第3話 初めてのゲームセンター
中学生になった。
相変わらずゲーム三昧の日々を送っているのだが、今日は外へと出かけることに。中学生になったということで遠出しても良いと両親からは許可を貰ったので、今まで行かなかったゲームセンターに行ってみることにしたのだ。
家庭用ゲーム機でも十分に楽しい。けれども、アーケードゲームでしか味わえない面白さもある。だから今日は、その楽しさを求めてゲームセンターへと向かう。
「わぁ」
生まれてから初めて訪れたゲームセンター。けれど、とても懐かしい気持ちに声が漏れた。
フロアにズラリと並ぶ筐体。大きな画面で流れる映像の数々にワクワクした。
見渡してみると、不良とかは居ないみたいだ。この時期のゲームセンターは不良のたまり場というイメージが強くて、来るのがちょっと怖かった。でも見た感じでは、そういう人は居ないので大丈夫そう。照明も明るくて雰囲気が良い。
だけど油断せずに、絡まれそうになったら逃げることを強く意識する。そして僕は筐体の一つに座って硬貨を投入した。
ジャンルは格闘ゲーム。どうやら今、ゲームセンターでかなり流行っている最新のタイトルらしい。アーケードのゲームを専門に扱っている雑誌で、ざっくりと情報は調べていた。やっぱり既視感のあるゲーム。だけれど知らないタイトルだったので、プレイするのは今回が初めて。初めてプレイするゲームに心が弾んでいる。
久しぶりに触った、上部に丸いグリップの付いたレバーと6ボタン。
左手の小指と薬指の間にレバーを挟んで手のひらで包み込むようにしてグリップを握る。そして、右手の人差し指と薬指でいつでもボタンを押せるように待機させる。コマンドを入力するときに、タタンとリズムよく叩けるように。
ゲームが始まり、画面にキャラクター選択が映る。このゲームは初めてプレイするので、どのキャラクターのコマンドも分からない。とりあえず適当に、このゲームのメインだろうオーソドックスなキャラを選んでみた。
ステージ1が始まったので、とりあえずCPUと戦いながら技のコマンドを確認。こう入力してみたら技は出るかな、というのを試してみたらなんとかなった。
特殊技と必殺技、投げ技などのコマンドを見つけて入力を繰り返し、練習する。
コマンドを確認している間に敵を倒して、ステージはどんどん先へと進んでいく。あっさりとボスのステージに到達。ガードやカウンター、対空の確認もしていると、CPU相手だから簡単に勝ててしまった。
もう一回やるか。そう思っていると。
「「「「「わぁぁぁぁぁあああ!!!」」」」」
「うえっ!?」
背後からいきなり大歓声が沸き起こり、僕はびっくりした。振り返ると、そこには何十人もの大人たちが居た。どうやらプレイする様子を見られていたようだ。対戦に集中していて気付かなかった。というか、なんでこんなに騒がれているのか。
僕は席から立ち上がった。だが、周りを囲まれていて移動できない。あちこちから視線を向けられる。しかも、話しかけられた。
「スゴイな君! 1回も負けずに勝つだなんて!!」
「リュラのやつ、本来はあんな雑魚じゃないはずなのに」
「それより、リュラのスライディングキックを簡単に捌くなんて凄すぎるわ」
「さっきの技、どうやったんだ!? コマンド表にも載ってないじゃないか」
「え、えっと……!?」
興奮した大人たちの集団に取り囲まれて、僕は戸惑う。珍しいことに集団の中には男性だけでなく、女性も居るのが気になった。それと、必殺技のコマンドが載ってるインストカードもあったのか。それはとにかく、ここから逃げないと。こんなに注目されるなんて思わなかったから。
「おい! お前ら、少年が困っているじゃないか! ほら、散った散った!」
男性の怒声がフロア一体に響き渡った。僕を取り囲んでいた大人たちの視線が声が聞こえてくる方に逸れて、少しだけ落ち着いた。
「えー!」
「ちょっと話を聞くだけだからさぁ」
「駄目だ! これ以上ウチで騒ぎを起こすと、出禁にするぞ!」
「もう、わかったわよ!」
「ケチ」
「ちょっとぐらい、いいじゃんかよ」
ぶつぶつと言いながら、僕を取り囲んでいた大人たちが離れていった。よかった。
「大丈夫かい?」
「は、はい。えっと、大丈夫です」
別に危害を加えられたわけじゃないので、僕は頷いて大丈夫だと伝えた。男性は、胸元にSTAFFと書かれた青色のシャツを着ている。おそらくゲームセンターの店員なのだろう。
「君、すごい腕前だね。ワンコインでボスを倒すなんて」
「いえ、それほどでも……」
CPU相手に勝っただけだから、あまり誇れるようなことじゃないと思う。けれどコミュ障が発動して、その説明は出来なかった。
「実は、次の休みにココで大会を開くんだよ。よければ君も参加してみないかい? 多分、優勝出来ると思うよ」
「えっと」
はい、と男性にチラシを渡されたので受け取る。そこには大会の日時と優勝賞品が書かれていた。優勝すれば、100回無料ゲームプレイ券が貰えるらしい。
「まぁ、参加するかどうか考えてみてよ。それじゃあ、引き続き楽しんで」
「え。あ、はい」
そう言って、返事も待たずに男性店員はさっさと離れていった。気を遣ってくれたのかな。
しばらくして落ち着いた僕は、別の筐体を遊んでみることにした。シューティングゲーム、アクション、他にもいくつか。
しかしその後、プレイしている最中に周囲から向けられる視線が気になるようになってしまった。集中できなくなった。
ゲームで遊んでいると、話しかけてはこないけれどチラチラと見られているような気がする。結局、1時間もしないうちに家へ帰った。
予想外な出来事が起こったけれどアーケードゲームは面白かったので、まぁ良しとする。
そして、紹介されたゲーム大会に参加するかどうか。僕は迷った。
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