第12話 ナイトメア 残り4人
11月20日、私立探偵の
相京沙織は、今年の9月、警察の捜査により函館の結婚式場にて、ネメシスと名乗っていた凶悪犯で、恋人を奪った雅子って女を撃って、全国に指名手配されていたことが判明した。逮捕された秋鹿は精神鑑定のために留置場からの護送中に釧路川に飛び込み、死体があがらないまま行方不明となった。『ナイトメア』の送付先は、兜森にある介護施設の経営者の
敬礼の部下が「敬礼刑事に敬礼!」と言ったので藍浦は言うとおりにした。
11月21日 - 俳優の吉田栄作と内山理名が結婚を発表。
函館駅前にある藍浦探偵事務所に、
これがあれば、浮気に激怒する妻の記憶もパッパラパーだ。
「秋鹿は殺しました。この薬と、これを……」
夏美はアタッシュケースを開けた。札束がぎっしり詰まっていた。
「5000万入ってます」
藍浦は映画の中にいるような気分になった。
「願ったり叶ったりだ」
藍浦は事件を揉み消すことに決めた。秋鹿はどうしようもないクズだ。彼なんかいない方が世の為だ。
辺見蛍はネットで都市伝説について調べていた。
この世には数々の未解決事件がある。
未解決事件の被害者は亡霊と化して善良な市民までも生贄にするらしい。
太は施設長を殺す為に『愛洲苑』に潜入した。
『祖父の介護をしたとき、ヘルパーさんに君は介護士に向いていると言われた』と面接に話したことがメリットになったようだった。父方の祖父の介護は太にとって貴重な経験になった。
太は
怖い話の内容は、旅行先にある京都のホテルで夜景を撮影していると、偶然飛び降り自殺の瞬間を撮影してしまう。後日、そのフィルムを現像すると飛び降り自殺をした女が笑みを浮かべ、カメラを睨んでいた、というのだ。
愛洲龍臣は運命とは残酷だと思っていた。かつて、飲酒運転により妻を死に追いやった、
雅子は晴彦の食事介助を行っていた。誤嚥しない為にご飯や味噌汁にはとろみがつけられている。
介助をし終えると、晴彦は奇妙な話をしだした。
「トンカラトンって妖怪を知っておるかね?」
全身に包帯を巻き、日本刀を持った姿で、「トン、トン、トンカラ、トン」と歌いながら自転車に乗って現れる。人に出会うといきなり「トンカラトンと言え」と言い、そのとおりにすれば去っていくが、言わないと刀で斬り殺される。トンカラトンに斬られた者は全身を包帯で巻かれ、トンカラトンにされてしまう。「トンカラトン」と言おうが言うまいが出会えば必ず同類にされてしまうとも、集団で現れる場合もあるともいう。
晴彦の夢は正夢になることが多い。今の妻、
晴彦は若かりし頃を思い出した。
アメリカ領土でアラスカの一部であるアリューシャン列島は、日本海軍が開戦時に策定した連合艦隊作戦計画では「占領または攻撃破壊すべき外郭要地」と決められたが、具体的な計画は無い状態だった。
しかし、アメリカ軍の北方からの進攻や当時開発中との情報があった日本本土を爆撃可能な新型長距離爆撃機の発進基地となることを恐れ、また同時期に進行していたミッドウェー作戦の支援も兼ねて、海軍軍令部が陸軍と共同してAL作戦を計画、アリューシャン方面に進出した。これによりアリューシャン列島での戦いが始まった。
1942年6月6日、
日本軍の占領直後、抵抗した無線技師のチャールズが殺害された。残ったアリュート族住民はアッツ島一時放棄の際に北海道の小樽近くの収容所へ連行され、終戦まで抑留された。そのうち16名が亡くなっている。チャールズの妻エッタも日本本土へ連行され、横浜や戸塚の収容所を転々とした後、終戦直後に解放された。エッタは1965年12月にフロリダ州ブレイデントンで86歳で亡くなった。
上陸後、日本軍は飛行場と防御陣地の構築を始めた。最も近いアメリカ軍はウナラスカのダッチハーバーとアダック島の航空基地であった。占領期間中、アメリカ軍はウムナック島の基地から爆撃機で頻繁に空襲を行い、また潜水艦を投入して日本軍に度々損害を与えた。 8月8日、巡洋艦を基幹とするアメリカ艦隊がキスカ島に来襲し、艦砲射撃を行った。大本営はキスカ島の守備強化としてアッツ島に駐屯していた北海支隊にキスカ島移駐を命じた。北海支隊は島の放棄に際して、携行できない物資や防御陣地を破壊した。また島のアリュート族住民約40名を同行させて島はほぼ無人となった。
当初、日本軍はアリューシャンを1942年冬まで占領予定としていたが、アメリカ軍によるたび重なる攻撃、そして島を基地として使用させないため1943年まで占領を延長する事を決定した。10月18日、日本軍はアメリカのラジオ放送からアムチトカ島が占領されたと判断し、急遽アッツ島の再占領を決定して20日に再占領された。
1943年2月5日、日本軍はアリューシャンを含む北太平洋方面の守備方針を見直し、陸海軍双方の分担範囲が取り決められた。また、現地の守備兵力として新たに北海守備隊が編成され、2月11日に山崎保代陸軍大佐が着任した。いったん放棄された防御陣地の再構築、兵員や物資弾薬の増援が図られたが、大本営の消極的な守備方針やアリューシャン特有の悪天候、米軍の妨害により守備体制は不十分となってしまった。 また、3月27日には同島沖でアッツ島沖海戦が発生している。
今までの夢より恐ろしい夢を最近見た。愛洲に枝切り鋏で首を切断されて殺される夢だ。
「儂はあのボスに何かしたのか?
