第二話

「転校生だ。みんな短い期間になるが、仲良くしてくれ」

 夏休み明けに、名前が書かれた黒板の前にバカみたいに立った私を、クラスメイトとなる人たちは、やっぱりバカみたいに白々しい顔であたしのことを眺めていた。

「中3の2学期から転校なんて、どうかしてるよね」

 教室の隅に固まった女の子たちのヒソヒソが聞こえた。残念なことに、あの子たちはあたしが地獄耳だってことを知らない。ぜーんぶ聞こえてるっつーの。

 そう思うものの、口にはしない。見ず知らずの相手しかいない場所で喧嘩をふっかけるほど、あたしだってバカじゃない。


 休み時間になると、教室の隅でヒソヒソと話していた女子が近づいてきた。目鼻立ちがくっきりとした女子で、立派なお胸周りと校則のギリギリを攻めたスカート丈からはみ出る足などからスタイルの良さが伺えた。

 きっとモテるとかそういうんだろうな、などと考えていると、その後ろにも、2、3人の女子が面白そうに、そしてなぜか偉そうにこちらを見ていることに気がついた。スタイルの良い先頭の女子がリーダーだとしたら、くっついている後ろのやつらは子分だろうか。

 リーダーと思しき女子はあたしに近づくと、お決まり文句を投げかけた。

「ねえ、サノさんはどうして転校してきたの?」

 名札を見ると、園崎とあった。たぶん、この子、クラスの裏のボス的な何かに違いない。いい子なんだろうけど、自分の影響力をあまり自覚してないタイプ。後ろで、偉そうにする子分たちがちょっとうざい。


「え?…あ、ああ…親の都合で」


「そっか、転勤かあ。あ、私、マドカ。ソノザキマドカっていうの。それにしても、娘の都合も考えろって感じじゃんね。向こうで受験することも考えてたんでしょ?」


「あ、うん、まあ」


 あたしの煮え切らない返事に、相手は変な顔をした。これ以上話をしていても面白く無いと思ったのか、ソノザキさんは「ふうん、ま、よろしくね」と言って去っていった。

 後ろの子分たちは、何を期待していたのかはわからないけれど、なんだかとっても残念そうな顔をしてソノザキさんの後を追っていった。いったい何を期待していたのやら。


 彼女たちが去った後も、教室の窓から「中3の今頃になってやってきた転校生」に興味を持った他のクラスの人たちがチラチラと教室を覗きにきた。そして、とりわけ美少女でもなんでも無いことがわかると、見るからに残念そうな顔を貼り付けて引き返していった。

 なんだか動物園のサルになったような気分で、とっても疲れた。

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