第五話①
その後のお話です。
私は両親を説得して、毎朝神社へお参りに行きました。
はじめ、ふたりとも
朝早く起きることは、小学生にとって辛いことでした。
けれども、いつものように、朝布団の中でぐずぐずしていると、イマミヤくんの「カンザキ、おっそー!」という声が聞こえてくるような気がするのです。おかげで毎朝飛び起きました。
大人になってからみてみると、ある意味、執念としか思えません。
およそひと月後の運動会は、私の大満足のうちに終わりました。私自身、記憶力にいまひとつ自信は持てませんが、かけっこで負けた悔しさで泣き叫んだ記憶は後にも先にもあの測定の際の一度きりでしたから、きっと大負けはしたことはないのでしょう。
ひと月にわたる特訓は、如実に成果を出していました。
男女混合で行われる小学校低学年の50m走を、ぶっちぎりの1位で獲得したのです。男女混合、そして名字があいうえお順の出席番号で私とイマミヤくんは幸か不幸か同じグループでした。
ひと月前「カンザキ、おっそー!」と囃し立てた彼は、ゴール付近の時点で、もうすでに泣きそうな顔だったようです。そして、泣くまいと涙を必死に堪えながら私のお隣、2位の列に並ばされていたのを私はなんだか複雑な気持ちになりながら見ていたのを覚えています。
けれども、高校生の運動部が時たまトレーニングに使う場所を、小学生が毎日訪れていたのですから、そりゃあ体力も脚力もつくはずです。
それに私は学校、父は会社がありましたから、のんびり歩くわけにいかず、はじめはゆっくりのペースでもひどく疲れましたが、だんだんと早足で歩けるようになり、そして最終的にはジョギングで神社へのお参りをすることができるようになっていたのです。
いつの間にか、私は学年指折りの「足の速い子」になっていたようでした。残念なことに、私の人気はそれ以前とあまり変わらず、つまりは、あの「足の速い子はモテる」という都市伝説には当てはまりませんでしたけれども。
50m走が終わってから、その後の運動会が行われているあいだ中、イマミヤくんはずっと悔しそうに口をへの字に曲げていました。ただ負けて悔しかったのではないのでしょう。ついひと月前に自分よりも圧倒的に足が遅く、バカにしていた女の子に運動会という見せ場で抜かされてしまったのですから。
せっかく美しい秋空だというのに、せっかく勝ったというのに、近くで観戦している私までずーんとイマミヤくんの頭上に立ち込める黒い雲のような雰囲気に飲まれてしまいそうでした。
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