第11話 クーデター 残り5人
11月5日
後味の悪い夢だった。蛍が殺される夢なんて最悪だ。太はテレビで秋田にカリスマドクターがいることを突き止めた。
秋田駅には12時位に到着した。
トピコって駅ビルの1階の吉野家でお昼にした。
久しぶりに牛丼を食べた。
西口は秋田市の旧市街であり、古くからの商業地・官庁街である。東口は1988年の秋田駅東西連絡歩道橋「Weロード」開通をきっかけに宅地化・商業地化が進行したものであり、それ以前は一部に新興住宅街が形成された農業地帯であった。
🏔
長閑な景色が広がっている。
秋田市中央部に近い側から前岳、中岳、鶴ガ岳、剣岳、宝蔵岳、弟子還岳、太平山(奥岳)、旭岳など多数の山頂が連なる。
路線バスに乗りクリニックに向かった。
クリニックは
ドクターは
大酒のみで、山から人里に下りてきてふらりと酒屋に現れる。酒を飲むと代金を払わずに出て行くが、夜中に代金の10倍ほどの値打ちのある薪を置いて行くという。しかし、このように薪を置いて行くのは代金を請求せずに黙っていたときのみであり、代金を無理に請求すると仇をなされてしまうといわれる。
また、1人では到底動かせない荷物があるなど、大きな仕事があるときには、酒樽を供えて三吉鬼に願をかけると、一夜のうちにその仕事が終わっていたこともあるという。そのために大名まで三吉鬼に仕事を頼んでいたという。
そのように人々にもてはやされていた三吉鬼だが、文化年中より30-40年ほど前からは人里に現れることはなくなったという。
翌日、太平山に登った。
太平山の麓に三吉神社の里宮が、山頂に奥宮があった。
社伝によれば
金もないから廃校に泊まることにした。幽霊だから餓死することはない。だが、太はグルメだ。特に牛丼は大好物だ。1階にある教室の先生の椅子に座り、机に突っ伏した。寒いな〜、温かくなるように念じたらポカポカして来た。念力も使えるときと使えないときがある。眠りにつこうとしてるとどこからか「ママー、ママー」という悲しげな泣き声と、小さな足音が聞こえた。
2階の方から聞こえる。暗いのでスマホのライトを点けて、教室を出て階段を上った。音楽室のドアをそっと開けた。窓からは月明かりが射し込む。ベートーヴェンやバッハの肖像画が飾られてある。室内は荒れ果て、煙草の吸殻やビールの空き缶が落ちていた。「ママー、ママー、ヘルプミー」
ライトを向けた方向にはグランドピアノがあり、その上に青い目の人形が置かれてあった。不良の仕業だろうか?髪が燃やされて、チリチリになっていた。その人形はまるで操られてるかのように口が動いた。「お兄さん、僕をこんな風にした奴を見つけて……」と、人形は英語で言った。
「ゴメン、僕には分からない。だからって祟らないでくれよ?」
「三吉神社ってところに連れてって、そしたら犯人を突き止めることが出来る」
翌日の昼、太は神社に人形を連れて行った。里宮に人形を置いてきた。
「ありがとう、お兄さん。ここであなたを見守ってるね?」
太は人形が我が子のように思えた。蛍と結婚していれば、子供に恵まれて幸せな生活を送っていただろう。
その日の夜、廃校に戻ると高校時代に一目惚れしていた六角若葉がいた。
若葉はイケメンになった太を見て、「あな番見てました〜」と微笑んだ。
若葉は印刷会社時代の先輩だったが、仕事でミスするとPPバンドをムチみたくして太を痛めつけてきた。PPバンドってのはダンボールをまとめる、プラスチック製の紐だ。あ〜今すぐ殺したい、と太は思った。
太は保健室のベッドの上で若葉と交わった。
ギシギシとベットがきしむ。
「アッアッアッ、檜垣ィッ……イクウッ……」
若葉め、気づいていたのか!?若葉は口から毒気を放ってきた。太は気を失った。
夢の中で少年に遭遇した。
少年は「ワンバンコ」と意味不明のことを言っている。もしかしたら、さかさま君かも知れない。逆さまの言葉で話しかけてきて、逆さまに答えないと足を掴まれて引き摺られる。
「ワンバンコ」
「ハエマナノミキ」
「シトフキガヒ」
「タキラカコド」
「ロシク」
「ボソア、ボソア」
確か、これにはメダハシタワと答えないと死の世界に連れて行かれるのだった。
もしかしたら俺は何か、してはならないことをして地獄から死者としてさかさま君がやって来たのかな?と、太は思った。
「メダハシタワ」
さかさま君は地獄に戻っていった。
「ウワーッ!」
目を覚ますと隣に骨と化した若葉が横たわっていた。
何で死ななかったのだろう?この女は紛れもない妖怪だ。何が原因で死んだのかは分からない。
あの青い目の人形が助けてくれたのかもな?
