第6話 大会の結果と
「あの男の子、勝ったのか?」
「順調に勝ち上がってるよ」
「次は、決勝戦だ」
「凄い度胸だよ」
「腕前もスゴイぞ」
「やっぱり彼が優勝するかな?」
「どうだろう。あのゲームマニアが順調に勝ち上がってるからな」
「決勝戦の相手は今井さんか! これは、どっちが勝つか見ものだぞ!!」
運良く勝ち上がることが出来た僕は、決勝戦まで辿り着いてしまった。こんなにも勝てるとは思っていなかった。これは、他の人よりもゲームの知識が豊富だったからだと思う。前世のゲームに関する知識と経験があったからこそ、他の人よりも優位に立てた。だから、ここまで勝てた。
格闘ゲームというものが、またまだ黎明期の時代だからこそ。対人間のテクニックが磨かれていなかった、僕は勝てたんだと思う。
「青木くん、次の試合の準備は良いですか?」
「はい。大丈夫です」
「それじゃあ、お願いします」
決勝戦が行われる時間となった。観客も大勢いて、筐体の周りを囲んでいる。その大人たちが、大会の優勝者を決める戦いを見守っていた。
対戦相手は、40代ぐらいのスーツを着た男性だった。身長が高く、立派なひげを生やしている。ギラついた目をして、とても雰囲気のある人だった。そんな人が僕の顔をジッと見つめてくる。プレッシャーが凄い。
「対戦よろしく」
「よろしくおねがいします」
試合前に、握手を交わす。ハキハキとした言葉で、ガッチリとした鍛えられた手で握られた。見た感じスポーツとか得意そうだ。ゲームとか興味はなさそうな見た目の人だったから、少し意外だと思った。スーツ姿だし、どこかの社長さんと言われても違和感がない。
そんな人が、僕の対戦相手だった。
自分の席に座って、対戦を開始する。僕はトーナメントで今まで勝ち上がってきたキャラクターを選択する。相手も同じキャラクターを選択した。
ミラーマッチ、同キャラ対戦だ。これは気合が入る。
戦いが始まり、しばらく相手の動きを観察する。相手は速攻で距離を詰めてきて、攻撃してきた。ガードすると、相手は上下段を使い分けて巧みに攻撃を繰り返す。
今までトーナメントで戦ってきた相手とは、レベルが違う。
一旦めくって、相手の裏に回って距離を取ることにする。相手が振り向き、果敢に攻めてくるところをカウンターを決めて怯ませる。
「おおぉ!」
「すげえ、画面の隅に追い詰められていたのに。少年が上手く逃げたぞ!」
「しかも、カウンターを決めたわよ」
「いやでも、今井さんの方が手数が多いから優位かもしれないぞ」
「レベル高ッ!」
会場が盛り上がるのを背中で感じながら、ゲーム画面に集中する。
相手は、攻めの姿勢を止めない。パンチとキックの攻撃を何度も繰り返してくる。単純だけど厄介。これ以上、相手を勢いに乗せたら負けてしまうかも。だから僕も、観察を終えて攻撃に移行する。
「少年が本気を出した!?」
「うっま」
「どんどん体力が削られていってるわ」
「あ」
「決まった!?」
画面にK.O.の文字が表示されて試合が決まった。1本目は、なんとか勝てたか。でも、相手は何か奥の手を隠しているかもしれない。油断せずに行こう。
そして始まった、二本目の試合。
相手は攻めの姿勢から一転して、今度は距離を取ってきた。なので次は僕から攻撃を仕掛けてみる。
僕の攻撃は上手くガードされる。上下段を使い分けて、相手に攻撃し続けてみる。先程の試合と比べて、攻めと守りの立場が逆転していた。
攻撃の中に投げを織り交ぜる。ガードを崩し、ダメージを与えることに成功した。そこからは、相手との読み合い。攻撃をガードするか、上段か下段か、投げの警戒。
意外と簡単に攻撃が当たる。どうやら、相手は読み合いが苦手なようだ。一方的に攻撃が通った。画面の端から逃げようとするけれど、それを許さない。ジャンプしたタイミングでハイキックによる対空攻撃。無理やり地面に落として、無慈悲に攻撃を続行する。
「うわ、エグ」
「逃げられないよ」
「一方的だわ」
「すげぇ。あの今井さんを、あそこまで圧倒するなんて」
「これは、決まったね」
「うん。決まった」
試合が決まった。一方的に攻撃を続けて、相手から攻撃を受けずにパーフェクトで勝ってしまった。これはちょっと、やり過ぎてしまったかも。
画面の端に追いやり、逆サイドへ逃げられないように攻撃し続ける。脱出不可能なハメ技というわけじゃないが、対処法を知らないと逃げるのが難しい。
「いやぁ、凄く強かったね君!」
「え、あ、どうも」
やりすぎたと反省する僕だったが、対戦相手は満足そうな笑顔を浮かべながら僕の腕前を褒めてくれた。とても良い人だった。
「おめでとー!」
「スゴイぞぉ!」
「お前は強い!」
「若いのに、やるわねッ!」
「ど、どうも……。ありがとう、ございます」
その後、表彰式が行われた。参加者や試合を見守っていた観客たちから声援や拍手で祝福されながら、僕は優勝賞品を受け取った。
まさか自分が優勝するとは、少しも思ってなかった。だが、優勝出来てしまった。大会で優勝するなんて、前世の記憶を遡ってみても初めての経験デアぐ。
正直、とても嬉しい。何度でも味わいたくなるような喜び。
大会が無事に終わって満足した僕は、そろそろ自宅に帰ろうかとゲームセンターの出入り口を目指して歩き始めた。すると、僕の目の前に誰かが立った。
「青木くん。ちょっとお話、いいかな?」
僕の名前を呼んで立ちふさがったのは、決勝戦で戦った相手だった。
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