第13話 脱獄 残り3人

 12月1日

 敬宮愛子内親王が20歳の誕生日を迎え、成人となる。

 相道夏美は兜森女子刑務所に服役していた。

 同刑務所内には元アイドルの名取真琴なとりまこともいた。兜森中卒業後、渋谷でブラブラしていたところスカウトされて芸能界入りした。

 10月に交際相手の男の自宅で、微量の覚醒剤を共同で所持した疑いで覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕された。所持量がわずかだったため所持容疑は起訴猶予処分となったが、尿検査で陽性反応があり、「すすきののクラブで知り合いの外国人女性に勧められて、店内で吸引した」と供述したため、同法違反(使用)容疑で追送検され、起訴された。


 真琴は被告人質問で、覚醒剤を始めた経緯を「付き合っていた男性に強要された。断ると暴力を振るわれた」と語り、また、今回の使用については「すすきののクラブで外国人の女性に誘われた。酔っぱらった勢いで使った。仕事を解雇され、いろいろな負い目があった」と涙ながらに語った。


 そんなことはどうでも良かった。どうやって花房史帆はなふさしほを殺すか?そればかりを考えた。史帆は保険金目当てで父の相道孝則あいどうたかのりを殺した。

 孝則は妻を早くに病気で亡くし、愛に飢えていた。史帆は孝則に対して、『過労死作戦』や『成人病作戦』などと称して、長期にわたって多量のアルコールを飲酒させたり、睡眠不足となるよう仕向けたり、さらには、少量のトリカブトを孝則の好物の饅頭やどら焼きに混ぜて一定期間継続的に摂取させていた。しかし、一向に孝則が衰弱する様子がなかったため、致死量を超えるトリカブトが入ったあんパンを食べさせて殺害。その後、釧路川で水死体で発見。保険金3億円が偽装結婚相手の史帆に払われた。史帆はホステスをしていたらしく、歌が上手だったと父はよく言っていた。

 奇遇にも名取真琴の『愛に飢えたピンクのけだもの』をよく歌ってたらしい。史帆は岡山出身って父は言っていた。

 兜森女子刑務所にはさらなる大物がいた。

 猫田椿ねこたつばきは元服飾デザイナーだ。

 経済事件を起こした社長の奥さんであることは分かってるが、世間知らずの夏美はどんな事件だったのかは忘れていた。

 

 太はテロリスト『ブルース』のメンバーになった。中国を潰す計画を立てた。

「仕事に困ってる奴らを中国に集めて、奴らを殺す」

 藤原雅志ふじわらまさしは酒造メーカーで働いていたがコロナのせいで解雇された。金色のマスクをしてる。

 ボスは陣内征志郎じんないせいしろう。陣内は札幌に拠点を置く、北竜会ほくりゅうかいのボスだ。黒色のマスクをしてる。

「チャイニーズのせいでうちの店は商売上がったりだ」

 風俗店や飲食店、陣内の支配下が次々に潰れた。

「高階、武器の準備は?」

 高階隆三たかしなりゅうぞうは北竜会の若頭だ。紫色のネクタイが鮮やかだ。マスクまで紫だ。

「最新式のグレネードランチャーを取り寄せました」

 高階は探偵事務所を経営してる。高階の調べで三重に蒲生がいることが明らかになった。  


 12月4日

 太は三重県鈴鹿市にやって来た。

 古くは日本書紀に市内の地名の由来伝説が登場し、奈良時代には東海道、伊勢国の国府が置かれたなどの長い歴史を持つ。第二次世界大戦中に鈴鹿海軍工廠が開かれて以後、工業都市として生まれ変わった。かつては旭化成やカネボウなど繊維産業が盛んだった。また、本田技研工業の鈴鹿製作所があり、関連の自動車部品工場なども多くみられる。


 F1の日本グランプリやオートバイの8時間耐久レースなど国際及び国内レースなどが多数開催され、世界的にも有名な日本有数のレーシングコースである鈴鹿サーキットがあり、近年では日本のモータースポーツの聖地とも言われる。


 太はあのブラックな塾での出来事を思い出した。教材を、研修期間の1ヶ月で、20件売らないと解雇というノルマを課せられた。確か、ハローウィンのときだった。塾は函館にあり、函館市内を歩き回った。午後1時始業の会社だったので、夜遅くまで働いた。丸坊主の父親から塩を投げつけられたこともあった。その家にはカボチャのお化けのランタンが飾られていた。🎃

 結局、1件も売れずにお払い箱となった。

 三重県の北部に位置し、東は伊勢湾に面し西は鈴鹿山脈まで広がっている。市域の北は三重県最大の都市四日市市、南は三重県の県庁所在地津市に接している。

 現在の鈴鹿市の領域は、飛鳥時代から東国に通じる交通の要衝として発展し、中心部の神戸藩かんべはんと、伊勢亀山藩、紀州藩、伊勢西条藩の各藩が存在していた。戦国時代には神戸城へ織田信長の三男・神戸信孝を養子に迎え、江戸時代には東海道の宿場町として石薬師宿と庄野宿を擁し、白子しろこは港町および伊勢参宮街道の宿場町として栄えた。戦前から戦時中の工廠建設によって、広域合併をして発足。「鈴鹿」の市名を持つが、旧河芸郡の地域が市の中核だった。

 

