第4話 店員が見た少年
ゲームセンターの店員が、次に開催予定の格闘ゲーム大会に関するチラシをお客に配っている最中の出来事である。
若い男の子が店内を訪れた。見た目は中学生か、もしかすると小学生かもしれない年頃。連れは居なくて、彼1人だけ。端正な顔立ちに物静かで大人しそうな雰囲気の子だった。
店員は珍しいと思った。ゲームセンターを訪れるのは、ほとんどが大人だっから。家庭用ゲーム機が発売されて以降、子供たちは主にそっちで遊ぶようになっていた。大人たちは、PCゲームやアーケードゲームなどを中心に遊ぶように。
大人と子供で差別化されたのだ。そして今、ゲームセンター内に居るのは大人たちばかり。子供の客は彼だけである。
そんな大人たちばかり居る店の中に1人で訪れるなんて、見た目に似合わず度胸があるのか。
そんなことを思いながらゲームセンターの店員は、とある事情があって彼の様子を注意深く観察し続けた。
店内を見回してから、どれをプレイするのか決めたのだろう。少年は、一つの台に近寄っていく。ゲーセン椅子に腰を下ろして、彼は硬貨を投入した。
プレイを始めるまでは慣れた感じだったけれど、選んだキャラクターは初心者用。そして、操作もぎこちない。どうやら技を出すためのコマンドが分かっていない様子で、レバーとボタンをガチャガチャとやっていた。
一応、プレイヤーのためにゲームの説明書であるインストラクションカードというものを筐体の横に置いてあった。少年は、それを見ないでゲームを始めてしまった。
まだ若い彼は、やっぱりゲームセンターを訪れるのは今回が初めてだったのかな。それならすぐゲームオーバーになってしまうだろうと、店員は近い未来を予想した。
だが店員の予想に反して、少年は次々と敵を倒してステージをクリアしていった。キャラクターの操作が、猛スピードでどんどん洗練されていく。
そして少年は、難敵と呼ばれている四天王たちをあっさりと撃破してしまった。
少年のプレイを後ろから眺める見物人たちが次々と増えていく。その格闘ゲームは1ヶ月ほど前に導入したばかりだったので、エンディングまで到達したプレイヤーがまだ指で数えるほどしか居なかった。
しかもクリアした者たちは全員、コンテニューを繰り返してなんとか最後のボスに辿り着き、苦労しながら倒していた。ワンコインでラスボスまで到達した者は今まで居なかったのである。
ノーコンティニューでラスボスを倒し、ゲームをクリアする。初の快挙が見られるかもしれないと、固唾を呑んで少年のプレイを凝視する観客たち。
そしてとうとう、ノーコンティニューでゲームをクリアしてしまった。観客たちが歓声を上げるのも無理はない。だけど、その騒ぎを見て店員は注意した。騒ぎすぎて少年を困らせているから、と。
見物人たちを追い払った後、店員は少年に話しかけた。
「大丈夫かい?」
「は、はい。えっと、大丈夫です」
先程までスーパープレイをしていた少年は、怯えながら答えた。その様子を見て、店員は警戒されないようにさっさと離れたほうが良さそうだと判断した。けれども、彼のような凄腕プレイヤーを見逃したくはない。
そこで店員は、次の大会に彼が参加してくれるようにと仕向けた。
「実は、次の休みにココで大会を開くんだよ。よければ君も参加してみないかい? 多分、優勝出来ると思うよ」
「えっと」
これ以上は怖がられるかもしれない。今は焦らず、彼が大会に参加してくれることを願って離れるべきだろうな。そう考えた店員は、会話もそこそこに急いで少年から離れた。
その後、店員は少年がゲームをプレイしている様子を離れた所からチラ見しつつ、他の客たちが彼に絡まないようにと見張っていた。
少年は最初、どのゲームもプレイすると最初の方は動きがぎこちなかった。多分、プレイするのは初めてだということが分かる。しかし、プレイしている間にどんどん動きが洗練されていく。驚異的なスピードで、少年はゲームを攻略していった。
格闘ゲームだけでなく、シューティングやアクションゲームなどジャンルを問わずどのゲームも瞬時に上手くなる。
彼はゲームに対する理解力がずば抜けて高いのだろうと、店員は思った。
やはり、強引にあの話をするべきだったか。でも怖がって逃げられてしまったら。店員が悩んでいる間に、少年はゲームセンターを出ていった。
仕方ない。後はもうあの人に任せればいいかと店員は、お客からは見えないようにバックヤードへ引っ込んでから、とある人物に電話をかけるのだった。
「
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