11月10日
蛍は釧路にある民宿で知り合った、
囲炉裏を囲んで4人は語った。
「歌丸さんは山形のどこで生まれたんですか?」
『笑点』の昇太師匠の前の司会者を蛍は思い出した。円楽(昔の楽太郎)によくイジられていた。
「山形市です」
山形盆地の南部3分の1ほどを占め、盆地の東南部に位置する扇状地の上に市街地が立地している。盆地中央部である市の北、北西方向は広く平地が続き、広大な田園となっている。市の東部は奥羽山脈による山岳地帯、南西部は丘陵が占めている。
盆地の中に位置するため、盆地特有の内陸性気候で寒暖の差が激しく、夏は暑く冬は寒い。夏は東北の中でも暑さが厳しく、35℃を超える猛暑日となることも珍しくない。ただ、盆地であるために1日の気温差が大きく、熱帯夜となることは少ないため、朝晩は過ごしやすい。一方、冬は寒さが厳しく底冷えとなり、雪の降る日も多いが、月山など出羽山地の山々によって日本海で発生した雪雲が遮られるため降雪量は山形県内では少ない方である。過去に-20.0℃を記録しているものの、近年の冬は都市化などの影響により温暖化してきており、特に最低気温の上昇が激しくマイナス10℃以下は1996年(平成8年)を最後に一度も無くなった。
「あ〜納豆汁食べで〜」
いかん、訛りが出てしまった。蛍は気まずそうな顔になった。
東北地方の山形県や岩手県、秋田県などでは広く親しまれており、山形は山形市・新庄市・庄内町・酒田市、岩手は湯田町(現:西和賀町)、秋田は湯沢市において地方料理として知られている。また秋田県や山形県の一部では正月の雑煮が納豆汁仕立てになるほか、熊本県や福岡県でも雑煮に納豆を加える例が見られる。
「七草によく食べるよね?」と、すず。
「秋田ではそういう風習はあまりないな」と、持主。
持主ってよく見ると俳優の
「リンリン便所って知ってます?」
不意に歌丸が言った。
歌丸は熱くなったのかセーターを脱いだ。
「さぁ……」
蛍も熱くなってきたが、トレーナーの下はブラウスなので恥ずかしい。
「小学校の体育館下の便所で起きたことなんだけど、真ん中の個室の水を流すとリンリン♪と音がするんだって」
『凛々と』ってドラマがあったような?話の途中で場違いなことを蛍は思い出した。
「実は学校の下には墓があって、埋められてる人が墓の存在を知らせようと鈴の音を鳴らしてるんだって」
歌丸の話を聞き終えた蛍は、たちの味噌汁を啜った。舘ひろしが入ってるわけじゃない。たちは、白子のことだ。
「恐ろしい」
そう言って、すずは
「ふぅ〜あったまる〜」
「秋田には怖い話、ないんですかぁ?」
蛍はアクビを堪えながら言った。
「青い目の人形の話なら」持主はちらりと振り子時計を見た。もうじき21時になるところだ。
すずは余程怖いのか、両耳を塞いでる。
「僕が育った小学校では夜になると、青い目の人形が動き出し、人間を見つけると空を飛んで襲いかかってくるって怪談が残っている」
「もう、いいですってぇ〜」
すずは泣きそうな顔になる。
ボーン♪ボーン♪ボーン♪振り子時計が9時を告げた。
「明日は早いからもう寝るね?」
持主は部屋に戻った。
「この民宿にはね、怪談を話さないと呪われるって言い伝えがあるそうですよ?」
蛍は笑いを堪えながらすずを驚かした。
すずと竜也はカップルなのだが、どうやって知り合ったのかな?