 蒲生はブラックな塾のボス時代に、宝くじで大当たりし、その金で宿を経営してる。たまに旅番組に出たりしてる。

 コロナ禍でも客足は遠のかないという。

「三重に旅行に来られるってことは順調なんだろうな?」

 太はスマホの向こうにいる高階に語りかけた。

《うん。伊勢海老買ってきてよ?ボスが楽しみにしてるから》

 高階は67歳、どことなく亡くなった萩原健一はぎわらけんいちに似ていた。『傷だらけの天使』や『太陽にほえろ!』に出ていた。マカロニ刑事は当たり役だった。

 陣内は78歳、千葉真一ちばしんいちに似てる。『戦国自衛隊』ではヘリにラペリングしながら銃を撃つ姿が印象的だ。藤原は長身長髪、34歳だ。

 昼過ぎに鈴鹿サーキットにやって来た。

 蒲生の姿もあった。

 国際レーシングコースを中心としたレジャー施設。F1日本グランプリや鈴鹿8時間耐久ロードレースなどの開催で知られる事から日本モータースポーツファンの聖地でもある。レーシングコースの他に遊園地やホテル等があり、モビリティリゾート(自動車を題材とする行楽地)を形成している。

 たくさんの観光客がいる。こんなところで殺したら目立ってしまう。整形するのだってタダじゃない。派手なことやったら、横浜流星みたいな顔とオサラバになる。

 日本初の全面舗装と観客席の両方を備えたサーキットとして、1962年に本田技研工業(ホンダ)によって建設された。現在はホンダグループでモータースポーツ関連施設を運営する会社、モビリティランドによって運営されている。

 コースは東西に細長く、中間部分の立体交差を挟んで右回りと左回りが入れ替わる、世界的にも珍しい8の字形のレイアウトとなっている。コース全長は4輪で5.807km、2輪で5.821km。これは日本のサーキットの中でも最長である。コース幅は10 - 16m。コーナー数は20。最大高低差は52m。世界の多くのサーキットと比べ摩擦係数の高いアスファルト舗装である。🏁🏎

 レースを見終え、蒲生は白鳥塚古墳しらとりづかこふんにやって来た。鈴鹿市内にある、7基から成る白鳥塚古墳群の主墳。

 ヤマトタケルの白鳥伝説から、白鳥塚と呼ばれた。異名に、ヒヨドリ塚、茶臼山、丸山など。

本居宣長もとおりのりなが平田篤胤ひらたあつたねら江戸時代後期の国学者の多くが、白鳥塚を古事記にあるヤマトタケルの能褒野のぼの陵墓として最有力視した。

 蒲生は夜遅く廃校にやって来た。

 頭が老婆で体がウサギという外見の妖怪が現れた。蒲生と目が合うと蒲生を追いかけた。蒲生は昇降口から校内に入り、1階を彷徨った。

 太は真っ暗な教室の前に立ちはだかった。

「助けてくれ!警備員か何か?」

 太は斧で蒲生をズタズタにして殺した。

「ギャーッ!」

 運の悪いことに蛍が校内に入って来た。

 蛍と目が合うなりウサギババァは壁に入り込み、異世界へと戻った。

 一瞬、蛍を殺そうかと思ったが彼女がいると妖怪が逃げるというメリットがあった。

「こんな夜遅くに何の様だ?」

 太が言うと、蛍は慌てふためいた。

「ホラー小説を書くために取材をしてるの」 

「スマホをよこせ」 

 蛍は太の全身から放たれる凶気に観念したのか、スマホをウェストポーチから出した。

 太はカメラのアイコンを押してフォトを見た。

 ミンチになった蒲生の死体が映っている。が、ウサギの怪物は映っていない。

「ウサギの怪物を見なかったか?」

「うん、見たよ」

「コイツには映っていない」

 太はフォトを消去した。

「色々とまずいんでな?」

「せっかく撮ったのに」

「警察から疑われるぞ」

「何でもするから殺さないで?」

「警察に言ったりしたら殺す」

 太は自分って冷徹だな?と、虚しくなった。かつて愛していた人間に言うセリフか?

 

 蛍は予約していたホテルをキャンセルした。

 蛍が泊まろうとしてたのは鈴鹿さつき温泉っていう鈴鹿市内にある温泉宿で、そこそこ有名だ。

 太は市内にあるカプセルホテルだ。

 安いが他人のイビキに苛まれる可能性があった。

 ホテルの近くでアクロバティックサラサラって怪物に襲われた。

 赤い服、赤い帽子を着た200cm程度の女、髪はメチャクチャ長くサラサラしている。左腕に多数の切り傷がある。眼孔に眼球がなく黒く染まってる。

 アクロバティックサラサラは2階建ての屋根の上に立っている。屋根から飛び降り、地面にぶつかる寸前で姿を消した。

「怖かった〜。アクロバティックサラサラはね?目撃しただけでも近い内に事故を起こしたりするの。確か、福島の怪物だったはず」

 蛍が教えてくれた。

「蒲生も福島出身だった」


 12月5日

 深夜2時、兜森刑務所から女囚が逃げ出した。その中には猫田椿もいた様だ。

 椿は『金輪かなわ』の宣伝部長の陣内征志郎の愛人だった。陣内が『金輪』の社長に就任した2010年以降、椿の会社『バビロン交易』は『金輪』の大口納入業者となった。これにより多額の取引手数料を手にしたほか、陣内の社内人事にも介入するようになり、椿は『金輪の女帝』と呼ばれた。しかし2012年に『金輪事件』によって陣内が社長を解任され、椿は金輪社内への影響力を失った。その後は函館に『プラチナマカロン』を設立し、自社ビルでアートフラワーの販売を続けた。


