第6話 雪女

 9月13日 - 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンの2回目接種を終えた人が全人口の50%を超えた。政府は10月から11月の早い時期には希望者全員の接種を完了する方針を示している。


 太にはワクチンとか必要なかった。足もあるし顔もあるから、幽霊だとは思っていないのか、釧路駅近くのラーメン屋でQRコードを照射し、瀕死状態の勇者を回復させてると、老婆が「コロナでたくさん人が亡くなってるんだ、マスクしなくちゃダメだよ」と言って来た。

 不織布マスクを老婆からもらった。息苦しいんだよな?いやいやながらマスクをした。

 カツオだしベースのスープに縮れ麺がマッチしてる。


 昼飯を終えると、太は湿原展望台にやって来た。西洋の城みたいだ。タンチョウの一生を表した展示物やミュージアムショップがある。大学時代によく、蛍とよく展望台で夢について語り合った。

『妹を子供の頃病気で亡くしてね?だからお医者さんになりたいな』

 結婚を夢見ていたが、印刷屋、学習塾、食品工場を転々とした挙げ句捨てられた。蛍は山形市出身だ。


『仏の顔も三度までってよく言うよね?もう、別れましょう』

 彼女を殺すのはやめよう。

 バチが当たって、12人殺しても成仏出来ないかも知れない。展望台から350m程度歩く木漏れ日広場になっているので休憩した。

 木漏れ日階段を200m程度上がるとひだまり広場になっていた。アプリを起動させた。

 🧙‍♂『近くに雪女が潜んでる。コイツを着るんだ』

 脇役である魔法使いが兜を勇者に渡した。

 さらに300m程度歩くとタンチョウ広場に辿り着いた。

 タンチョウはこっちではよく見るからあまり驚きはしない。

 魔法使いはさらに鎧を勇者に授けた。

 350m程度歩くとサテライト展望台になっていた。1時間かかった。

 電脳の雪女が現れた。妖怪を倒すと辞典を手に入れた。勇者は火炎の魔法を操れ、雪女を秒殺した。

 📕山形出身、雪の夜に老夫婦のもとを訪ね、囲炉裏の火にあたらせてもらうが、夜更けにまた旅に出ようとするので、翁が娘の手をとって押し止めようとすると、ぞっとするほど冷たい。と、見る間に娘は雪煙となって、煙出しから出ていったという。また、姑獲鳥との接点も持っており、吹雪の晩に子供(雪ん子)を抱いて立ち、通る人間に子を抱いてくれと頼む話が伝えられる。その子を抱くと、子がどんどん重くなり、人は雪に埋もれて凍死するという。頼みを断わると、雪の谷に突き落とされるとも伝えられる。

 太はふと、蛍のことを思い出した。

 サテライト展望台からは蛇行する釧路川が見下ろせた。 


 9月17日

 台風14号が福岡県福津市に上陸した。過去に九州に台風が上陸した事例は数多く存在するが、福岡県に上陸したのは1951年の統計開始以来史上初のことである。また、これによって九州地方の各県に台風が上陸していないのは佐賀県のみとなった。


 北海道釧路市の桂恋漁港で赤潮が確認された。その後、根室市から様似町沖合にかけて広範囲で発生。10月6日までに、秋鮭やサクラマス、ウニなどで漁業被害の影響がみらており、道では最大級の赤潮被害に陥った。


 合田順は夜更けの工場の冷凍庫にいた。

 扉が突然閉まって、鍵がかかってしまった。

 雪女の仕業だろうか?

「助けてくれー!」

 扉をバンバン叩いたが、誰も来なかった。

「親父ィッ!親父ィッ!」

 順は急に手足を温めたことが原因で、一気に心臓へ負担が掛かってショック状態に陥ってレスキューデスにより死んだ。


 9月18日早朝

 松平は現場の状況を見て、雪女の仕業じゃないか?と本気で思った。他の社員はおろか、合田在助すら工場にはいなかった。タイムカードや防犯カメラから知り得たことだ。

 松平は覆面パトカーに乗り込み、後部座席に座った。

 運転席にいる後輩の敬礼一樹けいれいかずき巡査部長は、「内部に誰かが隠れていたんじゃ?」と怯えた様子だった。

「さぁな?早く出せ」


 夕方、太は自宅でニュースを見ていた。

 合田順が死んでしまった。

 生臭いホルモンの匂いを思い出した。 

 牛の胃袋、ハチノスをタワシで洗うと真っ黒な消化液が出る。太はよく、順から殴られていた。

「使えねー!早く仕事しろよ!」

 社長の合田在助はタバコを吸えない太に、「だからゆとりはダメなんだよ。吸い殻始末しとけよ」と業務と関係ないことまで命じてきた。

 また計算外なことが起きた。  

 順、それから蛍に変わる生贄を探さないとな?

 

 

 

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