第8話 呪いの数字
2010年12月24日
釧路郊外にある『オリオン』というホテルの一室に馬酔木を含めた4人の男たちがいる。
着用すると繭のように丸みを帯びたシルエットになるコクーンコートを着た
部屋の内装は黒で統一されており、灯りは部屋の中央のテーブルに銀の燭台で置かれた大きなロウソクのみで幻想的な雰囲気を漂わせている。これは退屈な日々に飽きて「異常な興奮」を求めている男たちの集まりであった。
ドアがノックされて新入会員、
彼は、縁取りの飾りを施したトリミングコートを着ている。
「変わった名前ですね?」と、馬酔木。
「青森にある変わった名前なんです」
悪虫は自分がいかに退屈な日々を送っていたかと前置きした上で、人殺しの興奮によってそれを解消したと話す。悪虫は女や子供も含め既に14人の命を退屈しのぎで奪ってきたと語り、しかしそれにも既に飽きて覚醒剤で気を紛らわす状態に陥っており、その毒で正気を失う前に、自分のしてきたことを誰かに話しておきたいとして、以下、悪虫の独白が続く。
始まりは3年前のある夜。悪虫が自宅近くの道を歩いていると、富豪と思わしき老人を轢いてしまった自動車の運転手に出くわし、そこで医者の家を尋ねられる。近くには専門医と藪医者の2件があったが、悪虫は他意なく藪医者の方を伝えてしまった。翌日、昨夜の出来事を後悔すると共に老人は死んだという話を聞く。
ここで悪虫は、もし意図的に老人を殺そうと嘘を教えたのなら、これは明白に殺人であるが、しかし、それで自分が罰せられることはないと考察する。ここから悪虫はこれを利用して殺人を繰り返し、日々の退屈を紛らわしていたと語る。
例えば整備不良の車に自分の首を切り捨てた社長を乗せて事故死させる。地盤沈下が起きてる道にハゲであることを嘲笑った叔母を案内し死なせた。蜂がたくさんいる森に、スーパーでカートをぶつけてきたガキを誘導しアナフィラキシーショックで死なせた。このような話をいくつか繰り返した後、最後には昨春に起こった大規模な列車の脱線事故も自分の仕業だと言い、不作為に見える事故によって14人を殺したことを嬉々として語り終える。
「15人殺すことで私の作品は完成する」
「何故、15人なんですか?」
猫屋敷がスマホをいじりながら喋った。猫屋敷は岩手の珍名だ。
根城と妻神は青森の珍名だ。
「私は15歳のときに酷いイジメに遭いましてねぇ〜、15ってのは呪いの数字ですよ」
馬酔木を含めた他のメンバー達は彼の話に聞き入り興奮している。そこに飲み物を運んできたメイドが部屋に入ってくる。すると突然、悪虫はピストルを取り出し、女を撃つ。女性の悲鳴が部屋に響き渡り、驚いた私たちは椅子から立ち上がるが、すぐにそれはおもちゃのピストルで悪虫のイタズラだとわかる。女性は血糊を使って演技してみせたのだった。
悪虫は謝りつつ、今度はピストルを彼女に持たせ、自分の胸を撃つように指示する。彼女が発砲するが、先ほどとは違う銃声が響き、悪虫は倒れてうめき声をあげ、血溜まりができている。唐突な出来事に再び私達は驚愕し、2発目には本物の銃弾が装填してあり、悪虫は自殺を遂げたのだと判断する。これは事故であってメイドが罪に問われることはないし、まさに15人目の犠牲者を自分にして締め括ったのだ。
すると悪虫は忍び笑いをしながら立ち上がり、先ほどまで狼狽していたメイドは笑い転げている。すべて初めから悪虫の芝居であり、彼は最初から全部作り話であったと明かした。
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