ここから先、敬礼はうろ覚えだ。陣内が社長を解任された翌月、『金輪』に約18億円の損害を与えたとして陣内とともに逮捕され、特別背任罪と所得税法違反の容疑で起訴された。最高裁判所まで争ったが、最高裁で上告が棄却され、兜森刑務所に収監された。

 陣内の仕業じゃないか?と、敬礼は病室で思った。敬礼は盲腸で兜森病院に入院していた。


 看守の青木秀子あおきひでこが壁をC4爆弾で爆破したお陰で、夏美、史帆、真琴、椿の4人は脱獄することに成功した。

 刑務所の外は酷い雪だった。

 秀子の運転するジープで山道を疾駆した。夏冬兼用のタイヤらしい。 

「私たちを逃してどういうつもり?」

 助手席の夏美は言った。

「『金輪』って知ってるか?」と、秀子は夏美に聞いた。

「百貨店でしょ?最近は苦境に立たされてるらしいけど」

「私の父は『金輪』に殺されんだ。アンタも覚悟しなよ?」

 秀子の父親は陣内の秘書をしていたが、悪事の濡れ衣を着せられて刑務所で首を吊って死んだ。

 秀子はバックミラー越しに白髪頭の椿を睨みつけた。  

「まさか、猫田さんをリンチしようっての?」

 椿と真琴に挟まれてる史帆が言った。史帆は心の内で故郷の岡山に帰りたいと願っていた。後楽園や繁華街の田町、岡山城などで有名だ。また、岡山は日本一晴れの日が多い。

 反省してる様子なんか見られない。夏美はメチャクチャ残忍な方法で殺そうと決めた。

「すみません、すみません、すみません」

 椿は精神的に相当参ってるらしい、顔が真っ青だ。50歳って噂だが70の老婆みたいだ。

 夏美の脳裏にみんなで床に転がった椿を蹴ってるシーンが浮かび上がる。

 何の為に秋鹿の身代わりになんかなったのだ?

 父の孝則は不器用な人間だったが、祭の日は金魚すくいをやらせてくれたり、学校でイジメられてると教師に向かって『子供守れないんなら先生なんか辞めちまえ!』と啖呵を切ったりカッコいい一面もあった。

「看守さん、いろいろと大変でしたね?」

 椿と史帆を殺したら間違いなく死刑になる。絞首刑って苦しいんだろうな?夏美は秀子を必死で説得した。

「世の中確かに酷いですよね?私なんて何の罪もない父親を殺されたんです。とても優しい父でした。看守さんのお父さんもきっと優しかったんでしょう?」

「厳しかったわ。気に食わないことがあるとよく殴ってきた」

 ジープはトンネルを潜った。

 押し黙っていた真琴がスマホを出してボタンを押した。ジープが潜り抜けると、トンネルは落盤した。秀子はトンネル内にもC4爆弾を仕掛けておいた。自衛隊から横流しされたものを秀子が闇のマーケットから買った。

 第二次世界大戦中にアメリカ軍が開発。名称のプラスチックとは合成樹脂のことではなく原義の「可塑性」を意味し、粘土のように容易に変形できることが特徴である。


 小分けや変形により爆発のコントロールが容易であることから、周囲に影響を与えずに限定された対象を爆破する目的に適しており、主に既存構築物の破壊のために使用される。壁に円形に配置して爆破させて穴を開けたり、柱に孔を開けて爆薬を仕込んで爆破して切断するなどの方法が取られる。


 迅速な陣地構築の必要がある工兵にとって不可欠な装備であり、近年では武装勢力による自爆テロなどに多用される。また民間でも建築物の爆破解体に用いられる。

 

 山道を上がり切ったところに小屋があった。

「金ならいくらでも払う」と、椿は土下座した。

「金で何でも解決できると思うな」

 秀子は吐き捨てるように言った。

 史帆は小屋の奥でスコップを見つけた。

 史帆はスコップを振り回して夏美に襲いかかってきた。

「死ねぇっ!おまえ、父親を殺されたことがそんなに憎いか!?ええっー!?女に現なんか抜かすからだよ!」  

 パンッ!乾いた銃声が響いた。

 史帆は胸の真ん中を撃たれ、苦しそうに片膝を着いた。

 刑務所内にも武器庫はあるが、警備隊の人間じゃないと持ち出しが出来ないので、闇のマーケットからオートマグを買った。

 回転式拳銃にマグナム弾薬が使用される製品ができた事に対し、オートマグ・コーポレーションは、当時の新技術だったステンレス鋼を使用する事でマグナム弾の使用に耐え、メンテナンスもしやすくなる事を目指した。


 ボルトの閉鎖機構には、自動小銃で用いるような『ターン・ボルト・ロッキング・システム』を採り入れ、閉鎖不良を回避するためのボルトアクセロレータも取り付けられている。ステンレスモデルのみの発売であり、大型のレシーバー一体型銃身は上部にリブが設けられ、大型のクーリングホールが開けられている。使用実包は.44AMP。