「え〜!怖い怖い〜」
すずは大袈裟に怯えてから、何かを思い出したのか目を丸くした。
「赤ちゃんババアってのが、うちの小学校には棲んでいるそうです。夜になると体育館のステージに、顔は老婆で体が赤ん坊の姿の妖怪が現れて、自分の足を喰っちゃうんです」
「あんまり怖くないわね〜」
山男や手の目に遭遇した恐怖感したら、他人の怪談話なんて何てことはない。
「すみませんね〜」
何だかすずって感じ悪いな?そう、蛍は思った。
「そういう辺見さんは怖い経験ないんですか?」と、すず。
「阿寒湖って知ってる?」
「あかん子?半グレですか?」
すずのボケに蛍は爆笑した。
「アンタ、漫才師になったらいいよ!」
「アンタって馴れ馴れしいですよ」
阿寒湖は北海道東部、釧路市にある湖である。全域が阿寒摩周国立公園に含まれ、道東を代表する観光地となっている。淡水湖として北海道で5番目に大きい。
特別天然記念物のマリモや、ベニザケの湖沼残留型(陸封型)であるヒメマスが生息する。冬は全面結氷し、ワカサギ釣り、スケート、スノーモービルなどのウィンタースポーツが盛んで、阿寒湖氷上フェスティバル・冬華火などのイベントも開催される。周囲はエゾマツ・トドマツなどの亜高山帯針葉樹林、および広葉樹を交えた針広混交林の深い森に覆われている。
2005年11月、ラムサール条約登録湿地となった。
「ある夏の夕方、湖畔をドライブしてたんです。細い道に入って辺りが暗くなったとき、後ろから運転手のいないサイドミラーの片方が壊れた赤い車に追い越されたんです」
蛍が話し終えると、すずが口を開いた。
「蛍さん、過去にとんでもない過ちとか犯してない?」
蛍はきっとすずを睨みつけると、人差し指をつきつけた。
「な〜に!?私が呪われるようなことでもしたって言いたいわけ!?」
「辺見さん、声大きいよ?寝てる人もいるんだからさ」
歌丸に窘められた。
振り子時計の短針は9と10の間くらいにあった。
「そろそろお開きにしましょうか?」と、すず。
それぞれ自分の部屋に戻った。風呂にでも入ろうかな?蛍の部屋は2階の角部屋、『蝉』という部屋だった。浴衣に着替え、階段を降りる。
怪談の話をしてるときはうっかりマスクをするのを忘れていた。コロナに感染していないか心配だ。
今は布マスクをしていた。
脱衣所に入った。背の高い若い女性が赤いコートを脱いだ。メチャクチャ巨乳だ。女の顔の半分ほどは白いマスクで覆われていた。
女性は「私ってキレイ?」と、蛍に尋ねてきた。
「キレイだと思います」と、答えると、女性は口元を覆うマスクに手をかけた。
そしてゆっくりとマスクが外された。
蛍は思わず息を呑んだ。
女の口は耳元まで大きく裂けていたのだ。
くっ、口裂け女!?