愛洲が帰宅したのを見計らって、太は晴彦の居室で話を聞いた。
「あなたはかつて飲酒運転で施設長の奥さんを轢き殺しているんだ」
太が言うと、晴彦の顔は恐怖や衝撃で歪んだ。
「儂は何ていうことをしたんだ……」
ピンポーン♪ピンポーン♪インターホンの音がした。外に通じる電話に出た。
「はい?」
画面に女優の風吹ジュンに似た女性が映ってる。
「弥生さん」
《来栖さん、主人は無事ですか?》
「ええ、今開けますね?」
太はオートロックを解除し、弥生を中に入れ応接間に通した。
彼女はアタッシュケースを持参していた。
「これ、約束のものです」
中には1000万入っている。人間の命にしては少し安いような気がした。
太はお茶を淹れた。
「玄米ですか」
「お気に召しませんでした?」
「いいえ、私玄米が大好きですの」
「それはよかった」
「来栖さん、今日は当直なんですか?職員の数がいつもより少ないですね」
「体調不良者が続出しているんです」
「もしかしたら、コロナ?」
「いや、単なる風邪です」
実は『ナイトメア』の影響だった。記憶を失わせるのが目的の薬だが副作用として発熱やめまいが起きる。愛洲が晴彦を殺害するシーンを見られたときの対策だ。愛洲はお茶に『ナイトメア』の粉末を混ぜて職員たちに投与していたのだった。
太はコロナを過度に警戒して水筒を持参していた。
「ご主人を送迎致します。途中で愛洲が現れないとも限らない」
愛洲のいない今しか晴彦を逃がすチャンスはない。愛洲は粟飯原邸の場所を知っている。自宅は危険だ。
釧路市内にある柳町公園の近くのビジネスホテルに匿うことにした。
釧路市中心部よりやや北西に位置する(両側の車道に挟まれた)帯状の公園。当初は、1920年(大正9年)に発生した水害を契機に翌年から10年かけて建築した釧路川と新釧路川を結ぶ大排水溝として計画していた。その後、木材輸送が鉄道に変わったことによって掘削が完了しないうちに工事終了となり、以後は運河と呼称されていた。1979年(昭和54年)に都市環境の向上や災害時の避難場所と位置づけした整備計画を策定。1982年(昭和57年)から国庫補助事業(補助事業)で整備を進め、2004年度(平成16年度)に完成した。
園内にはテニスコートやゴルフ場がある。
太は愛洲の自宅に『ナイトメアの件を知っている。おまえの人生はもう終わりだ。警察にバラされたくなかったら、兜森の西にあるガソリンスタンド跡に午後10時に来い』とFAXを送った。📠
太は知り合いの武器屋から吹き矢を買った。
吹き矢は、吹き筒と矢からなり、矢について特徴的な部分は、対象に刺さるための針と、吹き筒の内部で密閉性を発揮するシール構造から構成され、このシール構造は風受けとも呼ばれる。
矢は、金属製の針のほか、石製や竹や木製など、硬質の針状の素材であれば様々なものが利用できる。風受けには古くは、針や針状に細長く加工した竹に動物の体毛や樹皮や皮革や布などから、円錐に加工した紙の風受けが日本では使われてきた。現在では紙や樹脂フィルムなどを、円錐形に巻いた矢は日本独特のもので、日本以外では針金や竹串に、柔らかい素材のコットンやプラスチックの円錐の風受けがついている矢が用いられている。
古来から世界各地で狩猟具として利用され、南米や東南アジアの狩猟を糧とする民族によって、今日も狩猟具として活用されている。これは弓矢より携帯が容易なことをはじめ、密林では弓矢より吹き矢の方が矢羽の風切り音が静かなこと、飛距離は弓矢ほどではないが、長い吹き筒を使用すれば高い命中精度が期待できること、さらには小さい矢が植物の枝葉が邪魔な場合に有利であることに加え、毒を併用すれば、小動物のみならず、ある程度の大きさの動物を捕らえることもできるといった理由によるものと考えられている。
太は矢に毒を塗りつけ、草むらに身を隠していた。夜なので黒いジャンバーと黒いズボンを着ていた。景色に溶け込むにはうってつけだ。
太は幼い頃、
霧隠才蔵は、猿飛佐助と並び真田十勇士の中でも忍術を得手とする。渡りと呼ばれる何処にも属さない忍者だったという説もある。伊賀忍者の頭領・百地三太夫の弟子とされており、同時代に生きた盗賊・石川五右衛門は兄弟弟子にあたるという。
軽自動車が近づいてきた。ゆっくりと停まり、ドアが開いた。
「おい、どこにいるんだ?」
愛洲の声はどこか
太は呼吸を整え、ヒュッと息を筒の中に吹き込んだ。
矢は愛洲の首筋に突き刺さり、アスファルトに仰向けに倒れて悶絶していた。愛洲はやがてピクピク痙攣をはじめて、事切れた。
運の悪いことに通行人が近づいてきた。白いコートを着た女性だ。太は息を呑んだ。その女とは蛍だったのだ。これも運命かな!?