 自動拳銃の利点である装弾数や反動軽減、発射ガスの利用効率の良さなどから、当時世界最強の拳銃とされていたS&W M29を超えるとの期待もあって、先行予約では8,000丁の受注があったとされる。 しかし、さまざまな欠点により『オートジャム(作動不良)』という蔑称が生まれ、商業的には失敗し、AM社は1年余りで倒産した。

「安くてよかった」

 人を撃ってるってのに、大した度胸だと夏美は思った。

「安物買いの銭失いってよく言うぞ」

 琴美が秀子にツッコミを入れた。滑稽な光景だと夏美は思った。

 

 北海道に戻って来た太と蛍は兜森にやって来た。

 ホテルに泊まった。蛍はコロナが怖いからとエッチを拒んだ。

 明け方、太がトイレに起きると奇妙な動物が床に座っていた。「ウワーッ!!」

 太の悲鳴に蛍が起きて、「どしたの!?」と入って来た。「キャーッ、カワイイ。タヌキだ〜」

 タヌキより少し大き目だ。

「君、どーゆー神経してるの?」

 タヌキは壁に入り込んで消えた。

草刈くさかり君こそ、爪切ったのはいいけど、ちゃんとティッシュに包んで!」

 草刈太、それが新しい名前だ。

「あ〜ゴメン」

 それにしても、窓が開いてるわけじゃないのに、どうやって入ったんだ?

 あのタヌキはナベソコって妖怪で、一般的な憑きもの筋と同様、このナベソコ狸を飼っていると裕福になるとされているため、ナベソコは金持ちの家に多いといわれている。こうした家では、正月になると家の主が裃を身につけてナベソコ狸を迎えるのだという。


 同じく岡山の美作地方にはトマッコ狸(トマッコダヌキ)という、人家に富をもたらす憑き物があり、これも一般のタヌキと異なり体長5寸、胴が黒く、尾が茶色で、額に白い斑点があるなどといわれるが、ナベソコ狸はこのトマッコ狸の変種との説もある。

 パトカーや救急車のサイレンの音がする。

 テレビを点けたらニュースをやってた。すぐ近くの女子刑務所から4人の囚人が脱獄し、トンネルを爆破したらしい。

 

 12月8日 - 実業家の前澤友作と平野陽三がロシアのソユーズMS-20で宇宙飛行。日本の民間人として初のISS滞在となる予定。


 午後9時、鈴鹿市にある廃校で垣谷耕史かきたにこうじって少年は血を発見した。

 市内にある高校に通う耕史だったが、学校の奴らとは趣味が合わなかった。父親がコロナになり、感染を恐れて廃校に住んでいた。

 血は1年4組の教室の前に垂れていた。

 もしかしたら、犯人がこっちに戻ってくるかも知れない。逃げないと!

 いや、廃校の外に出る方があぶないか?耕史は複雑な気持ちでいた。

 尿意を催し、男子トイレの前にやって来た。

 不意に背後に気配を感じて振り返ると白い着物を着た白髪の老婆が立っていた。腰から下の力が抜け、耕史は座り込んでしまった。動けずにもがいている間にも老婆は近づいてくる。老婆の顔は真っ赤な口が耳元まで裂けていた。

 耕史はそのまま気を失った。


 12月9日

 目を覚ますと朝になっており、スズメが囀っている。あの鬼は悪い人間の魂しか吸い取らない、善悪の区別のつく鬼だったようだ。

 耕史はどこに逃げるべきか模索した。

        ⛄

 札幌は石狩平野の南西部に位置し、面積は1,121.26 km2で香港とほぼ同じ面積を有している。距離は東西42.30キロメートル(km)南北45.40 kmにわたって市域が広がっている。平坦な中心部などは豊平川が形成した扇状地である。

 市南西部は山岳地帯で、一部は支笏洞爺国立公園に指定されている。

 札幌駅前のアパートで太は朝食後のコーヒーを楽しんでいた。☕ブレンディの粉末をカップに入れて薬缶のお湯を注いだ。太の元に藤原雅志から殺人事件が発生したとのLINEが届き、太は蛍を連れて愛車のトヨタ・ピクシスで現場に向かう。

 

 狸商店街は活気を取り戻しつつあった。

 狸小路は南2条と南3条の中通であり、道路名は「市道南2・3条中通線」。創成川河畔の西1丁目から西10丁目まである横長の街区になっている。「札幌狸小路商店街振興組合」に加盟しているのは西1丁目から西7丁目までのアーケード(全蓋式、国道36号部分は除く)がある区域であり、総延長約900メートル (m)、店舗数約200軒の北海道で歴史ある商店街の一つになっている。狸小路商店街は新しいものを積極的に採り入れており、札幌市に初めて電話交換局が設置された際にすぐ電話を設置したのが狸小路の商人であったほか、札幌市でラジオやテレビの放送が始まるとすぐに宣伝広告(コマーシャルメッセージ)を行い、商店街としていち早くインターネットを活用し、光ファイバーや無線LANによる商店街LANを構築している。24時間歩行者専用になっており、許可を得た車両以外の通行を禁止している。

 

 そこは陣内の住んでる邸宅だった。中に入ってみたところ死体を発見したのである。殺されていたのは立派な服装の中年男で、紛れもなく陣内征志郎だった。陣内はソファで仰向けになって事切れていた。

