変容の遥かへ

@KaarinErika

夢の心

その時彼は、無呼吸の花を見た。


「これは、蟲か?」


女性の声がする。


──いいえ、それは鳥ですよ。


「鳥?ほう。名は何と言うのだ?」


再び声。


──キウイ、と言うのですよ。


「キウイ?さてはフルーツじゃあるまいな?」


そして声。


──かもしれませんね?


再び、男が目をやると、それは確かにまん丸のキウイになっていた


「おい、あんまりポンポン変えないでくれ。困惑するじゃないか。」


再び、声。


──そうですね。

でもそれは、貴方の心なのですよ?


「何だって?」


男がその声に振り返る。その先は闇であった。


そして、声の主たる女性はいなかった。



男が呟く。


「そうか、そうなのか。そうだったな。」


男が呟く。今度は小さく。


「立つときなのか。」


男が呟く。今度は大きく。


「それじゃ、私は行くよ。」



そうして闇から振り返り、目の前にある──今度はビオラになった己の心を、手に取った。


今度は振り返りもせず、それを後ろに投げる。



そして呟く。今度は彼女にも聞こえるように。



「あばよ、さよならだ。」



男は歩き、男は歩き、


やがて男は、光に消えた。


仄暗く差す、影を後にして。

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