確かネットで読んだ都市伝説によると口裂け女の正体を知った者は鋭利なハサミで殺されてしまうんじゃなかったか?
が、女は「ありがとう」というと大浴場のドアを開けた。
浴槽が血みどろになって、バラバラにされた女性の死体が転がってるのを想像した。
逃げなきゃ!蛍は慌てて脱衣所から出た。
ロビーで歌丸とバッタリ会った。
「こんなところで何してるんですか?」
「ここから目と鼻の先の住宅街で殺人事件が起きた」
身の毛がよだった。大浴場には口裂け女がいる。もしかしたら、すずが犠牲になっているかも知れない。
「あの!すずさんは?」
「何です?急に大きな声出して。すずなら部屋でテレビを見てますよ」
「よかった」
蛍は息を撫で下ろした。
「どうしたんですか?」
蛍は脱衣所で見た光景を歌丸に伝えた。
「幻覚でも見たんじゃないんですか?ともかく、宿から絶対に出ないで」
「あっ、あの……あなたは?」
「釧路署刑事課に勤務しています」
黒い外装の屋敷に歌丸はやって来た。表札には『陰能』となってる。歌丸は笑いそうになった。
陰囊に似てるな?金玉みたいだ。
遺体は和室に転がっていた。6畳はある。
掛け布団の上にうつ伏せになっている。
敬礼が先に来ていた。歌丸も敬礼も同じ黒いプリーツマスクをしてる。署で支給されたものだ。
「待たせたな?」
「何か分かりました?」
「あの宿、マジで不気味だ」
あの民宿の宿泊客が行方不明になってると釧路署に相談があったのだ。相談者は宿のオーナーだ。
行方不明になったのは六角若葉って女性だ。
「オーナーの
「その話は知ってます」
「本庁に栄転になるからって調子に乗ってんじゃねー」
敬礼は12月1日から警視庁捜査一課に配属される。
「調子になんか乗ってませんよ」
「ちっ!」と、歌丸は舌打ちした。「若葉の実家は幣舞橋の近くにあるのだが、あの宿を家代わりにしていた。家族と仲が悪いらしく、馬酔木って奴と強引に結婚したのだが、逃げるようにして実家に戻ったそうだ。が、父親の瑞鳳はそれを許さなかった」
「金がなくなって宿代踏み倒す為に逃亡したんじゃ?」
敬礼は遺体に目を移した。背中にナイフで刺されたわけでも、銃で頭を撃たれたわけでもない。
「病死かな?」と、敬礼。
「第1発見者は殺しだって言ってるんだろう?」
第1発見者はガイシャ、
陰能は印刷会社を経営している。会社は
「陰能さんは足が悪く、羅漢さんに買い物に連れて行くよう頼んだらしいです。彼が来ると、玄関のドアは開け放ちにされて、中で死んでいた」
「羅漢ってのはもう帰したのか?」
「はい」
「羅漢は何で殺しだと?」
「会社に脅迫状が届いていたらしいです」
敬礼は、『賃金を上げないと殺す』と赤いマジックで書かれた紙を歌丸に見せた。
「どこにあった?」
「書斎の
歌丸は書斎に足を踏み入れた。
1850年、当時はイギリスの保護領であったレフカダ島(1864年にギリシャに編入)にて、イギリス軍医であったアイルランド人の父チャールス・ブッシュ・ハーンと、レフカダ島と同じイオニア諸島にあるキシラ島出身のギリシャ人の母ローザ・カシマティのもとに出生。生地レフカダ島からラフカディオというミドルネームが付いた。
