俺たちが条件を満たすための
「踏み台──」
貴族風の若者が、肩をすくめた。
「そして極めつけは──王都屈指の冒険者カンパニーに加入する道筋も、あなたがつけてくれたんですよ。カンパニーに加入するには、預託金が必要だ。名門カンパニー〈
「400万……ボクが稼いだ報酬じゃ、そんな金額はとても──」
「だから……売った」
はじめて、カイトが口を開いた。
「売ったって、何を──」
「
──何……を……言ってるの……。
わたしが絶句していると、隣のテーブルに座っていた商人風の男が、ホクホク顔で立ち上がった。
「買わせていただきましたぁ、はぃ。ちょうど、いい出物はないかと、
「ぼっ、ボクは、売り物じゃ、ありません! ひとを売り買いするなんて、そんなこと、許されるはずがないでしょ!」
「おや、これは異なことをおっしゃる。あなた、
「──!」
「テイミングしたモンスターの取引なんて、珍しくもない。立派な
「ボクはカイトの所有物じゃありません!」
「ほほう? では、カイトさんが用意してくれた、この書面はなんでしょうね?」
商人は、わたしに書類を掲げてみせる。
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私、カイト・グラドスは、下記の通り、人外を保有していることを申告する。
市場都市マシャンテ行政府におかれては、都市環境保全法第24条第5項の定める駆除対象から、当該人外を除外し、その飼育と生存を認められたい。
当該人外: リリム
種族: ガイド・フェアリー
特記すべきスキル: ……
上記申告を了とする。マシャンテ行政府
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「公的な書類上、あなたはカイトさんの
「ボクが……ペット……」
「いやぁ、わたしもね、知性のあるモンスターの取引では、いつも泣かされますよ。お互い、情も湧くでしょう。出会いと別れ、一期一会ってね。まあ、それでも新しいご主人さまに
──何よ……これ……どういう……こと……。
転生して、わけもわからぬまま、ガイド・フェアリーになった。初心者たちは冷たかったけど、精一杯、笑顔で応援してきたはずだった。ガイド・フェアリーは、剣と魔法の冒険の旅に、初心者たちを送り出す、名誉ある仕事だとすら思っていた。
それなのに──なんで、わたし、ペットとして売り飛ばされることになってるの──。
わたしは、混乱したまま、〈飛翔〉した。
ここには、いられない。いてはいけない。
出口を目指して、羽をはばたかせて──。
ヒュッ
空を切る音。わたしの首に、投げ縄の輪が巻きつく。
「ゴボッ」
喉から、むせたような妙な音が出て、わたしは墜落した。管理人のお姉さんが、リリムと叫びながらカウンターから飛び出してきた。
「手出し無用ですよっ!」
商人の威圧的な声がする。
朦朧としたわたしの視界に、ゆっくりと近づいてくる大きな男の影が映った。商人の横に座っていた、屈強なハンター──。
「〈麻痺〉」
無感情な声でハンターがつぶやくと、わたしの身体は全身が痺れが切れたようにジンジンとして、身動きが取れなくなった。
ハンターは、そのままひょいとわたしを仰向けに肩に担ぎ上げると、のしのしとギルドを出ていく。
グラリグラリとハンターの背に揺さぶられながら、わたしの目には遠くなっていくカイトの小さな姿が映っていた──
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