「高階さんから来るのが遅いから、行って来いって言われて来たらこの有様だ」

 室内は冷え切っていて、蛍は暖房を思わずつけようとした。

「指紋を残すな、疑われるぞ」と、キツい口調で藤原が言った。

 3人はそれぞれ手袋と持参したスリッパを着用していた。指紋とゲソ痕(足の裏の指紋)を残さない為だ。

 太は、テーブルに置かれてあるスマホを調べたらLINEメールが表示されていた。陣内は高階にメールを送ろうとしていたらしい。『中臣なかとみに殺される。』とあった。 

「中臣って草刈、おまえ知ってるか?」と、藤原。

「そんな人いましたっけ?」

 さらに床には女物の結婚指輪が落ちていた。💍

 太は綿密な現場検証をして、陣内が毒殺されたことや、第1発見者の藤原に事情聴取をして組の事務所に戻ろうとした、邸宅を出ると女性の生首が踊っていた。

「首だ〜!首だ〜!」

 太は叫んだ。

「どうしたんだ?」

 藤原には見えていないらしい。霊感がないのかも知れない。

「さては!クサガリ、おめぇーがやっだのか?」

 草刈なのだが、訛ってるからクサガリになる。

「そっちの首じゃないです。そっ、そこに女の生首が!見えないんですか?」と、蛍。

 女の首は蛍と目が合うなり忽然と姿を消した。

「おまえら変な薬やってねーよな?」

 藤原は屁をしながら言った。

 太は妖怪について詳しかった。

 冥界にはぬらりひょんとか塗り壁とかがいた。

 江戸時代の怪談や随筆などの古書には、巨大な女の生首が現れたという事例が多数あり、ほとんどは女性で、既婚女性の証としてお歯黒を付けていることが特徴である。それらの正体は、人間の怨霊や執念が妖怪と化したもの、あるいはキツネやタヌキが化けたものといわれている。

 山口県岩国の怪談集『岩邑怪談録』には「古城の化物の事」と題し、ある女が御城山という山で一丈(約3メートル)の女の生首に遭い、にこにこと笑いかけられたとある。

「そう言えば、陣内さんって山口出身でしたよね?」

 太は藤原に問いかけた。

「もしかしたら、親父、女を殺めちまったのかな?見えるんならドスで殺してくれ」

 藤原は茶色いカバンに手を伸ばそうとした。

 こんなところでドスなんて振り回したらすぐに警察が来る、藤原ってのは知能が低いんだな?と、太は蔑んだ目で見た。

「妖怪ならもういません」

 蛍が言うと、藤原は手を引っ込めた。

 

 事務所に戻った太は現場の状況を高階に説明した。

「中臣かぁ、そんな奴聞いたことねぇな。中野だったら昔いたけど、破門した」

 ヤクザ世界における懲罰の一つで、『絶縁』に次いで重い処罰。組に対する迷惑に対してなされ、組は破門した旨を義理回状により、関係の組に通知する。この義理回状(破門状)を受けた組織は、破門をされた者を客分としたり、結縁したり、商談、交際など一切のことについて相手としたりしてはならないこととされ、これを破ることは敵対行為とみなされる。


 なお、組長個人が破門処分を受けることで、その組長が率いている組全体が破門されたとみなされることもある。

「理由は?」

 太は腹が減ったのか、グ〜って音を立てた。

「親父が嫌いな海老を土産に贈ってきたからだ」

「陣内さん、海老なんか嫌いでしたっけ?伊勢海老美味そうに食べてましたよ」

「陣内さんじゃなくて、先代の親父」

 高階は先代に嫌われていたらしく、後釜に陣内を据えたと藤原から教わった。

「もしかしたら、中臣ってのは藤原のことかも知れないな?」

 高階が鋭い眼光で藤原を睨んだ。

「おっ、俺、何にもしてないんですよ!」

「カシラ、何故藤原さんだと?」

中臣鎌足なかとみのかまたりって知ってるか?」

「あ〜、歴史の授業で昔習いましたね〜」

「中臣鎌足の別名は藤原鎌足ふじわらのかまたりだ」

 鎌足の出生地は『藤氏家伝』によると大和国高市郡藤原(奈良県橿原市) 。また大和国大原(現在の奈良県明日香村)や常陸国鹿島(茨城県鹿嶋市)とする説(『大鏡』)もある。


 早くから中国の史書に関心を持ち、『六韜』を暗記した。隋・唐に遣唐使として留学していた南淵請安が塾を開くとそこで儒教を学び、蘇我入鹿とともに秀才とされた。『日本書紀』によると644年(皇極天皇3年)に中臣氏の家業であった祭官に就くことを求められたが、鎌足は固辞して摂津国三島の別邸に退いた。


 密かに蘇我氏体制打倒の意志を固め、擁立すべき皇子を探した。初めは軽皇子(孝徳天皇)に近づき、後に中大兄皇子に接近した。また、蘇我一族内部の対立に乗じて、蘇我倉山田石川麻呂を味方に引き入れた。


 645年、中大兄皇子・石川麻呂らと協力して飛鳥板蓋宮にて、当時政権を握っていた蘇我入鹿を暗殺、入鹿の父の蘇我蝦夷を自殺に追いやった(乙巳の変)。この功績から、内臣に任じられ、軍事指揮権を握った。ただし、内臣は寵臣・参謀の意味で正式な官職ではない。また、唐や新羅からの外交使節の対応にもあたっており、外交責任者でもあったとみられている。