父はアイルランド出身でプロテスタント・アングロ=アイリッシュである。イギリス軍の軍医少佐としてレフカダ島 の町リュカディアに駐在中、キシラ島(イタリア語読みではセリゴ島)の裕福なギリシャ人名士の娘であるローザ・カシマティと結婚した。カシマティはアラブの血が混じっているとも伝えられる。ラフカディオは3人男子の次男で、長男は夭折し、弟ジェイムズは1854年に生まれ、のちにアメリカ合衆国で農業を営んだ。
1851年、父の西インド転属のため、この年末より母と通訳代わりの女中に伴われ、父の実家へ向かうべく出立。途中パリを経て1852年8月、両親とともに父の家があるダブリンに到着。移住し、幼少時代を同地で過ごす。
父が西インドに赴任中の1854年、精神を病んだ母がギリシアへ帰国し、間もなく離婚が成立。以後、ハーンは両親にはほとんど会うことなく、父方の大叔母サラ・ブレナン(家はレインスター・スクェアー、アッパー・レッソン・ストリート)に厳格なカトリック文化の中で育てられた。この経験が原因で、少年時代のハーンはキリスト教嫌いになり、ケルト原教のドルイド教に傾倒するようになった。
フランスやイギリスのダラム大学の教育を受けた後、1869年に渡米。得意のフランス語を活かし、20代前半からジャーナリストとして頭角を顕し始め、文芸評論から事件報道まで広範な著述で好評を博す。
1890年(明治23年)、アメリカ合衆国の出版社の通信員として来日。来日後に契約を破棄し、日本で英語教師として教鞭を執るようになり、翌年結婚。
松江・熊本・神戸・東京と居を移しながら日本の英語教育の最先端で尽力し、欧米に日本文化を紹介する著書を数多く遺した。日本では『雨月物語』『今昔物語』などに題材を採った再話文学で知られる。
私生活では三男一女をもうけ、長男にはアメリカ合衆国で教育を受けさせたいと考え自ら熱心に英語を教え、当時、小石川区茗荷谷に住むイサム・ノグチの母レオニー・ギルモアの英語の個人教授を受けさせた。
1904年(明治37年)に狭心症で死去。満54歳没。彼が松江時代に居住していた住居は、1940年(昭和15年)に国の史跡に指定されている。
📕『幽霊滝の伝説』を読んだ。
明治の頃、鳥取県の黒坂に小さな麻取り場があった。ある冬の夜、女たちがいろりを囲んで怪談話に興じていた。話に興が乗るに連れて肝試しをしようということになり、黒坂の村から離れた山の中にある幽霊滝に行って賽銭箱を持ってくることになった。ところが誰も尻込みして名乗り出ようとしない。そこで賽銭箱を持ってきた者に、今日取れた麻をみんな上げようということになった。するとお勝という気の強い女が肝試しに名乗り出た。お勝は赤児を半纏にくるんでおぶり、幽霊滝へと向かった。冬の晴れて凍えるような夜空の下、山道を歩いて幽霊滝までやってくると、真っ暗な中にかすかに賽銭箱が見える。お勝が賽銭箱に手を伸ばすと「おい、お勝さん!」と咎めるような声が滝つぼの中から響いた。お勝は恐怖に立ちすくみながらも賽銭箱を取ると、またしても「おい、お勝さん!」と、もっと強く咎めるような声が響いた。お勝は後も見ずに走り去り、暗い道を駆けに駆けて麻取り場まで戻ると、賽銭箱を女たちに得意げに見せ、幽霊滝での奇怪な出来事を話した。お勝の勇気をたたえる声がわき上がった。ほっとしたお勝が赤児に乳をやろうと半纏を解くと、中から血にまみれた赤児の体が転がり出た。赤児の首はもぎ取られていた。
抽斗を見つけた。🗄
抽斗を開けた、何も入ってない。
もしかしたら犯人が盗んだのか?