「大丈夫ですか!?」
蛍は愛洲の頸動脈に手を当てた。
「もう死んでる」
蛍はスマホをバッグから出してボタンを押した。
警察に連絡する気だ!
逃げなきゃマズいな!西を目指そうとした。赤く不気味な月が夜空に浮かんでいる。
遠くから下半身のない人間が近づいてきた。太は吹き矢で殺そうとしたが、ジャンプすると木の枝にぶらさがった。
「クソッ!猿みたいな奴だな!」
妖怪はどことなくテナガザルに似ていた。
蛍が妖怪に近づくと、奴は森の奥へと逃げていった。
「助けてくれてありがとう」
慌てて吹き矢をジャンバーのポケットに隠した。
「いやぁ、私何にもしてないんですよ」
「妖怪が嫌いなオーラがあるんじゃないか?」
サイレンの音が近づいてきた。
「あの、俺バイトあるからさ……」
言い訳して逃走を図った。
20分後くらいに敬礼刑事が駆けつけた。
敬礼は忍者の末裔に違いないと言っていた。
蛍は妖怪に詳しい。さっきの妖怪は福岡県の犬鳴山に棲んでる
「さっきの若い男性は加害者の血縁者かな?」
兜森駅構内にある立ち食い蕎麦屋で、きつねそばを食べると蛍はひらめいた!
秋鹿は夏美に可哀想なことをしたと思った。彼女は5年前まで、兜森図書館で司書をしていた。夏美は7年前に、父親を殺人で亡くしている。その父親に似ている秋鹿と男女の関係になった。彼女が秋鹿の為に、刑務所に入ったのはある理由があった。兜森女子刑務所には、父を死に追いやった鬼女が服役しているのだ。
小中高と水泳をやっていたお陰で釧路川を泳いで、
釧路総合振興局の北部に位置する。釧路市から北約80キロメートルに位置。
地理的には釧路総合振興局に属するが、地勢はオホーツク総合振興局に近い。 冬季の冷え込みは厳しい。 川湯では空気中の水分が凍ってキラキラひかる、ダイヤモンドダスト現象が見られることがある。
主要産業は観光と酪農。 摩周湖、屈斜路湖、摩周温泉、川湯温泉が主要観光地で全国から多くの観光客が訪れる。 本州からの移住者も多い。
秋鹿はコテージのテラスから摩周湖を眺めていた。日本でもっとも、世界ではバイカル湖についで2番目に透明度の高い湖である。2001年には北海道遺産に選定された。急激に深くなっていることとその透明度から青以外の光の反射が少なく、よく晴れた日の湖面の色は「摩周ブルー」と呼ばれている。
沙織の背中をナイフで刺したときの感触が今でも忘れられず、気味が悪い。肉をえぐる瞬間のヌプリという音。あんなに愛してしていたのに。
摩周という名の由来は「カムイシュ」(神老婆)や「マシ・ウン・トー」(カモメの湖)など諸説あるが不明(なお摩周湖にカモメは生息していない)。湖の中央に断崖の小島カムイシュ島がある。周囲は海抜600メートル前後の切り立ったカルデラ壁となっており、南東端に「カムイヌプリ(神の山)」(摩周岳・標高857メートル)がそびえている。湖内は阿寒国立公園の特別保護地区に指定されており、開発行為や車・馬・船の乗り入れは厳しく規制されている。
流入・流出河川がない閉鎖湖であり、周辺の降雨が土壌に浸透して充分にろ過されて流入するため、有機物の混入が非常に少なく生活排水の影響もないためリン酸塩の流入もない。夏季の気温・水温が低いこともこの一帯の有機物の分解が進まない原因となっている。また、湖面への直接降雨には大気汚染の影響が忠実に反映されるため、湖水は地球の環境変化を知るモニタリングの対象となっている(中国での農薬の使用状況や亜硫酸ガス濃度の推移も確認されている)。
木製のドアが轟音とともに吹き飛んだので、秋鹿は体が凍りつきそうになった。
ショットガンを両手に構えた男が精悍な顔つきで立っていた。
「今ならまだやり直せるぞ!秋鹿!!」
秋鹿は警察に違いないと思った。
秋鹿はガラスの破片で手を切ったときのことを思い出した。血がドクドク溢れて痛かった。あんなのに蜂の巣にされたら相当痛いに違いない。
秋鹿は両手を挙げて大人しく降参した。
「このとおりだ!」
秋鹿は床下収納からビニール袋を取り出した。袋の中には血でベトベトになったナイフが入ってる。
「俺は警察じゃない。俺と一緒に世界を変えよう」
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