第三話①

           三


 突然、びゅーっと風がふき、学校を取り巻くようにして植えられた木が一斉いっせいにざわざわと葉をらしました。あたり一面、ヒュルルッと砂埃すなぼこりが舞い、私の目にも入ります。


「目が!目が!すな!入ったったっ!」


 うわあ、と一人で勝手に騒ぎますが、ここは校庭のすみっこ。

あたりには誰もいません。むなしさだけが残ります。

 痛みとむなしさをごしごしと目をこすって、ちょっとした涙とともに流しさったあと、ようやく私は目を開きました。


 痛いのか悔しいのかわからないまま涙目になっていた私の視界に、先ほどまで誰もいないはずの校庭の隅に、人影が見えたような気がしました。

 誰かしら、と私がゴシゴシと涙をぬぐい去る一方で、その人影はキョロキョロあたりを見回してなつかしそうに目を細めています。どうやら、私の姿には気がついていないようでした。


「あ、ここまだいていたんだ…本当に変わってないなあ」

 なにやら、ひとりごとまで聞こえてきます。


 誰だろう、さっきまで誰もいなかったはずなのに。

 私は、当時の幼子おさなご特有の天真爛漫てんしんらんまんさを全開にして、首をかしげました。


「おじさん…だあれ?」


 そこには、見知らぬ男の人が立っていました。


 ***


 小学校というのは、子供達にとっての学びであると同時に、社会の様々な弊害へいがいから守るシェルターです。

 このように堅苦かたくるしく述べてしまうのは、ずいぶんと前に書いた大学のレポートが影響しているからでしょうか。


 ともあれ、当時小学生だった私にとってそれほど重要とは思えませんでしたが、今となってしまえば、学校の門以外に人の出入り口があるというのは、ずいぶんと危険なことだと眉をひそめてしまいます。

 このようなことを考えるようになったのは、やはり私が子どもであった立場から、子どもの面倒めんどうをみる立場になったこともあるのでしょう。

 きっと現在では、十分に管理されていることでしょうから、こうしてくどくどという必要はないのでしょうが、けれども、万が一のことというものは、万が一よりも高確率で起こるのです。


 単刀直入に言います。

 小学校に不審者がやってきました。

 侵入経路は破れた校庭グラウンドのフェンス。


 そして、そこには幼き日の私がいました。


 今にして思えば、あの日、私は何かしらの事件に巻き込まれていても仕方のない状況にいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る