11月12日午後3時、無量林から署に電話があった。
《司法解剖の結果、ガイシャの体内から
「鴆って確か鳥ですよね?」と、敬礼。
《大きさは鷲ぐらいで緑色の羽毛、そして銅に似た色のクチバシを持ち、毒蛇を常食としているためその体内に猛毒を持っており、耕地の上を飛べば作物は全て枯死してしまうとされる。石の下に隠れた蛇を捕るのに、糞をかけると石が砕けたという噂もある》
「随分と詳しいですね?」
《中国の歴史は奥が深い》
「鴆って中国の鳥なんですか?」
《『
「犯人は中国人なのかな?」
用事があるらしく無量林は電話を切った。
外回りから歌丸が戻って来た。
「興味深いことが分かったぞ」
歌丸がトレンチコートを脱いでハンガーに掛けた。
「六角若葉は昔、陰能印刷に勤務していた」
敬礼は少し考えてから言った。
「賃上げの為の人質として誘拐されたってことですか?」
歌丸は蛍が言っていたことを思い出した。
『更衣室に口裂け女がいたんです!』
若葉は口裂け女に食われてしまったのだろうか?
歌丸は幼い日に母親から聞いた話を思い出した。
口元を完全に隠すほどのマスクをした若い女性が、学校帰りの子供に 「私、綺麗?」と訊ねてくる。「きれい」と答えると、「……これでも……?」と言いながらマスクを外す。するとその口は耳元まで大きく裂けていた。
「きれいじゃない」と答えると包丁や鋏で斬り殺される。
ってことは口裂け女に対して、「ブスだね?アンタ」とか失礼なことを言ったのかな?
「歌さん、聞いてます?」
敬礼の声で歌丸は我に返った。
「なんだったっけ?」
「若葉は誘拐されたんですよ、きっと。今度は僕が泊まりに行きますよ」
「『自分は釧路署のモンだ』って言えばきっと泊めてくれるよ」
「『自分は西部署の大門だ』をパクったでしょ?蒲生が犯人である可能性もあります。ネット予約とか出来るかな?」
歌丸は『西部警察』に憧れて刑事になった。
翌日の午後2時、敬礼は奥さんの
ロビーで持主って客と意気投合した。彼は美容クリニックを経営してるそうだ。
「このまえ、ゾンビみたいな人間を手術した」
「その人の名前は?」
「記憶喪失で、名前も忘れていた」
「可哀想に」
「ところで敬礼さんは中国に旅行に行ったことはありますか?」
「韓国ならあります」
「中国と韓国、最近日本との関係は最悪ですね?」
「中国のどこに行かれました?」
「上海です。景色が最高だった」
敬礼は一瞬、持主なら鴆毒を操れるんじゃ?と、思った。
「上海に行ったときとんでもない妖怪に遭遇したんです」
「どんな?」
「猛禽類です。そいつのせいですごい風が起きて飛行機が止まったんです」
持ち主の話を聞き終え、太は
11月15日 - 俳優の菅田将暉と小松菜奈が、互いのSNSで結婚したことを発表。
午前5時、釧路港で中年の男性の遺体が発見された。
「遺体が発見されたって連絡もらったときは若葉じゃいかって期待しましたが」
敬礼は眠い目を擦った。連絡もらったとき、敬礼は雪菜と初デートしたときの夢を見た。3年前のクリスマス、札幌時計台に出かけた。現実では手を繋いだだけだったが、夢の中ではキスをしていた。
「着衣の乱れや、外傷なども見られない」
解剖室の前で無量林が説明した。死斑も見られなかったという。漂流中は体が回転し、体位が一定しないから、血流の沈下が一部分に集合定着しない。だから、死斑は出現しないと無量林は教えてくれた。
遺体は毒物検査も施された。毒殺後に遺体を水中に遺棄した可能性もあった。だが、毒物は発見されなかった。
「自殺で決まりだな」と、無量林。
解剖室の前はカーボンヒーターが置かれてポカポカしていた。