 その後、大化の改新を推進しようとする中大兄皇子の側近として、保守派の左大臣の阿部倉梯麻呂、右大臣の蘇我倉山田石川麻呂と対立した。647年(大化3年)の新冠位制度では大錦冠だいきんかんを授与された。649年(大化5年)に倉梯麻呂・石川麻呂が薨去・失脚したあと勢力を伸ばし、654年(白雉5年)頃には大紫冠だいしかんに昇格した。


 669年(天智天皇8年)10月、山科の御猟場に狩りに行き、馬上から転落して背中を強打した。天智天皇が見舞うと「生きては軍国に務無し」と語った。すなわち「私は軍略で貢献できなかった」と嘆いているのである。これは白村江の戦いにおける軍事的・外交的敗北の責任を痛感していたものと考えられている(なお、白村江の戦いが後世の長屋王の変と並んで『藤氏家伝』に記載されていないのは共に藤原氏が関与していた事実を忌避するためであるとする説がある)。天智天皇から大織冠を授けられ、内大臣に任ぜられ、「藤原」の姓を賜った翌日に逝去した。享年56。


「何故だ〜!?何故、親父を殺した?」  

 高階は藤原の胸倉を掴んだ。

「おっ、俺じゃありません!」

 藤原の膝頭がガクガク震えている。

 何か出来過ぎてるような気がすると、太は思った。陣内を殺した藤原がワザワザ邸宅に赴くだろうか?(俺が藤原の立場だったら、殺してすぐに雲隠れするけどな?)

「あの、指輪が『金輪』を意味していたとは考えられないでしょうか?」

 太は高階の顔を見ながら言った。

「どういうことだ?」

「猫田椿って囚人が兜森のムショから脱獄したらしいですが、親父の愛人だったって話じゃないですか」

「よく知ってるな?」と、高階。

「ニュースでやってますからね」

「猫田が親父を殺したってのか?」

「毒なら力とか必要いらないし、女性が使いそうだ」

「うんうん、草刈の言うことは最もだ。毒なんてきたねーやり口だ。男ならやっぱドスだろ?」

 藤原はドスの使い手で『ドスの雅』の異名を持つ。

「何だぁ!?てめぇ、俺に意見するのかよ?おぉっ!?」

 高階はドスの利いた声で太を威嚇した。

「いやぁ、そういうつもりじゃ……」

 太は大して怖くなかった。高階が仮にドスで刺しても死なない度胸があったからだ。

 事務所には拷問部屋があり、ファラリスの椅子ってのがある。シチリア島アグリジェントの僭主であったファラリスは、目新しい死刑方法をとりいれたいと思っていた。アテナイの真鍮鋳物師であったペリロスが、それにこたえてこの装置を考案し、ファラリスに献上した。


 真鍮で鋳造された、中が空洞の雄牛の像であり、胴体には人間を中に入れるための扉がついている。受刑者となったものは、雄牛の中に閉じ込められ、牛の腹の下で火が焚かれる。真鍮は黄金色になるまで熱せられ、中の人間を炙り殺す。


 雄牛の頭部は複雑な筒と栓からなっており、苦悶する犠牲者の叫び声が、仕掛けを通して本物の牛のうなり声のような音へと変調される。

 藤原が拷問にかけられないか心配だった。


 死後、陣内は猿猴えんこうって怪物に化けた。河童に似てるが、河童と異なるのは、姿が毛むくじゃらで猿に似ている点である。金属を嫌う性質があり、海又は川に住み、泳いでいる人間を襲い、肛門から手を入れて生き胆を抜き取るとされている。女性に化けるという伝承もある。

 陣内は絶世の美女、名取真琴に化けた。

 

 12月11日

  内閣総理大臣の岸田文雄は、議員宿舎を退去して元首相野田佳彦以来9年ぶりに内閣総理大臣公邸に入居した。当面は岸田と秘書の長男が暮らす。議員宿舎から通っていた菅義偉時代には、立憲民主党から緊急事態への対応の遅れが懸念されていた。


 高階は偽真琴とニセコスキー場に出かけた。

 通年観光リゾート地として夏のアウトドアスポーツや冬のウィンタースポーツ、インドア体験が充実しており、日本国内のみならず国外からも多くの人が訪れている。北海道遺産には「スキーとニセコ連峰」が選定されている。


 2001年(平成13年)に日本全国の自治体で初の自治基本条例となる「ニセコ町まちづくり基本条例」を策定し、住民との情報共有化や住民参加型のまちづくりを制度として保障している。2014年(平成26年)には「環境モデル都市」に選定された。行政の取組みが注目されており、全国の自治体などによる視察が多い町になっている。


 基幹産業はサービス業と農業。2003年(平成15年)には全国初となる株式会社化した観光協会「ニセコリゾート観光協会」(第三セクター)が誕生している。農業振興については、ニセコの特色を活かした収益性の向上、クリーン農業の推進、直売組織への支援などによる農業活性化などを進めている。また、農業・観光・商工など各産業との連携により地域経済を循環させるため「ニセコ町産業連携プロジェクト」が発足され、イベントなどの取組みを行っている。

 

