第三話①

 動物園のサルでも1週間もすれば、みんな飽きてくるらしい。

「美少女じゃなくて残念な、中3の今頃になってやってきた転校生」というサルが入った見世物小屋は、中学最後の体育祭や受験勉強に忙しい中学3年生にとっては、それほど価値はない。まあ、当然といえば当然だ。


 けれど、それはあたしにとっては、けっこう好都合だった。あたし自身、友達とワイワイやることは好きだったし、友達を作ろうとしない唐変木とうへんぼく、というわけでもないけれど、なんと言っても転校してきた理由が、おおっぴらにできないものだから、積極的に友達を作ろうという気になれない。

 ソノザキさんに理由を聞かれたときは適当に言葉を濁したけれど、あの時はかなり焦った。


 だって。父親から逃げているだなんて、言ったってしょうがないことだから。



 さして興味を持たれないことをありがたいと思う一方で、「仲の良い友達を作らないように努める」というそれは、裏を返せば、よく知らない場所では圧倒的不利であるということをあたしは自覚していなかった。


 転校してから1週間ほどたってから、9月の下旬にある体育祭の準備で委員会の集まりがあることを知った。

 なんの係をやるのかは、もう夏休み前から決まっていたみたいで、あたしは、動き回ることの少ないという保健委員に入れられた。学校に慣れていないからという先生の配慮だろうか。

 別に、委員会があることに対してはなんとも思わない。やれと言われたことに、反抗してやる!なんてお子様みたいなことはしない。問題は別にあった。


 その日の5時間目は、各委員会の事前説明会を行うということで、様々な教室に移動しなければいけないらしい。

 そう、移動教室。問題はこれだ。


 転校生にとって最難関なんじゃないかと思う。

 普通の授業での移動教室では、あたかも「あら、学校のことなら熟知していますよ〜ふふん」といった表情で、同じクラスの子についていけばいいのに、あいにく本日の移動教室の前の時間は昼休み。そもそも生徒の半数近くは教室にはいないし、残っている人も、あたしと同じ場所に行くとは限らない。人の流れに流されて、どこかもわからない教室で「あれ?あなた、ここの教室であってる?」と悪目立ちして、陰で笑われたり噂されたりするのは避けたいところだ。


 そう思って、廊下の掲示板に貼ってあった集合場所のプリントをじっくりと見つめた。

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