三吉神社で青い目の人形、ジョンは朗らかな気持ちでいた。塁玲音を葬ることに成功した。玲音は陰能印刷に勤務していた太を徹底してイジメだ。動きがトロいからと殴ったりした。さらに輪転機で指を挟む事故を起こしたとき、労災を許さなかった。労基署が立ち入ると、評判が落ちる。ジョンを焼いたり、遅刻を繰り返す玲音は仕事を切られる可能性があった。係長の羅漢隆太と示し合わせ、1万を渡して、太の胸倉を掴んで『労基になんか駆け込んだら、オマエの家燃やすからな?』と脅した。
太は口止め料で治療をしてボーナスも退職金も出ない工場でガムシャラに働いた。
うつ病を患った太は陰能印刷を辞めた。
ジョンは魂を浮遊させ、釧路駅前のバーで飲んでる玲音の耳元で「ヒトデナシ、シンデシマエ」と囁いた。幻聴に苛まれた玲音は埠頭から海の中へ飛び込んだ。
11月19日 - 16時30分頃から20時頃にかけて月食が観測される。最大97.8%の部分が欠ける部分月食となった。
羅漢は陰能を殺したことに苛まれていた。
函館山にあるコテージに身を隠していた。
北海道にはごみこさんって都市伝説が伝わってる。首のない女性の遺体に遭遇し、八つ裂きにされてゴミ袋に詰められるという。
鴆毒は
桂林市は中華人民共和国広西チワン族自治区に位置する地級市。珠江の支流である漓江に沿う街である。カルスト地形でタワーカルストが林立し、美しい風景に恵まれ、世界的な観光地である。
秦の始皇帝が築いた運河である
陰能は血も涙もない人間だった。
最近設立された派遣会社『ブルース』の人間を雇う代わりに、昔馴染みの正社員が不要になった。
『羅漢……塁たちを会社から追い払ってくれ』
社長室の革張りソファで爪を切りながら陰能は羅漢に命令してきた。
『塁たちが何したっていうんですか?』
『遅刻は繰り返す、新人を次から次へと辞職に追い込む。あんなゴミは必要ないんだろ?それとも代わりにおまえが辞めるか?』
係長になるのには血を吐くような苦労をした。父親が癌で亡くなったときも葬式にも行けず、母親からヒトデナシと詰られた。
若葉、玲音、持主、すず、歌丸……5人の人間の人生を羅漢は奪った。
陰能に脅迫状を送ったのは羅漢ではない。
今いる社員の誰かだ、もしかしたら『ブルース』の奴らかも知れない。
麓にあるスーパーに買い出しに出かけた。夕飯のシチューの具材を買って、駐車場に戻るとジープに『死ねよ鬼』と真っ赤なスプレーで落書きされていた。
帰る途中、ワンボックスカーに煽られた。フロントガラスにスモークフィルムが貼られてあったので、運転手の顔は分からなかった。
もしかしたら若葉の遺族かな?
彼女は仕事を切られたことを恨んで、毒や覚醒剤の隠し場所として使ってる廃校内でナイフで襲いかかってきた。
ナイフを奪って腹を刺して若葉を返り討ちにした。遺体をドラム缶に入れて特殊な薬で溶かした。
事故に遭う前に別荘に戻ろう。粉雪が舞いはじめていた。いつもより慎重に運転する。
コテージの駐車場にジープを停め、歩いていると背中に鋭い痛みを感じた。
恐る恐る後ろを振り返ると、黒いコートを羽織りフードを被った男が立っていた。手には先端に丸い筒を装着した銃を握っていた。丸い筒は銃声を掻き消すサイレンサーた。
おっ、おまえ誰だ?と言おうとしたが言葉にはならず、胃の奥から熱いものが込み上げた。
太は吐血した羅漢を笑いながら見ていた。
「痛いか?羅漢……」
太は、白くなりはじめている土の上で痙攣してる羅漢をサッカーボールみたく蹴った。
コイツのせいで精神安定剤を服用するようになった。安定剤には倦怠感やめまいといった副作用を伴う。副作用に襲われる度、殺意は増幅した。
やがて、羅漢は事切れた。
太が倒すべき標的は残り5人となった。
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