「高階さんはスキー出来るんですか?」

 ジープで雪道を疾駆させてると助手席の偽真琴が尋ねてきた。カーステからは広瀬香美の『ストロボ』が流れている。

『Nobody Can Stop Now 始まったから. Anytime Anywhere きっと二人はもう. Fall in Winter Dream♫』

「昔、エアリアルをやってたよ」

 CMで広瀬アリスがやってるお菓子とは関係ない。

 エアリアルは、空中演技を競うスキーのフリースタイル競技の1つ。長さ160cm程度のスキー板をはいて空中に飛び上がり、宙返りをして着地するまでの短い競技である。英単語としてのエアリアルの意味は「空中」などを指す。

 技には以下のようなものがある。

 🎿フロントフリップ

前方宙返り。「フロント」と省略し以下の姿勢および捻りの種別と組み合わせて技の名称とする。

ex.「フロントタック」は前方一回抱え込み転宙返り。

 🎿バックフリップ

後方宙返り。「バック」と省略し以下の姿勢および捻りの種別と組み合わせて技の名称とする。しかし、通常は全ての技がバックフリップで行われるため、エアリアルの実況等では「バック」も略すことが多い。

 ex.「バックレイフルフル」は1回転目が捻り無しの伸身宙返り、2回転目に1回捻り3回転目に1回捻りで、後方3回転2回捻り宙返り。「フルダブルフルフル」は1,3回転目が1回捻り、2回転目が2回捻り宙返りの後方3回転4回捻り宙返り。

「真琴ちゃんはあるの?」

「学生の頃、スノーボードを少しやったくらいです」

 

 2人がやって来たのはモイワスキー場。

 モイワ山の斜面にゲレンデがあり、「ニセコユナイテッド」(ニセコアンヌプリ国際スキー場、ニセコビレッジ、ニセコマウンテンリゾート グラン・ヒラフ、ニセコHANAZONOリゾート)とは一線を画している。積雪は最大4 mにまで達するため、パウダースノーを好む日本国内外のスキーヤーやスノーボーダーが訪れている。また、家族連れで訪れることができるスキー場を目指している。「ニセコモイワスキースクール」はプライベートレッスンを基本としており、初心者からのニーズに対応したレッスンを受けることができる。

 

 初級の、妖精の森コースで滑ることにした。上級者の高階からしたら物足りないが、真琴がついてこれないといけない。

 偽真琴はスキー靴をビンディングにセットするのに苦戦している。

「滑っちゃうよ〜」

 高階のレクチャーもあってセットすることに成功した。白樺並木は雪化粧されていた。澄んだ空気が美味かった。

 キンコ〜ン♪『バーが下がります』リフトのアナウンスが聞こえる。広々としたスキー場にユーミンの『ブリザード』が響く。

『Blizzard Oh Blizzard 包め世界を尾根も谷間も白く煙らせ♫ 』

 高階と偽真琴はアルペンスキーをやることにした。アルペンスキー技術は大きく分けて、推進技術と制動技術の2種類に分類される。推進のものには、真下方向に向かって真っ直ぐに滑る直滑降やレールターン・カービングターンなどがある。制動のものには、谷脚に体重を乗せ、板はフォールライン(最大傾斜線)に垂直または斜滑降方向に向きつつ、真下や斜め方向に向かってスキー板をずらして滑る横滑りや、プフルークボーゲン・ステムターンと、パラレルターンにおけるスキッディングターンなどがある。

 

 高階は歩き方からレクチャーすることにした。

 雪面をかかと → ブーツ底面 → つま先の順につけて歩く方法で、普通の歩き方に近い。なお、氷結面やタイル床等の滑りやすい場所ではかかとをつけた段階で滑って転びやすい事があり、注意が必要。

 偽真琴はスノボをやってたこともあってか軽々と歩いてる。

 次に推進滑走を教えた。

 スキーを履いた状態で、両ストックを雪面に突いて前から後に押し込んで推進力を得て滑る技術。歩くよりも速く移動出来る。また、「歩く」から「滑る」へのスキーの本質に触れる技術でもある。

 20分程で偽真琴は上達した。


 次はスケーティングだ。

 スキーをV字にして、左右交互に踏み出して滑る技術。平地で行う時はストックによって押し出す推進力も合わせて使う。初心者にはエッジの役割と荷重の移動を覚えるのに有効な技術であるほか、上級者、特にアルペン競技においては加速を得るための重要な技術である。


「段々上手になってきたじゃん」

「ちょっと疲れたね?」

 レストハウスに入って缶コーヒーを飲んだ。

「俺、少し滑ってくるね?」

「うん、気をつけてね?」

 リフトに乗って上級コースに向かう。

 globeの『DEPARTURES』が流れてる。

『どこまでも限りなく 降りつもる雪とあなたへの想い少しでも伝えたくて 届けたくて そばにいてほしくて♫』

 高階は陣内を殺したときのことを思い出した。

 あいつさえ、いなくなれば北竜会は俺のものだ。その思いが高階を悪魔に変えた。

 陣内もスキーをやっていたようで、高階はそれを口実にして陣内邸に入った。

 暖炉に火が灯ったヌクヌクとした部屋で陣内と高階は『私をスキーに連れてって』の話をした。

「原田知世とか、三上博史、沖田浩之なんかが出てましたよね?」

「竹中直人も出てたね?嫌味な役は天下一品だな?」

「陣内さんは苗場スキー場は行ったことはありますか?」

「新潟だろ?苗場はないが越後湯沢はあるよ、レストハウスがブルートレインで出来てるんだ」

 陣内がトイレに入ったのを見届けて、赤ワインが半分くらいまで入ったワイングラスに青酸カリを入れた。

 青酸カリの経口致死量は成人の場合200 - 300mg/人と推定されている。全血中のシアン濃度が1.0~2.5μg/mlで意識障害、2.5~3.0μg/mlで昏睡、それ以上では死亡するとされる。

 乾燥状態では無臭だが、潮解により空気中の二酸化炭素と反応し、シアン化水素を放出しながら炭酸カリウムに変化するため、シアン化水素による特徴的な臭気を発する。特に太陽光に当たる状態では反応が進み易いため、空気に触れないように、太陽光に当たらないように保管する必要がある。

 北竜会はフロント企業としてメッキ工場を支配していた。メッキは以下の用途で使われる。

 ◎鍍金:電解メッキ法のひとつである青化浴は、金、銀、銅、亜鉛、真鍮、カドミウムなどでのメッキに古くから利用されている(シアン化物を使わないジンケート浴、酸性浴への置換が進んでいるが、なお主流)。

 ◎写真:銀板写真の銀メッキや青写真。現代のフィルム製造や現像にはシアン化物はほとんど使われていない。

 太陽光分解して、青酸カリを廃棄した。

 少量の鉄シアノ錯体溶液などは、ほうろう引きの浅いバットに入れ、数日間直射光に晒すと分解して水酸化鉄になる。塩化鉄溶液を滴下して紺青が生じなければ、分解終了。

 フロント企業が得た金は上部団体に上納され、最終的には暴力団の資金源になる。暴力団対策法の成立以降は、従来型の資金調達が困難になったため、法律適用の回避手段として多くの企業舎弟が生まれた。暴力団が新たに企業を設立する事例もあれば、既存の実績のある企業に株の買い占め等によって暴力団の息のかかった人間を送り込んで、実質的に乗っ取る事例もある。


 最近では暴力団関与の色彩を薄めるために、暴力団の構成員ではない一般の応募者を従業員として採用したり、構成員は経営者や幹部社員にならず、その親類縁者など暴力団とは直接のつながりのない人物を「ダミー」として使うケースが多くなっており、一見しただけでは普通の企業か企業舎弟か見分けが付きにくくなってきている。


 また豊富な資金力を活かして、成長の見込める分野に出資し、株式市場などを含めた投資活動によって利益を回収しようとする動き(一種のマネーロンダリングである)も、近年では活発に行われている。ここ最近では出会い系サイト等の成長が著しいIT業界・携帯電話コンテンツ業界への積極的なアプローチや、密接な関係なども囁かれている。とくにネットでは顔や正体が判明しにくいため、身分を隠し偽る必要がある暴力団側としては、さまざまな点で都合がよいという利点がある。

 トイレから出てきた陣内は何の疑いもなく毒入りワインを飲んで、喉を両手で押さえて苦悶の表情を浮かべ、のたうち回って死んだ。

 高階は陣内のスマホを使い、藤原に罪を着せる施しをして陣内邸から出た。

『まもなくリフトが止まります』

 リフトを降りてジャイアントコースを滑った。

 カービングターンで斜面を降りた。

 パラレルターンの一種であり、ターン開始時に脚をターン内側に傾けて、意図的な荷重や外力を利用した荷重によってスキー板をたわませて曲面を作り、これを雪面に食い込ませることで足場を作ってターンする技術。スキッディングターンと異なり板の制動要素が少ないため、高速滑走が可能となる。かつては難しい技術であったが、カービングスキーの登場により一般スキーヤーにも可能な技術となった。カービングとは「彫り込む(CARVE)」の意味であって「曲がる(CURVE)」の意味ではない。


 15時頃、スキー場を出て東山にある温泉旅館に向かった。掛け流しの天然温泉。ただし湯温が高温のため加水して入浴適温としている。

 高階は1人きりの露天風呂に浸かりながら、銀世界の街並みを眺めていた。粉雪が舞っている。

 3年前に病気で亡くなった妻は後ろから攻められるのを好んだ。真琴はどんなセックスを好むんだろうか?

 くもりガラスの引き戸が開いて、真琴が入って来た。

「おい、ここ混浴じゃないぞ?」

「誰もいないし、いいじゃん?」

 真琴は体に巻いたバスタオルを剥いだ。ロケットみたいな乳房が露わになった。

 真琴は湯船に入ると高階の背中を抱いた。

 高階は彼女の感じる声を聞きたかった。

 後ろを振り返ると猿の怪物がいたので高階は腰が抜けそうになった。

 猿猴は高階の肛門に手を突っ込み、腸を引っ張り出した。高階は断末魔を上げて絶命した。


 同じ日の午後8時、ホンモノの名取真琴は独房の中で凄惨な出来事を回想していた。

 青木秀子は半狂乱になった花房史帆をオートマグで射殺した。その銃を相道夏美が奪って、自分のこめかみに銃口を突きつけて銃爪を引いて死んだ。

 夏美は最大の標的である史帆を殺されてしまい、生きる希望を失くした。

 金輪への復讐は叶わなかった。

 SATがヘリに乗って現れて、閃光弾で動きを封じられた秀子は呆気なく確保された。

 




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